第35話 第三次対仏大同盟:大陸戦と大海戦の始まり

 さて、ある日、我が母たるマリア=レティツア・ラモリーノと兄ジョゼフ、妹のポーリーヌが私の自宅へやってきた。


「デジレ、茶を頼む」


「はい、あなた」


「ようこそ、母さん今日は一体どうしたんです?」


「いえ、たまにはあなたの顔が見たくてね」


「はは、すみません。

 ほんとうは母さんのところにも顔を出さないといけないのでしょうけれど、何分忙しくて」


「それはわかっていますから大丈夫ですよ」


 私が母さんと話をしているとポーリーヌはデジレと話をしている。


 今の時間は息子は学校へ行っている。


 幸いなことに私の子供の時のようないじめは受けていないようだ。


 まあ、フランスの最高権力者の息子をいじめるものはいないか。


 私がフランスの第一執政になっても、コルシカのころの昔からの生活を変えることのない母たちは贅沢をせず、倹約生活を送っていた。


 私はそんな母たちを尊敬している。


 ジョゼフとポーリーヌ以外の兄弟姉妹にも見習ってほしいものであるのだが難しいであろうな。


 我が兄ジョゼフは相変わらず優柔不断なお人好しであり政治家や軍人としては無能である。


 もっとも根が真面目な兄は主計局の事務方としてはそこそこ安心して働かせることができる人物ではある。


「兄さんは今の立場が一番あってるんだろうね」


 兄は首を傾げている。


「そうだろうか?」


 私は笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「いや、兄さんのようにまじめな人なら横領などもしないだろうし安心できるよ」


 その言葉に兄は頷く。


「まあ、そういうものかもしれないな」


 人には向き不向きが有って兄ジョゼフは良心的な人物であるのは間違いないが優柔不断であり政治家や軍人としては無能だ。


 史実でのナポレオンは”私はジョゼフをスペイン王にするために、数十万の人命を犠牲にしたが、私の王朝の安泰のためには兄が必要であると考えたのは、私の過失のひとつだった”と言って嘆いている、彼は元々目指していた聖職者になっても良い働きをしたかもしれない。


 もし私の後継者を指名するのであるならば、政治的能力を考えるのであればまずはリュシュアン、その次がルイであろうな。


 その日は楽しく話をして終わった。


 そんなことをしている間にオーストリアが正式に我がフランスに宣戦布告してきた。


 それに続いてイギリスもヘンリー・アディントンが退陣し、ピットが復帰した上で、アミアンの和約を破棄してフランスへ宣戦布告してきたし、同時にロシアとスウェーデンも宣戦布告してきた。


 第三次対仏大同盟の成立で、これに参加した国家はイングランドおよびウェールズ連合王国イギリス、オーストリア、ロシア帝国、スウェーデン王国。


 一方こちらの同盟国はフランス、スペイン、ポルトガル、デンマーク=ノルウェー、オスマントルコ、アイルランド、スコットランド、エジプト。


 そしてフランスの占領下にあるオランダ、ベルギー、ナポリ、シチリア、サルディニア、マルタ、スイスなどだな。


 今回アメリカ、プロイセンは中立だ。


 私は陸軍の編成を発表する。


「ライン方面陸軍最高司令官はオッシュ元帥。

 第1軍団ベルナドット元帥

 第2軍団モロー元帥

 第3軍団ダヴー元帥

 第4軍団スルト元帥

 第5軍団ランヌ元帥

 第6軍団クレベール元帥

 第7軍団ドゼー元帥

 騎兵軍団ミュラー元帥

 イタリア方面軍最高司令官はマッセナ元帥

 第1軍団マルモン元帥

 第2軍団オージュロー元帥

 第3軍団スーシェ元帥

 第4軍団ベシェール元帥

 第5軍団ブリューヌ元帥

 第6軍団グルーシー元帥

 第7軍団モンセー元帥

 騎兵軍団ネイ元帥

 以上である。

 各人の奮戦を期待する」


 ドイツ方面、イタリア方面にそれぞれ投入される総兵力はおよそ25万ずつ計50万。


 その他イギリス方面からの上陸へ備えた北海方面軍は15万など。


 そして同時に北海方面と地中海方面の軍港に停泊している軍船にも海戦の準備を行わせる。


 北海方面はフランス・スペイン・デンマーク=ノルウェー対イギリス・ロシア・スエーデン。


 地中海・黒海方面はフランス・オスマントルコ対ロシア・オーストリアの艦隊決戦になるであろう。


「各軍船に対する砲弾、火薬、水、石炭の補給状況を万全にせよ。

 いつでも出港可能なようにな」


「は、かしこまりました」


 敵よりも多数の兵力を集め、兵站を完全にした状態で、優秀な指揮官を揃えて戦えば戦争というのはそうそう負けぬものだ。


 本来ではイギリスに負けっぱなしのフランス海軍も現状では勝っている。


 アメリカが中立を保っているのも有り難いことではある。


 とは言え油断はするまい。


 ちょっとした油断や慢心から敗北して歴史から消え去った人物など数しれないのであるのだから。

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