第21話
「ありがとう、ルシア。休めたよ」
気配を探りながら進む中、ルシアにお礼を伝える。
「別にいいわよ。それよりも本当に、頑丈ね」
呆れたように俺を見てきた。
「ああ、たぶん。エマのおかげだろ」
俺はそう返事を返して、刀の柄を撫でる。
「実を言うとさ、女神の武器って私もよく分からないのよね」
「え?」
「知っているのは、当時の実力のある女神がその身を犠牲に力を与えたってことくらいなの。どうしてジンの妹さんが、吸収されたのかずっと謎なのよね……」
ルシアは顎に手を当てて、思案顔を浮かべた。
「そうなんだ……。そう言えばまたエマと喋ったんだよ」
「え? そう言えば刀が光ってたけど、力が発現したの?」
「たぶんそういう事だと思う。エマも戦うって言ってくれたから」
「頼もしいわね。でも、無茶はダメだからね?」
「分かった。俺も無茶はしない」
話ながら進み、二つ目の門を通り過ぎて一番最初の活気のあった町まで歩いてきた。
だがその面影はなく、広場は血生臭さく無数の人の死体が転がっている。
「酷い……」
ルシアが小さく呟く。
「死鬼の仕業か……」
警戒しつつ、生き残りがいないか辺りを二人で見ていく。
路地の奥から物音が聞こえて、二人で進む。
「くぅ……。無念」
路地の奥に来たタイミングで、目の前で全身甲冑の男が地面に倒れた。
「はぁ~、つまんないな~。あ、生きてたんだ?」
その奥にいた男がどこか嬉しそうに言ってくる。
雲が動き、月明かりに照らされ姿を見せたのは帝国でビームスと名乗った男だ。
「ビームス?」
「憶えてくれてたんだ嬉し~。でも、ここにいるってことは僕の邪魔をしに来たのかな?」
眼を細めて、俺の全身をなめるように見てくる。
「そうなるな……」
路地は狭く、人二人が通れるくらいの広さしかない。
刀で戦うにはやや狭いので、ルシアに下がるように言って、じりじりと後退する。
「何~、鬼ごっこかな? じゃ~捕まえるぞ~」
ビームスは遊んでいるかのように余裕そうにのんびりと俺との距離を詰めていく。
大通りに出たところで、ルシアがファイアボールを放つ。
「どうし、てやつがいるんだ?」
「分からないけど、アイツはかなりヤバそうよ」
「うん、女神もいたんだったな」
まったく効いた様子がない。
ニコニコと路地から出てくる。
俺はすかさず居合切りを放つ。
キンッ、音が響き俺の一撃はビームスが手に持った扇子で防がれてしまう。
「荒いな~。獣みたいに攻撃してきて、もっと話そうよ」
「あいにく、化け物と会話する気はない」
力での押し合い。
だが、ビームスにこれは分がありそうだ。
俺は後ろに飛んで、距離を取る。
「僕の出番、穿つ」
上から声がして、槍を持った男がビームスに突きを放つ。
「もう、うっとおしいな~」
扇子を振って、その一撃も完全にいなす。
「生きてたんだな」
俺の横に来た男にそう声をかける。
「当り前……」
そうは言うが、額から血を流しふらつく身体を槍で支えていた。
「ねぇ、勝てないのにどうして歯向かうの?」
ビームスがそう聞いてくる。
自分は負けないってか。
「これ以上、お前の好き勝手にさせるか」
刀を握り、意識を集中させる。
光の弾がビームスに繋がって……ない?
隙が無いのか。
「どうしたの?」
クスクスと笑って、ビームスが俺を見てくる。
「ニの型、虚無」
槍を構えてすさまじい勢いで、ビームスとの距離を詰め先ほどよりも早い突きをくり出す。
「満身創痍だろうに、良く動けるね」
その攻撃をかわしながら、ビームスは男に扇子を振り下ろした。
その攻撃を防ぎながら、何度も突きをくり出すが当たらない。
高次元の戦いだ。
隙を見て、俺も加勢しないと……。
刀を鞘に戻して、居合切りの姿勢をとる。
「これで終わり。一の型、忘却」
横振りの一撃がビームスの首をはねた。
やったか?
ビームスの身体はグニョグニョトうごめき、水になってしまう。
どうなっているんだ?
その水は男の口や鼻から侵入していく。
『呪言、
男は血を吹き出して、動かなくなってしまう。
「僕に技を使わせたのは、褒めてあげる~。ね、勇者君」
俺の耳元で声がして、振り向く。
ニコニコとビームスが立っていた。
何時の間に……。
やられる……。
「風よ吹け、ウインドカッター」
「おっと、危ない危ない」
ルシアが風を放ち、ビームスは後ろに飛び退く
。
「ルシア、ありがとう」
「いいわよ。こいつ本当に化け物ね」
ルシアも底知れない恐怖を感じてるのか、声が少し震えている。
「ひどいな~。あ、チルノを引き渡したら二人を助けるっていうのはどう?」
名案でも浮かんだと言わんばかりに、そう提案してきた。
「黙れ、誰がそんな話に乗るか!」
俺は斬りかかりながら、そう返事を返す。
「無駄なのにな~」
その攻撃も扇子ではじかれてしまう。
「くそ、どうすれば……」
攻撃の手を緩めず、攻め続けていく。
「そろそろ殺そうかな? 呪言、水鉄砲」
丸い水の弾を身体の周りに発現させて飛ばしてくる。
その一つが俺の右肩を貫いた。
「ぐぅぅ」
「へぇ~、致命傷はさけたか」
ビームスの言う通りだが、もう腕が上がらない。
刀を左手で持って、構え直す。
「ジン、もう下がって……。このままじゃ殺されるわ」
「どのみち殺される。時間は稼ぐから、ルシアが逃げてくれ」
今の俺の実力だと確実に死ぬことになるだろう。
それほどまでに、ビームスとの実力差がありすぎる。
「うん、良い絆だね。でも、朝日が昇る前に終わらせないとだから、このまま二人ともあの世に送ってあげるよ」
邪悪な笑みを浮かべて、先ほどよりも多い水の弾を発現させた。
ここまでか……。
「弓部隊、放て!」
力強い女性の声がして、空から矢が降ってきた。
「これは面倒だな~」
ビームスは無数の矢をその体に浴びて、血を吐きながらそう呟く。
「槍部隊、放て! 白兵隊はその隙に二人を救出」
暗闇から今度は槍が飛んでくる。
どうなっているんだ?
「え? きゃぁ」
ルシアが小さな悲鳴を上げて、姿を消す。
「ルシア?」
「ジン、ついてきてくれ」
どこか聞き覚えのある声が耳元で聞こえて、肩をひかれる。
ビームスは再生が終わらないのか、動かない。
ここは今のうちに離れるか……。
俺は肩をひいてきた人物について行くことを決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます