第14話

「さて、一仕事といくかの。どういう防具が欲しいんじゃ?」


 奥は少し広めの工房になっていて、甲冑や剣なんかが壁に飾ってある。


「この国の防具、ルーテシアがしてるような軽装の物が欲しいんです」


 俺はこの国に来て驚いたが、全身を覆う甲冑だけではなく、胸や腕と言った特定の箇所の防具が作られているのだ。


「胸当てか?」


 髭を触りながら確認してくる。


「その、肘と膝につけるようなものが欲しいんです。この国の技術なら作れると思ったのですが」


「まぁ、作れなくもないかの……。じゃが、他にもほしそうな顔じゃの?」


 俺の考えを見抜いて肩に手を置いてきた。


「実は金属の塊が欲しいんです。後、工房を少し貸してもらえませんか?」


「貸すって坊主、坊主に何ができるんじゃ?」


 驚いたような表情を浮かべて、聞いてくる。


「軽装の防具技術を組み込んで、この服を防具にしたいんです」


 この国の技術を使えば、シンジにもらったこの服も防具になりえると思ったのだ。


「貴族服をか? 斬新じゃが……。まぁ、何か考えがあるようじゃし、作っていこうかの」


「はい! ありがとうございます。あ、俺。ジンっていいます」


「おかしなやつじゃな。ワシはガン・ルーじゃ。ついてこい」


 名前をまだ言ってなかったので名前を伝えると、ガン・ルーは少し笑って、そう言ってくれた。


 その背中を追って、窯の前に行く。


 鉄を放り込んで熱しそれを細くして、服に織り込む。


「しかし、手慣れた動きじゃな」


「昔、窯場の手伝いをしたことがあるので」


 詳しく言うとまずいのでそう流しておく。


 ガン・ルーの提案で、服の肩の部分に鉄を入れてることになったので、俺も提案して服全体に薄い鉄をいれることにしたのだ。


「このやり方は見たことない物じゃな……。ワシのいる意味あるのか?」


 服に鉄を織り込んでいるとそう言ってくる。


「ガン・ルーさんには先ほど言った、膝当てを作ってもらいたいんですがいいですか?」


「そうじゃった。もちろんじゃよ」


 ガン・ルーはそう言って自分の作業に入っていく。


 軽い防具は自分では作れないので助かるな。


 今自分が作っているのもお父さんが昔作っていた鎖帷子んをまねているだけに過ぎない。


 そこまで難しいことはないが、鉄材をかなり使うのでこの工房に来れたのは本当に良かったな。


 こうして日が暮れるまで、作業に没頭してしまうのだった。


「できました。ガン・ルーさん、どうですか?」


 先に作業を終えていたガン・ルーさんに服を見せる。


「ほう、これは凄いな。表面は服じゃが、しっかりと鉄の硬さもあるのう」


 その服を手に取って珍しそうに感想を漏らす。


「良かった。変じゃ無いようで」


「じゃがこれほどの物が作れるなら、ワシは必要じゃったか?」


「何を言ううんですか? こんな膝当て見たこともないですよ」


 ガン・ルーが作った膝当ては膝だけを覆う仕様で、動きをまったく邪魔しなさそうだ。


「まぁ、この国でもワシぐらいじゃろうな、ここまで軽量化できるのは」


 得意げに言って、笑い声を出す。


「本当にで会えてよかったです」


「どれ、お主ワシの弟子にならんかの? お主の腕ならこの世界一の鍛冶師になれると思うんじゃが?」


「それはすごくありがたいですが……。妹のためにもいかなくちゃいけないので」


 凄くありがたい提案だが、それを受けるわけにはいかない。


「そうじゃったな。じゃが、旅が終わってもし鍛冶師に興味があればぜひワシのもとで働いてくれ」


 そう言って、手を差し出してくれたので握り返す。


 旅が終わったらか……。


 今まだ想像ができないが、そう言ってもらえてすごく嬉しかった。


 ・・・・・・・・・・


「ただいま」


 城に戻った俺は、食堂に入りながらそう声を出す。


 食堂にルシアがいると聞かされていたからだ。


「あ、ジンさんお帰りなさい」


 だがまず声を返してくれたのはルシアではなく、ユーシアだった。


 凄く澄んだ声で、そう言って手を振ってくれる。


「あれ? ルシアは?」


 どういうわけか、ルシアの姿がない。


「ルシア様なら、お花を摘みに行ってますよ?」


 こんな時間にか? 外も暗いし――


「どこまで行ったんだ? 迎えに行ってくるよ」


 心配だし迎えに行こうとそう聞く。


「え?!」


 きょとんとした表情を向けてくる。


 カシャカシャ。


 刀も凄い勢いで鍔なりを激しく鳴らす。


「いや、心配だしどこまで花を摘みに行ったんだ?」


「あ! そのですね……。ジンさん、お花を摘むというのはですね……」


 もじもじと何故か言いずらそうだ。


「な~にやってんのよ」


 後ろからルシアの声がして、後頭部に軽い痛みがはしる。


「痛っ、ルシア、戻ったのか?」


 何故かチョップをくらわしてきたルシアの方を向く。


「戻ったわよ。それと姫様にセクハラしないの」


 セクハラってどういうことだ?


