第12話

「無事だったかジン。流石だな」


「ルーテシア。ああ、何とか倒せたぞ」


 城の外に出るとルーテシアが側まで駆け寄ってきてくれた。


「ジンさん。この度はありがとうございました」


 その後すぐ、シン・ユーシアが俺の前に来て手を握ってお礼を伝えてくれる。


「いや、大したことはしてないですよ。それよりも、ケガが無くてよかったです」


「あら、優しいのですね。疲れているでしょうからあちらの小屋へ行きましょう」


 少し強引に手を引かれた。


「え? あ、ちょっぉ」


「行かさないわよもう!」


 反対の手をルシアに逆向きに引っ張られて、情けない声を上げてしまう。


「やれやれ、ライバルが多いな」


 その様子に呆れたようにルーテシアがそう声を漏らす。


 ライバルって何だ?


「ルーテシア、た、助けてくれ。痛いぃ」


 お互いが綱を引くかの如く引っ張り合いを始めたので助けを求める

「ジン、何時から呼び捨てにする仲になったのよ!?」


「お姉ちゃん! 説明」


 二人がそう声を荒げて手を離す。


「ひゃべし」


 俺は突然の事にしりもちをついてしまう。


「その辺はジンに聞いてください。姫、すみませんが状況の確認に行ってきます」


 そそくさとルーテシアはその場を去っていく。


「あ~、俺も手伝いに行こうかな?」


「逃がさないわよ」


「逃がしません」


 二人に手を掴まれてしまう。


 何? なんか怖いんだけど……。


 二人の剣幕に声を出せないまま、城壁側の小屋へと連行されるのだった。


 ・・・・・・・・・・


 ひと悶着あった後、俺はルシアとシン・ユーシアに連行されるように小屋に連れていかれた。


 小屋の中はそこそこ広く、長テーブルとそれを囲うように椅子が六つ配置された簡素な部屋になっている。


「ユーシア。この部屋って?」


 ルシアがそう疑問を投げかけた。


「騎士たちの休憩所です。今の時間は誰もいないのでくつろいでください」


 先ほどまでと違い落ち着いた声で椅子に座るように勧めてくれる。


「正直助かります。もうへとへとなんで」


 俺はそう言いながら、手前の椅子に座った。


 その横にルシアが座り、俺と向かい合うように対面にシン・ユーシアが座る。


「さて、疲れているところ申し訳ないですが少し話をいいですか?」


「ええ、もちろんよ。いいでしょ? ジン」


「あ、ああ」


 何を言われるか気が気ではないが、ここはそう言うしかなさそうだ。


「現状からして信用できるのは情けないですが、あなたたちだけなのです」


「やっぱりそう言う事よね……」


 ルシアはそう返事を返して、ひょうたんに口をつける。


 俺はよく分からないので黙って会話を聞く事に徹する。


「流石ルシア様。察していただけて良かったです」


「もちろんよ。ジンも分かってるでしょ?」


 いや、ごめんなさい。分からないです。


 だからそんな輝いた眼で見ないでください。シン・ユーシアの目に居心地が悪くなってくる。


「まさか、ジン分かってないの?」


 それに気づいてルシアがジトっとした目で見てきた。


「ああ、悪い。よく分かっていない」


「ふふ、説明しますね」


 シン・ユーシアはニコッとして、そう言ってくれる。


「ありがとうございます」


「いえいえ。えっと、騎士団隊長であるバ・ルーダが裏切ったという事はですね、恥ずかしながら、他にも私の政治をよく思っていない者がまだいる可能性があるのです」


「つまり部外者であり、女神なら信用ができると言う事ですか?」


「そう言う事です。もちろん。姉さん、副隊長のシン・ルーテシアは信用したいのですが」


 あくまで念のためにここに連れてこなかったという事か……。


「だいたい分かりました。説明ありがとうございます。シン・ユーシア様」


 頭を下げてお礼を伝える。


「こちらこそ危ない所を助けていただきありがとうございます。あと、そのですね……」


 どこか言いずらそうに俯いて、自分の手を握って何か言いたそうな様子だ。

「どうかされましたか?」


 顔を見つめながら反応を窺う。


「わ、私の事もシン・ユーシアではなく、ユーシアと呼んでくれませんか?」


 頬を赤らめて、目を見つめ返してくる。


「え? もちろん。失礼でないならそう呼ばせてもらいます」


「ぜひ、ぜひ呼んでください」


「あの~、私もいるんだけど?」


「ひゃ、すみません」


「もちろん分かってるけど? どうして謝るんですか?」


 ルシアにそう返しながら、疑問を口にする。


「あ~、もういいわよ。はいはい」


 どうしてふてくされてるんだ?


