第22話

 肩をひいてきた人物について行くと地下に案内された。


 ランタンの明かりを頼りに進むその背中を追いかける。


 道幅は狭く、天井も低い場所があり、しゃがみながら移動していく。


 洗い削り出しだが横道も作られていて、この国では地下も発展させようとしていたのかもしれないな。


「着いたか……」


 急に立ち止まったので、ぶつかりそうになってしまった。


 着いたのか?


 だけど一段と狭い通路で立ち止まってるだけで、何もなさそうだ。


「ここに何かあるんですか?」


「扉があるはずなんだ……。少し待っていてくれ」


 そう言って前方の人物は壁を触り始めた。


 その奥でルシアを抱えたままの人物も明かりを左右に揺らして、探し始める。


 カチッっと音が響き、岩壁が開いていく。


 凄い技術だな……。


「ここで間違いないようだな。もう少しだ、着いてきてくれ」


 この口ぶりからして、そこまでこの場所について詳しくないのか?


 それに、やっぱりこの声に聞き覚えがあるんだよな。


 フードのすき間から見える横顔は、この暗さでは確認できない。


 徐々に距離が離れていってしまって、慌てて追いかける。


 そこから石でできた階段を上り、ようやく明るい開けた空間に出た。


「え? 城の中?」


 出てきた場所は間違いなく、チルノと会った広間だ。


「来たわね。ご苦労」


「もう、放しなさいよ! チルノ、貴女の差し金なの?」


 もがいて自由を得たルシアが、奥の階段から降りてきたチルノに詰め寄る。


「差し金って、酷いわね。助けてあげたのに」


「えっと、どうしてここにいるんだ?」


 俺はそんな二人のやり取りを横目に、隣に立つ人物にそう声をかけた。


「ん? 魔導国から手を貸して欲しいと頼まれたんだ。ジンを助けれてよかった」


 俺達を助けてくれたのは、ルーテシアだったのだ。


 ルシアを抱えて走っていた人は見覚えはないが、ルーテシアの部下なんだろう。


 背筋を伸ばして、待機して指示を待っているようだ。


「そうだったのか……。あの、チルノさん。どうして俺達をここに連れ戻したんですか?」


 避難するなら別の場所でもいいはずなのに、わざわざ城に呼んだのは理由がありそうだと思って、そう聞く。


「予想外の事が起こったのよ」


 手を叩いて椅子を出現させて座り、そう返事を返してくる。


「予想外? 説明してくれますか?」


「そうして欲しいなら、そこのルシアを黙らせてくれないかしら?」


 ずっと文句を垂れているルシアを指さす。


 仕方がないので肩を叩いてなだめた。


 ルーテシアと部下は俺達が上がって来た道をふさいで、少し離れた場所で俺達の会話を聞いている。


「分かった。分かったわよ。本当にチルノの予想外なのよね?」


「疑り深いわね……。予想外すぎるわ~。だって、私が集めた対悪鬼の人材が皆殺しなんだから」


 槍を持っていた人とあの甲冑の人物の事だろうか?


