第9話

 食事を終えてのんびりしていると、二人が戻ってきた。


 因みにルシアはいびきをかきながら机に突っ伏して眠っている。


「お待たせしてすみません」


「この先の話は、私も同席さしてもらう」


 シン・ユーシアの後に単発の女性はそう言って、奥の端の席に座った。


「あっはい。大丈夫です。俺の名前はジンって言います」


「ああ、自己紹介がまだだったな。私は第二王女のシン・ルーテシアだ。騎士団の副隊長を務めている」


 女性なのに少し男勝りな喋り方だな。


「えっと、王女なのに騎士なんですか?」


 疑問に感じたので、そこは聞いておくことにする。


「そうだ。私は政治や愛想をふりまくのが苦手なんだ。だから、姫にそういうことは任せている」


 なるほど、そう言う事情があるのか。


 確かに彼女の格好は、胸と肩に金属製のプレートがついているのが見える。

 まさに戦闘用の装備だな。


「教えてくれてありがとうございます。ところで話し合いって、馬車の事ですか?」


「いや、少々帝国の動きが異常でな……。客人に話す事ではないんだ」


 そう言って、シン・ルーテシアは思案するように顎に指をかける。


「それで目立つ馬車移動より、徒歩で少しでも早くこの国を出たほうが良いというのが、私の考えです」


 シン・ユーシアは姉が黙ったのを見てそう提案をしてきた。


「そう言う事ですか……。異常な動きってどういう感じなのか、教えてもらえないですか?」


「何故そんなことを聞く?」


 思案を辞めて、俺の目を見ながらシン・ルーテシアは不思議そうに聞いてくる。


「信じてもらえないと思いますが、俺も変な動きのやつに襲われたので、同じか知りたくて」


 化け物の事は伏せながら、情報を探る。


「……まぁ、そういう理由なら話してもいいか。姫、構わないか?」


「え、えぇ。かまわないですよ。この二人なら何か知ってそうな感じがしますので」


 シン・ルーテシアは寝たままのルシアを見ながらそう言ってくれた。


「なら話すか。今この国に帝国兵が迫っているのだが、どうにも先遣隊の報告では、どう攻撃しても止まらない。死を恐れない化け物が来たと狂乱してしまっていてな。早馬で私も様子を探ったのだが、あれはどうにも化け物としか言いようがないな」


「どう、化け物なんですか?」


 化け物という言葉に、息をのみながら聞く。


「槍が刺さっているのに止まらないのだ。何かに導かれるように、この国を目指している」


 その言葉で確信した。俺が倒すべき敵だと。


 いや、避けることも可能だが、このままではこの王国も公国の様に滅ぶだろう。


 それだけはさけなくては……。


「俺に、手伝わせてください」


「何?」


「貴様のような奴、信用でき……」


 俺の言葉に激高するように、バ・ルーダが声を出したが、シン・ルーテシアは手をかざして黙るように指示を出す。


「武器も持たず何ができるのだ?」


 俺の格好を見てそう聞いてくる。


 そうだ、刀。刀を返してもらっていない。


「あの、刀を返してくれませんか? それがあれば戦えます」


「ふむ、良いだろ。持ってきてやれ」


 入口に控えていた給仕にシン・ルーテシアあっさりと指示を出す。


「ルーテシア様。危険です。このような者に城内で武器を渡すなど……」


 その様子にバ・ルーダが苦々しそうに意見を言う。


「何も問題ないだろう。私とバ・ルーダ隊長がいるのだから」


「ぐっ……。分かりました。この後の作戦を早く立てましょう」


 シン・ルーテシアに笑みを向けられて、これ以上は何も言えなくなったようだ。


 ・・・・・・・・・・


「お待たせしました」


 作戦会議を終えたところで給仕の女性が白い滑らかそうな布に包まれた物を俺

に差し出してくれた。


「ありがとうございます」


 受け取って想像どうり肌触りのいい布をはがす。


 刀は俺だけに聞えるように小さく鍔なりを鳴らした。


「それが刀か……。初めて見る武器だな」


 シン・ルーテシアはそう声を漏らす。


「やっぱり珍しいんですか?」


「ああ、どの国でも見たことないな」


 興味深そうに側に来て、腰につけた刀を見てくる。


「触ってみますか?」


「いいのか?」


「はい? 大丈夫ですよ?」


「うむ、では……。これは、細いが重みがあるな」


 腰から刀を外そうかと思ったが、何故かシン・ルーテシアは俺の前にかがんでそのまま触りだす。


「あの、手渡しますよ」


「……」


 集中しているのか返事がない。


「何か、ヤラシイです」


 テーブルの方から、シン・ユーシアのささやきが聞こえた。


 ヤラシイ? どういうことだ?


「ちょっ何やってんのよ!?」


 ルシアが目を覚ましたのか、慌てたように大きな声を出す。


「どうしたんだっ? ルシア」


 シン・ルーテシアの手が腰に触れて、こそばさから声が少し乱れてしまった。


「どうしたじゃないわよ! こんなところでふしだらな?」


 テーブルに乱暴に手をついてルシアが立ち上がり、俺達を見て固まる。


「ふぅ、どうやっても抜けないな……。どうしたんだ?」


 ようやく現実に戻ってきたのかシン・ルーテシアはそう言って不思議そうに俺達を見回す。


「フフフ。さ、そろそろ迎撃に向かってくださいね」


 シン・ユーシアは少し笑って指示を出す。


「あ、はい」


「何? 何なのよ?」


 少し置いてけぼりのルシアをのぞいて出立の準備に取り掛かる。


 ルシアには向かいながら説明することにした。

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