第10話
「ここで待ち構えるぞ」
俺、ルシア、シン・ルーテシアは敵を待ち構えるべく王国を少し出た森林で敵を待ち構える。
敵の情報があまりにも少ないので少数で様子を見ることにしたのだ。
「不死身の敵……。魔族とみて間違いないわね」
ルシアはそう言って、俺達から少し離れた茂みに身を隠す。
まぁ、戦わないのになぜかついてきただけだから気にしてないけど――
「ルシアは城で待っていていいんだぞ?」
そう言わずにはいれなかった。
「何よ? 私がいたら不都合があるわけ?」
「不都合ってわけじゃないんだけど、怪我しないか心配だからさ」
「……」
何故かルシアは顔を赤くして、下を向いてしまう。
カシャン、カシャン。
刀が鍔なりを鳴らす。
「戦場でイチャつくなんて、余裕だな」
「イチャつくって、そんなことしてませんけど?」
「おっと、お喋りは終わりみたいだな」
シン・ルーテシアはそう言いながら俺の前に立つ。
その視線の先には足を引きずりながら歩く兵士がいた。それも背中には無数の槍や矢が刺さっているのが見える。
「化け物に間違いないな……」
刀の柄を掴み、警戒しながら一歩近づく。
「首はどうかな?」
俊足の速さで、跳ねるようにシン・ルーテシアは敵の懐に入る。
その手には針ような先端の武器が握られていた。
「ぐぎゅっ」
敵は反撃もガードもなく頭を貫かれて動きを止める。
やったか?
「ぬ? 化け物め……」
動きを止めた兵士が右手を振り上げる。
その手には矢が掴まれていた。
「危ないっ」
咄嗟に駆けだして、右手を切り離す。
「ほうっ。助かったぞ」
その隙にシン・ルーテシアは後ろに飛んで体勢を立て直した。
「ぎゅ、ぎゅふ」
兵士はよく分からない声を出し、左手で背中の槍を抜いて、構える。
「斬り刻めば止まるかな?」
ステップを踏みながら、シン・ルーテシアはチャンスを窺っているようだ。
確かに手を両方吹き飛ばせば、勝てるな……。
刀を上段に構えて、間合いを狭めていく。
一陣の風化吹いた刹那、一気に敵の懐に飛び込む。
「ぐぅ?」
兵士の左肩から下まで、一気に斬りとおす。
兵士は驚いたような顔を浮かべて、一ミリも動かない。
斜めに上半身が下に落ちていく。
やったか?
そう思ったのもつかの間、兵士は這って俺に向かってくる。
「しつこいぞ!」
俺を横から抜いて、シン・ルーテシアは兵士を落ちていた槍で突き刺した。
だが兵士は死なず、地面にくし刺しにされたままもがき続ける。
「酷いな……」
「絶対に死なないんだな。哀れだ」
「もう、眠れ」
俺は兵士の首を切り離した。
そうすると兵士は灰になり、風にさらわれていく。
「強いな。ジン」
「いや、そんなことないですよ。シン・ルーテシアさんの方が強いと思います」
振り返って、俺はそう返事を返した。
「……良ければなんだが」
少しためらったような顔の後に、そう言って黙ってしまう。
「どうしたんですか?」
「……名前、長いから……。ルーテシアって呼んでくれないか?」
どうしてそんなに恥ずかしそうなんだ?
「ええ、失礼でないならそう呼ばしてもらいます。でも、どうしたんですか? 突然?」
「いや、どうしたのかな? 自分でも分からないがそう呼んで欲しかったんだ」
そう言って、照れて俯く姿に可愛いと思ってしまった。
カシャカシャカシャカシャ!!!
俺達が黙ったタイミングで、刀が激しく鳴り出す。
「どうしたんだ?」
「その刀、勝手に動いていないか?」
その異様な光景に、ルーテシアは不思議そうに刀を見つめる。
化け物を見た後だし大丈夫かな?
「そうなんですよ。女神の加護が宿った武器だそうで……」
「前の私なら信じなかっただろうが、あってもおかしくない話な気がするな」
ルーテシアは茂みに身を隠すルシアの方に視線を向ける。
ルシアは一向に茂みから姿を見せない。
「おい、ルシア? もう出てきて大丈夫だぞ?」
茂みに向かって声をかける。
「……」
「様子が変だな……」
ルーテシアは駆け足で茂みに向かう。
俺もその背中を追いかけていく。
茂みの先にルシアの姿がなかった。
「ルシア?」
周りに視線を向ける。
「これは! 足跡があるぞ」
ルーテシアは奥の地面を指さして言う。
確かにルシアのと思える足跡が見える。
何があったんだ?
考えようと頭を巡らせていると城の方から煙が上がっているのが目に入った。
「ルーテシア、城から煙が上がってないか?」
「何? すまん」
ルーテシアは一言そう言い残して、凄い速さで城へと戻っていく。
「ルシアももしかしたら城にいるのか?」
カシャカシャ。
刀が鍔なりを小さく鳴らす。
悩んでないで行動だよな……。
俺は一度、城に戻ることに決めた。
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