第44話 パリ会議の結果
さて、ダラダラと会議は続いて1806年になってしまったが。
そしてパリでの各国の領土交渉などは史実とは大きく違うことになったが一応の決着を見た。
ちなみに各国の要人が集合しているパリの治安維持に関してはフーシェがその辣腕を振るっており、トラブルなどは特に起きていない。
「まあ、結果は大方は予想通りであったな」
「はい、落とし所はそう多くはありませんでしたので」
まずフランス共和国はライン川西岸のラインラントやアルザス・ロレーヌをフランスの領土とし、ドイツやネーデルランド諸国との国境線はライン川と明快になった。
これは自然国境説を元にしても不自然ではなかったから周りの国々も受け入れるのはそこまでむずかしくはなかったようだ。
イタリア側は旧サルディーニャ王国並びにジェノバ共和国をフランス領とし、シチリア、ナポリ王国は名目上独立したがフランスの属国となった。
ちなみに教皇領は独立を保っている。
アイルランド共和国及びスコットランド王国は正式にグレートブリテンから独立し、それぞれ独立国として承認された。
ポーランド・リトアニアはポーランド分割前の領土を回復した。
スペインはジブラルタルを正式にイングランドより返還された。
スウェーデン王国はフィンランド地域の領土をほぼ北方大戦争開始前まで回復した。
オスマントルコは1739年のニシュ条約とベオグラード条約で失ったワラキア・モルダヴィアなどクリミア周辺の領土を回復した。
ライン同盟諸国ではザクセン選帝侯領はザクセン王国に、バイエルン選帝侯領はバイエルン王国にその他ヘッセン大公国、バーデン大公国などの少数に統合され減じた諸邦をそのまま国として認めることで、ドイツは小国が乱立することになる。
ここまではフランスの同盟国の動向だ。
イングランドは、西インド諸島のバハマ諸島とドイツのハノーファー王国を再度領土として獲得した。
プロイセン王国はポンメルン(ポメラニア)をスウェーデンより割譲されプロイセン領とした。
ロシアは首都サンクトペトロブルグ及びその周辺を再び獲得した。
スイスはスイス連邦として独立し、ネーデルランドもオランダ、ベルギーとして独立した。
しかし、海外領土に関しての変動は殆どなかった。
「まあ、こんなところでありましょう」
タレーランがいう。
「まあ、ロシア、オーストリア、プロイセン、オランダ、イングランドなどは不満があろうが、そのあたりは敗戦国として受け入れてもらうしかあるまい」
「現状ではあちらも受け入れるしか無いでしょうな」
スウェーデンとポーランド=リトアニア、それにオスマントルコが力を取り戻したことでロシアやプロイセン、オーストリアも今後は迂闊には動けなくなったはずだ。
また独立したスイス、オランダ、ベルギー、ドイツ諸国などはプロイセンとフランスの緩衝地帯として機能するだろう。
スペインとは長年国境を接しているので問題はあまりなかろう。
本来のウィーン議定書の後の政治体制は絶対王政のような古い体制へと戻すものだったが、時代の流れに逆らったそれはフランスで再び革命を起こし、オーストリアでも革命を起こしてオーストリアの没落につながっていった。
そして、グレートブリテン、プロイセン、アメリカはこの後急速に成長する事になり、ロシアの膨張に対してその他のヨーロッパ諸国が手を組んでそれを阻止することになった。
今回のパリ会議では正統主義を掲げる必要はなかったので、世界への自由主義とナショナリズムの広まりは抑えられまい。こうなっては植民地の争奪戦もメリットはどんどん低下していくであろう。
ヨーロッパ諸国はアフリカなどの植民地支配に乗り出すであろうがおそらく各国痛い目を見るようになるだろうな。
我々は先に得た地域をきっちり抑えておけばいい。
無論国内での工業の発展は最優先で進めなければならないが。
「そしてロシアの勢力拡張志向はおそらく東アジアに向かうであろうな」
私の言葉にタレーランが頷く。
「ヨーロッパ方面、中東方面、インド方面はほぼ絶望的でありますから、自ずと極東や東アジアに手を伸ばさざるをえないでしょう。
しかし、首都から遠く離れたところに軍が多く駐留するとなれば反乱発生の可能性も低くはないでしょうな」
ロシアは革命戦争やその後のナポレオン戦争で度々ヨーロッパに侵攻してきたが失ったものばかり大きく得たものは殆どなかった。
それ故皇帝に対しての不満の高まりも大きかろう。
オスマン、アフガニスタン、インド周辺はフランスの影響力も大きいので、その影響が小さい地域に向かうとしたら清や日本に向かうしか無い。
「ロシアが日本に攻撃を加えるようであれば我々は日本を支援しよう。
樺太をおさえることも忘れずにおこなわなければな」
「確かに太平洋の足場としては重要な場所となりましょうな」
これでヨーロッパにはしばらくは平和が訪れるであろう。
戦争をしないで済むならばそれに越したことはない。
私がのんびりと過ごせるようになる日も近いかもしれない。
いままでは働き通しだったのであるから、のんびり余生を過ごさせてほしいものだ。
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