「そうだ、お二人はまだ、この国を観光されてませんよね? 明日にでもぜひ周ってみませんか?」


 空気を換えたいのか、ユーシアは突然そう提案してきた。


「いや、それはさすがに不味いと思いますけど……」


 城は混乱してるし、帝国が何時攻めてくるか分からない状況でのんびりしてられない。


「いいじゃない。ぜひそうさせてもらうわね」


 なのにどうしてかルシアは乗り気だ。


「ぜひそうしてください」


 そして、ユーシアもどこか嬉しそうに笑う。


 ここで異論をはさむのも変か……。


「分かりました。じゃ、宿を取りに行こうか? ルシア」


「え? 部屋なら用意しますよ? 城内の混乱はすぐに沈めますし」


「それに、ジン。お金持ってるの? この国の通貨は流石にないでしょ?」


 ユーシアの提案に続けてルシアが痛い所をついてくる。


「ごめんなさい。泊めてください」


 ルシア一人くらいならどうにかなると思ったが、通貨が違うならそれも厳しいだろうと考えを変えて、ユーシアに頭を下げた。


「あ、頭を上げてください。二人がいなければ城下町も大変な被害が出ていたと思うので……。頭を下げるべきなのは私の方なので――」


 あわあわとユーシアはそう言って俺の肩を叩いて、「頭を上げてください」と言ってくれた。


 今日は久しぶりに屋根の下でゆっくりと眠ることができそうだ。


 ・・・・・・・・・・


 俺は城内二階の客室に案内され、部屋に入った。


 室内は大きなベットと蝋燭立てがのったサイドテーブルだけで飾り気がない。天井から吊るされた蝋燭が部屋を明るく照らしてくれている。


「ふぅ」


 ベッドに腰を下ろして、息を吐く。


 腰につけていた刀はベットに立てかけて何とはなしにジッと見る。


 チン……。


 一度だけ弱弱しい感じで鍔なりを鳴らす。


 この刀が無ければ俺は死んでいたんだよな……。


 刀を手に取り、少しだけ刃を露出させる。


 今日もバ・ルーダを倒せたのは俺の実力とはいいがたい。この刀が導いてなければ……。


 そこまで考えて、刀をベットの置いて身体をまさぐる。


 おかしい、よく考えたら骨が折れていてもおかしくないのに、まったく痛みがない。


 この刀の力なのか?