「と、とにかく二人とも席についてください」


 俺達のやり取りを見ていたユーシアがそう言ってきた。


「それもそうだな」


 ルシアもうなずいて、お互いに向かい合うように席につく。


「それでは、本日の料理を運びますね」


 今まで影のように佇んでいた、給仕の女性がそう声を出す。


「お願いします」


 ユーシアがそう声を出すと静かに部屋から出ていき料理をカートに乗せて俺達の前に運んでいく。


 スープにサラダ。それにパンと魚の焼いたものまである。


 この城の料理は何かと豪勢だな。


「それではまずは、食事をいただきましょう」


 ユーシアの言葉に俺とルシアは手を合わせて食べていく。


 心なしかルシアは食欲がなさそうだ。


「どうしたんだよ? 体調が悪いのか?」


 心配になって声をかける。


「え? だ、大丈夫よ……」


 驚いたように目を開いて、否定してきたが料理に一向に手を付けない。


「ジンさん。ルシア様は二日酔いのような感じなので、今はそっとしておきましょう」


「え? ルシアがか?」


 予想外の言葉に、驚いてしまう。


「今日ルシア様は我が国のお酒、それも一番アルコール度数が高い女神殺しを飲んだようなので、仕方ないのですよ」


「女神殺しっ、て物騒な名前ですね」


「ルシア様が昔この国の酒屋に行った際に作ってもらったそうなんです。今ではこの国のブランド酒の一つなんですけどね」


 ユーシアは苦笑いを交えながらそう教えてくれる。


「それで、ユーシア。業況はどうなんですか?」


「はっきり言って、良くはないですね。バ・ルーダの部隊は全員ばらばらに配置。そして、ルーテシア率いるバルキリー部隊はそれぞれ城を厳戒態勢で守っています」


 つまるところ、敵が分からないから動けないわけか……。


「明日からはどうするか決めているんですか? 俺達は今のところ帝国を目指す予定です」


「本当ですか!?」


 ユーシアは驚いたように手をテーブルについて、身を乗り出しながら聞いてくる。


「え、ええ。何か問題がありましたか?」


「頼みごとがあるんです。聞いてもらえますか?」


「もちろんです」


 ここまで世話になって頼みごとの一つも聴かないなんて、ありえない。


「私の書く手紙を王国の使者として、ルシア様と一緒に帝国に届けて欲しいのです」


「手紙? それは構わないけど、どうしてルシアも一緒なんだ」


 安全を期すなら、ルシアには残っていてもらいたいと思って聞く。


「帝国の帝王は美しい女性が好きなので、ルシア様が一緒の方がとしてもらえると思うのです」


「だけどな……」


「私はいいわよ。安全に敵の内部にはいれそうだし」


 危険だと言おうとしたところで、ルシアがそう割って入ってきた。


「ルシアがそう言うなら、俺はかまわないけど」


「ありがとうございます」


 ユーシアは立ち上がって、俺達に頭を下げる。


「ユーシア、お礼をいうのは私達の方よ」


「その通りだな。美味しいご飯に、化け物の情報も分かったんだ本当に助かるよ」


 俺達も立ち上がって、お礼を言う。


「ジンさん、ルシア様。危険なことをお願いしたのに……」


 ユーシアは、俯いて小さく震える。


 もしかして泣いているのか?


 心配になって側にいくと、俺を見上げたユーシアのヒスイ色の瞳が濡れていた。


「大丈夫。俺が何とかするから」


 そう言いながら、優しく頭を撫でる。


「ひゃぅ、ジ、ジンさん?」


「あ、嫌だったかな? 妹にもよくしてたからつい」


「い、いえ。嫌と言いますか、嬉しいと言いますか……。嫌ではありませんので」


 腕をぶんぶんと振って、早口でユーシアはそう言ってくれた。


「はぁ、不敬なんだけどな」


 ルシアが小声で何かを言ったが、良く聞こえない。


 カシャカシャ。


 今日は一段と刀が荒ぶるな。


 左手で刀を押さえる。


 カシャカシャ……。


 徐々に鍔なりが収まっていく。


 こうして、俺達の食事会は幕を閉じるのだった。

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