第31話 ユーラシアのグレート・ゲーム
さて、アメリカをアメリカ合衆国・ヌーベルフランス・インディアン自治区の3つに分割することで今後アメリカが超大国に成り上がる可能性はかなり抑えられたと思う。
すでに我々はカナダも抑えてあるので北米についてはおそらく問題は起きないであろう。
アメリカ合衆国はミシシッピ川より東のみに今の所は抑えてあるし、これ以上の領土の拡大はさせない方針だ。
そしてヌーベルフランスに対してアメリカが全面戦争を仕掛けることはおそらくはないだろう。
現状のところはフランスとアメリカでは国力に差があるからな。
「それより問題はロシアだな。
タレーラン。
ロシアの動きはどうなっているだろうか?」
タレーランがうやうやしく答える。
「はい、ロシアはヨーロッパ方面からオスマントルコ、中央アジア、清等への拡大政策に切り替えたようです」
「そうか、やはりな」
ナポレオン戦争においてナポレオンのロシア侵攻により絶大な被害が出たロシアではあるが、その後にヨーロッパの覇権を握ったのは事実上ロシアとイギリスだった。
そして、この二国はユーラシアの覇権をめぐってその後も対立することになるのである。
現状イギリスが没落するばかりで、アメリカの大繁栄の芽をつんではあるから、もっとも警戒しなければならないのはロシア帝国であることに間違いはない。
ロシアの領土は大変に広い、だがそのほとんどは極寒の不毛な土地であって、農業生産力などは高いとはいえない。
特にこの時代において大きな価値を持つ綿花やサトウキビが栽培できるような土地を持たず、交易に使いやすい不凍港を欲しているロシアは領土を拡大することに懸命なわけだ。
しかも、ロシアの領土自体は不毛な場所が多いためわざわざその土地を獲得しようとする勢力は殆ど無い。
「面倒なことではあるな。
まずはオスマントルコに対してはある程度軍事的支援を行うべきであろう」
「左様ですな」
オスマントルコは200年ほど前は世界でも最強の国ではあったが、現在ではどんどん衰退している状況であり自力でロシアと渡り合うのは不可能だ。
しかし、ロシアの南下とロシアの黒海の橋頭堡確保を食い止めるためにも、オスマントルコには頑張ってもらわなばならぬ。
無論、それでエジプトなどへちょっかいを出されても困るがその時は痛い目をみてもらうしか無いな。
西のオスマン帝国と同じく衰退が進んでいるのが中国の清である。
だが、ロシアの脅威に直接さらされているオスマントルコに比べ清はまだロシアに対する危機感はあまりない。
この国は人口が多すぎる上にこの国の捕虜になると殺されて解体されて”両脚羊”という名前で肉屋の軒先に吊るされることになるからな。
食人習慣がある国に好き好んで攻め込もうとする者もそうそういないということだろう。
しかも、この国の皇帝はやたらとプライドが高い。
イギリスと交易を行っていた時には清は支払いは銀以外認めぬとした。
そうなればイギリスは貿易赤字が膨らむだけなので、その結果清にうりつけたのが阿片だ。
これが原因でアヘン戦争が起こり、アロー戦争も起こるのだが結果としてイギリスは中国大陸において最も嫌われる国となって支配に失敗する。
それはインドなどでも同様であった。
イギリスはその後、方針を転換し、直接的な領地として植民地を獲得し、そこから税などを搾り取り収奪を行い、反乱は武力で鎮圧するという方針から、相手の近代化を助けて必要な産業を育成して安価で特産品を購入できるようにして、その場所との貿易により利益を出す方針に転換した。
これはイギリスがカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本などに対して行ったことだな。
中国から輸入していた生糸や絹、茶などを日本で作らせ、毛織物などを輸出することでイギリスは日本との交易で利益を上げたわけだ。
「ロシアを抑えるためにも清及び日本に対して
我が国との友好的通商条約を結ぶことはできないかね?」
タレーランは答える。
「武力を持って相手の戦意を削ぎそれから領土割譲の条約を結ばさせてはいかがでしょう」
私は首を横に振る。
「ヨーロッパ圏であればそれで良いが遠く離れた場所にはそれは通用しないであろう。
私がインドの統治をマイソール王国に託している理由は直接統治を行っても反発が強くなるだけだからだ」
「では、どうなさるので?」
「日本に対してはオランダを占領しているのは
我々だということで代わりに我が国と通商を行うように取り計らってもらおうではないか。
清に対してもイギリスの代わりに広州での通商を許可してもらう程度で良い。
いざとなれば装甲艦艇による威嚇くらいは
必要かもしれないがね。
民の敵愾心を煽らず政権上層部に動揺を与える程度に済ませなければならないが。
後はアフガニスタンのサドーザイ朝にも支援を行うべきであるか」
「ふむ、試してみるのも一興かもしれませんな」
こうしてオスマン・トルコ、アフガンの軍事、経済的支援を行いつつ、清及び日本との外交関係の構築を試みることに決まったのだ。
「とはいえ簡単には行かないであろうな」
清は我々を貢ぎ物を持ってくる相手としてしか見ておらず、日本については海外の国との外交そのものを行っていない。
「幕府にオキツグ・タヌマのいる時代であれば違ったであろうな……」
まったくもって外交とは面倒なものだ。
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