第43話 パリ会議の開催・会議は踊る、されど進まず

 さて、本来ナポレオンがロシア遠征の後に没落し、ウィーン会議が開かれた時、グレートブリテン、オーストリア、プロイセン、ロシアの4カ国はナポレオン戦争の戦勝国としてヨーロッパでの発言力を大きく増大させるはずであった。


 実質的には海の覇者であるグレートブリテンと陸の覇者であるロシアが二大国であって、オーストリアやプロイセンはそのちょっと下扱いではあったが、その他の国に比べれば発言力はかなり大きかったようだ。


 だが、現状グレートブリテンは制海権を失い、イングランド、ウエールズ、スコットランドに分裂しアイルランドも独立している。


 早い時期から親フランスであったアイルランドやスコットランドに比べ、イングランドやウェールズの立場は低いものになっている。


 そしてプロイセンは先ほどの戦争で軍事力をほとんど喪失している。


 オーストリアはプロイセンに比べればだいぶマシだがフランス相手に連戦連敗していいところはまるで無い。


 ロシアはバルト方面の領土をスウェーデンに奪われ、ポーランド=リトアニアも独立し、北方大戦争以前の領土まで縮小した。


 このように状況が全く異なる状態ではあるが、そろそろ兵士も長年に渡る戦争に疲れてきたしヨーロッパに平和をもたらしたいものだ。


 そもそも外交とは、自国の国益の最大化を目指すもので、要はどこの国とは仲良くして、どこの国とは敵対的に行動するかということを明文化することでもある。


 無論、敵対的な国がなければ余計な争いも起こらないのだが、面倒事を武力で解決するということは100年後でも変わらない。


 もっとも、戦争にかかるコストが少なく一国の軍事力が突出していれば、周辺国家をまとめて征服が可能な時代では外交はさほど重視されず、軍事の補助的な手段としてしか外交は行われていなかったとも言えるが、北方大戦争の後の現状では、すでに周りが敵だらけでは精強な軍事力を持っていてもいずれは没落するのは目に見えている。


 事実ナポレオンはスペインとロシアをあまく見て没落した。


 しかし、ヨーロッパにおいて、外交は皇帝、国王、貴族などの一部の特権階級による宮廷外交が主流であった。


 故に君主の気質や信条に寄って進められることも多く、実際に利益とならない外交方針で進められることも多かった。


 ナポレオン戦争時においては、主にオーストリアはフランスに対して感情的に敵対し続けたことで領土をどんどん失っていったな。


「フランスは多くを望むわけではないが、北部はライン川の西はフランス領と定まれば争いも減ろう」


 タレーランが首を傾げる。


「そうならばよいのですがな」


「まあ、他人が得することを許せぬものは多いが、今のプロイセンやオーストリアにはその提案に反対できるほどの国力はあるまい」


「たしかにそうではありますな」 


 私はヨーロッパの各国や主要な組織に呼びかけ、夫々の外交官や代表者がパリに集まって今後の関係を話し合うことにした。


 軍事は相手の嫌がることをするのが最適解だが、外交は相手国の嫌がることを行うのが自国の利益になるとは限らない。


 むしろ長期的に見れば相手の信用を得られないという意味で不利になる。


 1648年のヴェストファーレン会議に引き続いて行われた、1814年から1815年にかけて、オーストリア帝国の首都ウィーンにおいて開催された国際会議であるウィーン会議はあくまでも絶対王政への回帰という保守反動の体制であってクリミア戦争が起こることにより体制は崩壊した。


「できれば平和が長く続くようにしたいものなのだがな」


「なるべく努力はいたしましょう」


 タレーランはそう言ったが、実際にはなかなか話は進むものではない。


 パリで開催されたこの会議にはヨーロッパの殆どの国が参加した。


 フランスとの同盟国はスペイン、ポルトガル、デンマーク=ノルウェー、スウェーデン、アイルランド、スコットランド、ポーランド=リトアニア、オスマントルコ。


 事実上のフランスの占領下である衛星国はネーデルランド(オランダ)、南ネーデルランド(ベルギー)、スイス、サルディーニャ、シチリア、ナポリ、コルシカ、マルタ、ライン同盟のドイツ諸侯国など。


 フランスと中立的であるのは親フランス政権になったイングランド、ウェールス、ローマ教皇領など。


 オーストリア、プロイセン、ロシアなどは和平条約は締結しているがフランスと友好的とは言い難い。


 その他にもリューベック・ハンブルク・ブレーメンの3都市の「ハンザ同盟」やユダヤ教、プロテスタント等の組織の代表も参加する。


 そしてどこの国や組織も自国の利益のために、領土や権威ができるだけほしいわけだ。


 現状のフランスと一対一で殴り合いをしたい国はないからフランスの方針にケチをつける国がないかというとそんなこともない。


 彼らも単独ではフランスに敵対はできないが手を組めばそれなりに戦えると考えているだろう。


 特にオーストリアとロシアはまだ兵力を温存しているからな。


 プロイセンとイングランドは陸軍はほぼ壊滅し、ほぼ丸裸なのでそこまで脅威ではないのだが。


 もちろん小国にもそれぞれ主張があるし、ハンザ同盟やプロテスタント組織なども国際的な地位をあげるべく動いている。


「やれやれ、外交とは面倒なものだ」


 タレーランが苦笑して言う。


「殴り合いは楽ですが、話し合いで落とし所を探るのは大変なのですよ、執政閣下」


「全く君の言うとおりだね」


 信条の違うものと話し合いを行って落とし所を見つけようとするのは本当に面倒なことではある。


 まあ、諸外国には清潔な路地、整備された上下水道、多彩な料理、議会の討論会や自由主義的な雰囲気を持つ大学、政治的意見を掲載する新聞など現状のフランスの状況を見てもらいぜひ自由主義を広めてほしいものだ。

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