 俺は上半身裸になって、腕を組む。


 傷もないして健康良好だな。


 その時ガチャっと音がして、ドアが開いた

 ドアの先にいたルシアがぎょっとしたように目を見開いて俺を見ている。


「どうしたんだ? ルシアは隣の部屋だよな?」


 間違えって入ったのかと思ってそう確認を取った。


「変態」


 ルシアはそう言い残して、ドアを閉めてしまう。


「えっ? っちょっ」


 慌てて立ち上がる。


 いや、そうか上を脱いでいたからか。


 慌てつつもカッターシャツを着直す。


 ドアを開けるとルシアがジト目で待っていてくれた。


「何してたの?」


「ああ、傷の確認をしていたんだ」


「ふーん、そうなんだ。まぁいいわ」


「ルシアはどうして部屋に来たんだ?」


「少し話があって……。部屋に入って良いかしら?」


「ああ、もちろんだ」


 カシャ、カシャ、カシャカシャ。


 何故か部屋に戻ると刀が凄い速さで、鍔なりを鳴らしているのが見えた。


「……」


「……」


 二人で目を見合わせて、ドアを閉める。


 もう一度そっとドアのすき間から中を覗く。


 今度は動いてないな。


 安心してドアを開ける。


「で、話って何なんだ?」


 部屋に入って、サイドテーブルの前に正座で腰を下ろす。


「え、ええ。明日の話と帝国の事で少しね」


 困惑した様子もあるが、喋りやすいようにベットに座るように促すとそう話を切り出しながら座ってくれた。


「明日か……。俺は鍛冶屋に行きたいんだけど良いか?」


「ええ、もちろん。武器や防具少し見たほうが良いものね。後はお酒を買うわよ」


 すごく嬉しそうに笑って、ひょうたんに口をつける。


 そんなにお酒が好きなのか……。


「そう言えばどうして、明日は出かけるんだ?


 帝国に早く行くべきな気もするんだが?」


 ここぞとばかりに疑問をぶつける。


「どうしてって、休息も大事だし。何より、ユーシアが部隊を編製する時間が必要でしょ?」


「そうだよな。ごめん。少し焦りすぎてた」


「良いわよ別に。こうも立て続けに化け物と戦っていたら、焦っても無理ないわよ」


 バカにするでもなく、ルシアはそう慰めてくれた。


「ありがとう」


「ふん、それはそうと、その刀の事も少し調べないとね?」


 先ほどから静かに鍔なりを鳴らす刀を、ルシアは指さす。


「そんなに変なことなのか?」


「そりゃそうでしょ。女神じゃなく妹さんの魂を吸収して、こうも自己主張が激しいなんて変でしょ」


「そうなんだな」


「そうなんだなって、ジン。もう少し警戒したらどうなの?」


 警戒も何もこの刀を手にしてから毎日鳴ってるしな。


「悪い。悪い感じはしないからさ」


「本当にお人好しよね」


「前から聞きたかったんだが、俺はそんなにお人好しなのか?」


「……」


 自覚がないのが怖いと言いたげな目で見てくる。


 深くツッコまないほうが良いな。


「そう言えばこの町にも勇者物語の伝承ってあると思うか?」


「もちろんあるでしょう? 四大国が手を組んだ実話なのよ?」


「それもそうか……。なら、この刀の事が書いてある話も街にあるかもだな」


「たしかに、創作としてならありえなくないわね。ハルバートさんのお爺さんみたいな人がいるかもしれないしね」


 そう思うと明日が色々と楽しみになってくる。


「今日は早めに明日に備えて寝よう」


「そうねって、帝国の話は? そこが重要なのよ」


「ああ、そうだった。でもデータがなさすぎるだろ?」


「そう言われるとそうなんだけどさ……。帝国がどんな国なのかは知ってるでしょ?」


「噂程度だけどな。武力が四大国一で、とてつもなく強い騎士がいるとかならな」


「そんな国が魔物に侵されてるってことは、平和の均衡も崩れかねないのよ」


 確かに言われてみればそうだよな……。


「ルシアが気にしてるのは、皇帝国だよな?」


「そうよ、アイツらがこの事態に動けばもっとややこしいことになるはずよ」


 良くない話ばかりの国ではあるが、そこまで動いてくるのか?


 あの国はこの場所からもだいぶ遠いはずだ。


「まぁ、そういう心配も仕方ないよな。でも、まずは帝国だろ?」


 このままじゃ話が堂々巡りになってしまう。


「何か嫌な予感がするのよね……」


「そんなに不安なら、今日は一緒に寝るか?」


 エマも不安で寝れないときは勝手に布団にもぐりこんだりしてたし、たぶん人肌があれば落ち着くのだろう。


「……」


 何故か目を点にして、俺の顔を見てくる。


 カシャカシャカシャカシャ。


 ベットに立てかけた刀が激しく鍔なりを鳴らす

「どうしたんだ?」


「バカ! 変態!」


 何故か顔を真っ赤にして、ルシアは部屋を出ていった。


 いったいどうしたんだ?


 というか何で罵られたんだ?


 よく分からないが強い眠気が襲ってきているので、眠るとするか……。


 立ち上がり蝋燭を消して、ベットに横になる。


 明日にまた、どうして怒ったのか聞けばいいか……。


 そんな事を思いながら眠りについた。

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