第15話

 食事会を終えた後、俺は話があると言われてルシアの部屋に来ていた。


「そこに座って」


 指さされた椅子に俺は腰を掛ける。


 ルシアは向かい合うようにベットに腰を下ろした。


「どうしたんだ? あらたまって?」


「今日はごめんなさい。途中で、酔いつぶれて」


「え?」


「防具は買えたのかとか……。お金のこととか色々と……」


 なるほど、心配してくれていたのか。


「大丈夫、買えたよ。色々とおまけしてくれたんだ」


 そう言って、膝の防具を指さす。


「ずいぶん小さいのね? 言われるまで気づかなかったわ。上の防具は買わなかったの?」


「そうだ、この上着に鉄を入れて防具にしたんだよ」


「凄い技術ね……。人間て本当に進歩していってすごいわね」


「女神は進歩しないのか?」


 どこか悲しそうな声に心配になる。


「うん、殆どがね……。昔からこうだからとかで、変わろうとしないの」


「でも、ルシアは違うだろ?」


「え? どういう事?」


「だって、ルシアは世界を旅して、お酒を造ったり色々見て歩いてるんだろ? 他の女神とは違うんだろうし、俺のような山育ちよりもやっぱり凄いと思うよ」

「本当に、ジゴロウなんだから……」


「なぁ、前にも言われたけど、ジゴロウってどういう意味なんだ?」


「教えないわよ」


 フンッと、そっぽむいてしまう。


「その代わりと言ったら変だけどさ……。ルシアの旅の目的って何なんだ?」


 よくよく考えたらそういう話を一度もしてなかったので、聞いてみることにする。


「ごめん。それは言えない」


 凄く冷たい拒絶を含んだ声だ。


「まぁ、言いたくないこともあるよな……」


「そう言う事、だからこの話はこれでおしまい。話は変わるけど、帝国について知ってることってある?」


「帝国……。確か占いとかを使って軍事を優位に進めてるんだったかな? あくまで噂だけど」


 エリトル村に来た軍人が話していたのを覚えていたのでそう答える。


「正解よ。あの国は占いと、三強と呼ばれる軍人のおかげで皇国に並ぶ軍事力を有しているの」


「三強? どういうやつらなんだ?」


「知力にたける諸葛広陵しょかつこうりょう、圧倒的な破壊力の槍使い劉備雷蝉りゅうびらいぜん、その二人をまとめるカリスマの持ち主、神保扇じんほうせんの三人よ。この三人が戦場に出れば負けることはないと言われてるの」


「でも確か、共和国に加盟直前だったんだよな?」


「そう言ってたわね……。内部で何かが起こったのかしら?」


「もしかたら、化け物にもう乗っ取られてるとか?」


「でも、手紙のやり取りは続いているみたいなのよね」


 二人して唸ってしまう。


「明日はしっかりと警戒が必要かもな」


「そうね……。でも、虎穴に入らずんば虎子を得ずっていうし。化け物だけ倒して帰還出来たら、言う事なしよね」


「そうだよな。何も、三強が敵だと決まったわけじゃないもんな」


 甘い考えは良くないが、全て的だと思って険悪にすればなおのこと危険だろう。


「じゃぁ、俺はそろそろ部屋で休むよ」


「うん。遅くまでごめんね」


 椅子から立ち上がって、ルシアの部屋を後にする。


 明日は何が何でもルシアを守って見せるぞ、そう心に誓うのだった。


 ・・・・・・・・・・


「お兄ちゃん。久しぶり……」


「え? エマ? どうして?」


 俺は確か部屋に戻って寝ていたはずなんだが……。


 疑問に思って周りを見て、ああ、夢なんだと理解した。


 見慣れた自宅で、エマと囲炉裏を囲って座っているのだから……。


「お兄ちゃんって、本当にデリカシーがないよね?」


 「突然だな? どうしたんだよ?」


 夢なんだよな?


 エマが怖い目で見てくるんだけど。


「まったくもう。でも、死ななくてよかった」


 たぶん俺が刀を手にした夜の事だろう。


「なぁ、エマは本当に刀の中にいるのか?」


 ずっと俺の中にあった疑問をぶつける。


「……もう、時間だね。またね? お兄ちゃん」


 俺の質問には答えずに、笑みを浮かべてそう言ってきた。


 そして俺の意識もだんだんと遠のいていく。


「やっぱり、夢か……」


 城の天井が視界に入ってそう呟いた。


 ベットに立てかけた刀が、チンっと音を鳴らす。


 窓の外には朝日が昇り始めている。


 部屋に戻ってすぐ寝てしまったのか……。


 疲れがたまっていたのかもしれないな。


 ベットから起き上がり、窓を開く。


 少し冷たい風を浴びて完全に意識を覚醒させる。


「おい、ジン。もう目が覚めたのか?」


 声の方を見ると、ウマに跨った若い兵が俺を見ていた。


 確か牢屋で喋った人だ。


「ああ、君はそこで何をしてるんだ?」


「姫の命令で、お前達の帝国までの護衛することになったんだ。それで馬の準備をしている」


 なるほど、バ・ルーダの兵士を少しでもこの城かか離す算段か……。


「それは助かる」


「出発は三時間後だ。それまでに準備しろよ」


「ああ、分かった」


 俺はそう返事を返して、窓から離れる。


 準備といっても、朝食をとるくらいだな。


 そう思いながら食堂に向かうのだった。

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