「それで、あの化け物を倒す策はあるんですか?」


「ないわよ? あるとすればあなた次第よ? えっと、名前は何だったかしら?」


 バカねと言いたげな顔で言ってくる。


「ジンです。俺次第って、あの化け物には何もできませんけど?」


 少しは戦えると思ったのに、全く歯が立たなかった。


 今俺が何かしたところで、火に飛ぶ虫がごとくすぐに殺されるだろう。


「知ってるわよ。だからここに呼んだの」


「どういう訳よ?」


 ルシアがじれったそうに聞く。


「私のもとで修行なさい。後、ルシアも精霊術をもう一度学びなさい」


「修行って、そんな悠長な……。敵は前の前にいるんですよ!?」


「大丈夫よ。三か月は時間を稼ぐから」


「それでも、町にいるかもしれない人はどうなるんですか?」


「第一地区の人は残念だけど、第二地区は誰一人死んでないわよ」


「え?」


 つい間の抜けた声を出してしまう。


「地下に潜れる悪鬼をジンが倒してくれたから、皆無事なはずよ」


 あの地下空間は、避難場所も兼ねていたのか……。


「少しでも守れたのか……」


 チルノの言葉に救われたような気がした。


「はっきり言って、死鬼が一匹帰ってなければ全滅だったわ」


 運が良かったんだな。


「一つ聞きたい」


「何かしら?」


「俺が死鬼を、ビッシーマーを倒せる可能性ってどれくらいなんだ?」


「ゼロ、だったわ。でも、今も生き延びてる。だから私は貴男に賭けることにしたの」


「そうか、ゼロじゃないんだな――」


 まだあきらめなくていいんだ。いや、諦めたくない。


「俺に修行をつけてください」


 俺は頭を下げた。


 強敵を討つ為に。


「来なさい、ルシアもよ」


 椅子から立ち上がり、そう言ってくる

 俺とルシアは顔を見合わせて、チルノの背中を追うのだった。


 ・・・・・・・・・・


 案内されたのは二階の一室だった。


 全面石造りで、吊るされた明かり以外何もない部屋、ここで何をするんだ?」


「三か月間、ジンにはこの部屋から出ることを禁止します。あ、食事とかは出るから安心しなさい。さて、次はルシア。貴女にふさわしい修行の場所に案内するわ」


「あ、何時をするんだ?」


 俺の問いかけには答えず、ルシアの手を掴んで部屋から出て行ってしまう。


 天からつるされたか細い蝋燭の明かりだけが揺らめく。


 ふと背後に殺気を感じて、飛ぶように躱す。


 暗闇から煌めくものが一瞬飛び出し闇に消えた。


 まさか化け物がいるのか?


 俺は警戒を強めて刀の柄を握る。


 また背後から何かが来る! そう感じた俺は刀を抜いて防ぐ。


「さぁ、姿を見せてもらうぞ」


 刀がとらえた先を睨む。


 だがそこに人影も化け物の姿もなく、ただ俺の腰ほどの太さの刃物が浮いてるだけだった。


 これも魔術なのか?


 その刃はまた、闇へと姿を消す。


 この闇に紛れる刃を止めるのが修行なのか?


 刀を鞘に直して、目をつぶる。


 感覚を研ぎ澄まし、次なる動きを感覚でとらえるために……。


 明かりが乏しいこの部屋では、俺の目はそこまで役に立たない。


 次は正面から気配が迫ってくる。


「ふん」


 刀を抜き攻撃をはじいて、本体を探るために一歩前に進む。


 だがすぐに暗闇へと消えてしまう。


 やはり本体何て、存在しないのだろうか。


 だがそうなればこの修業の勝ち筋が見えない。


「しまった」


 考えを巡らせていたせいで、攻撃への反応に遅れが生じてしまい、直撃は防いだが少し吹き飛ばされてしまった。


 落ち着け……。


 明らかに攻撃をうければ、死が待っている。


 集中力を高めて、息を深く吸う。


 後ろ、右、左、上、正面。次々と攻撃が襲ってくるもののそれをいなしていく。


 あれを試すか……。


 周囲に向けていた意識を刀だけに向ける。


 化け物との戦闘で見つけた、刀との融合を試すことにした。


 先ほどよりも滑らかに、脱力して防ぐことができている気がする。


 だがまだだ。剣相手にどこまで見えるかは分からないが、光の弾を探るのだ。


 その先が敵の欠点のはずだから……。


 目を開き、全集中力を刀に注ぐ。


 自然と呼吸はゆっくりと深くなり、極限まで己を高められている気がする。


 キンッっと、鉄同士がぶつかる音が響く。


 俺の刀で謎の剣にひびを入れることに成功した。


 だがまだだ、光の弾が見えない。


 もっと深く。潜るんだ。


 肺に不快な痛みがはしる。


 そういえば一つ目の化け物との戦闘で、あばらの骨折れてたっんだっけ……。


『ダメ! お兄ちゃん。これ以上は死んじゃうよ! ちゃんと呼吸して』


「エマ? ゴフッ」


 驚いて目を開ける

 咳き込んで吐血した。


 エマの声が無ければ本当に死んでたかもな。


 その隙をつくように、右後ろから殺気が飛んでくる。


 しまった! よけられない。


 斬られる瞬間、剣が目の前で止まった。


「え?」


「今日の訓練はここまでね」


 そして、チルノの声が暗闇から聞こえてくる。


「チルノ? いるんですか?」


「死にかけのようね? 少し急ぎすぎてたわごめんなさい。三日休みをあげるから、ゆっくり回復なさい」


 俺の質問には答えずに一方的に喋って、声は聞こえなくなった。


 まるで人間なんて嫌いってふうだったけど、案外チルノって、優しいやつなのか?


 俺は疲れと痛みで、前向きに倒れるのだった

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