第30話 公害対策と上下水道の整備は大事だ、アメリカに対しての対策を行おう

 さて、現状では世界的に仮初であっても平和が訪れている。


 大陸では北アメリカ、インドなどの地域においても大きな戦争は行われていないし、ヨーロッパも平和だ。


 海の上も、国家の海軍が討伐を重ねたことで海賊はすでに大きく衰退していた。


 駆逐を行う役割はイギリス海軍から我がフランス海軍に移動しているが、北海、地中海、大西洋などのヨーロッパの海域からはとっくの昔に海賊は駆逐されていて、カリブ海、アフリカ沿岸、インド洋、東南アジア海域でももはや海賊が活動するのは難しい状況となっている。


 国家と海賊ではもととなる資本や兵数、装備に差がありすぎるからだな。


「まあ、良い傾向であろうな。

 平和なのは良いことだ」


「左様ですな」


 タレーランも私の言葉に頷く。


 一方国内のほうだが、運河や鉄道網の整備は徐々に進んでいる。


 フランスの運河は大西洋岸から地中海沿岸に貨物を輸送する際に、ジブラルタル海峡の通行税をスペインから取られずに済むようにルイ14世の時代からフランスを縦断するように作られ始めた。


 なので英国の運河のように産業地帯を結んだわけではないので、経済にはあまり貢献しなかった。


 運河の関所では通行税が結局どんどん取られることでそれほど安くは上がらなかったわけであるが、国内の貴族に入る分だいぶましだとルイ14世などは考えたのだろう。


 これは絶対王政であっても貴族の利権争いもかなりあったからだな。


 いままでのフランスの運河はあくまでも王族貴族の利益のために作られたものだった。


 そして運河は200から600トン程度の船しか通れない小さな運河が殆どである。


 以前であればそれでも良かったろうが、産業革命を通して水運は大きく変わった。


「ライン川なども水路の整備を行いたいのだがな」


「しかしプロイセンなどはそれを認めませんでしょう」


「ああ、あのあたりは鉄鉱石や石炭などの資源産出地があるからな。

 あちらもおいそれとは手放すまい」


「そのとおりです」


 国境についてプロイセンと揉めているのは石炭や鉄鉱石などの資源産出地をお互いに自分たちの国の領土にしたいからだ。


 お互いそれに対しては譲ることはできないからどうしても争いになるのである。


「とはいえ国内のいままでの運河も全く役に立たないわけではない」


 運河は農地灌漑用の用水路の役目も果たしている。


 雨の少ないヨーロッパではこれは大事な役割でもあるのだ。


 イギリスからのジブラルタル奪還にフランスが大きく協力したのもあって、ジブラルタルの通行税は我がフランスは現状では取られていないから大きな船は素直に海上を走らせたほうが良い。


 私はフルトンなどに指示を出す。


「海外にばらまく金が国内を衰退させるようでは本末転倒である。

 まずは革命戦争で破壊された産業の復興を第一に行うように」


「は、かしこまりました」


「ただし、蒸気機関を多数活用するようになればロンドンスモッグのような大気の汚染も起こるだろう。

 それに対しての配慮を行うように通達せよ」


「は、かしこまりました」


 まあ、イギリスと違い国土は狭くない我がフランスであれば、そこまでスモッグは深刻にはならぬとは思うが。


「それと、大都市の公衆トイレの掃除の徹底と路上への汚物廃棄の禁止徹底をおこない、大都市の上下水道について

 これを速やかに整備せよ」


「は、かしこまりました」


 中世のパリでは、街路に家の中から汚物が投げ捨てられていた。


 これは他の欧州の諸都市と同じであるのだが、やがて1531年にそれに関しての禁止の法律ができ、家主は各家にトイレを設置しなければならなくなった。


 だが、実際には徹底されず相変わらず道路への汚物の投げ捨てが行われていた。


 フランス革命の頃にはようやっとパリにも公衆便所ができてきたが、その多くはろくに掃除もされずあまりに不潔で、事実上使い物にならなかった。


 し尿の大部分はパリ北東部のモンフォーコーンの石切場跡地に投棄され大地の斜面を利用してし尿が順々に流れ下ることによって、固形物と液状部分に分離させて、液状部分はセーヌ川に流し、底に残った固形物は天日で乾燥し、肥料として主に野菜栽培者に売られている。


 さらにパリの市民は長い間、セーヌ川の水を汲んで売り歩く、水売りの水を買うことで生活用水を得ていた。


 その為、私はパリの公衆衛生と水の確保のため、水運と水道を兼ねるウルク運河の工事を開始させた。


 ウルク川からセーヌ川まで運河を掘ることで、水運に利用するとともに、パリの街路と下水道に通水して洗浄し、その水は上水道としてもつかうのだ。


「まあ、あまりにも都市が不衛生なのは問題だからな」


「さようですな」


 プロテスタントの優遇政策なども有って、国外へ逃げ出していたフランス系プロテスタントも戻りつつある。


 そして、革命戦争で大規模に破壊された国内の産業の復興はめざましい速度で進んでいる。


 人口が増えればどうしてもし尿なども増える。


 これをクリアしなければコレラなどの伝染病の流行も防げない。


 だからできれば早期にトイレを水洗化して、トイレが不衛生にならないようにしたいものだ。


 そのためには上下水道とそこから出てくるものを土に返すための下水処理のための広大な畑が必要だ。


 私は下水道が完成した箇所から家庭の下水は必ず下水道に捨てる事を義務付けた。


「これで糞尿の臭いとおさらばできればよいのだがな」


 フルトンが頷く。


「そうですな」


 さて、本来イギリスは海外に植民地を多数持っていたから栄えたのではなく、国内における産業と精強な海軍を持っていたからこそ、世界帝国を作り上げることができた。


 現状におけるイギリスはポルトガルやオランダと同じ道を歩みつつあるがな。


 其れに変わって勢力を強めているのはアメリカだ。


 今のところはアメリカ合衆国はミシシッピー川の西岸の仏領ルイジアナに対して攻撃などを行うつもりはなさそうだが彼らにとっては邪魔であるのは間違いないだろうな。


「いっその事、仏領ルイジアナを親仏国のヌーベルフランスとして独立させ西部のネイティブアメリカンとは同盟を結んで、米国に対抗させるか」


 ヌーベルフランス、要は新フランスという意味合いだ。


 アメリカ合衆国が本来通り西海岸まですべてを領土としてしまうとその国力は我がフランスも大きく上回るようになるであろう。


 であれば東のアメリカ合衆国、中央の仏領ルイジアナあらためヌーベルフランス、西部のインディアン自治区に分割してしまったほうが後々の脅威とならないで済むのではなかろうか?


「ふむ、それも良いかもしれません。

 むろん、独立させたあとでもフランスからのヌーベルフランスへの支援は大切ですが」


 タレーランはいう。


「ああ、そうだな」


 イギリスとアメリカは争うことも有ったが、親子のような関係である。


 同じような関係を我がフランス本国とヌーベルフランスとで築くことでアメリカ大陸で強大すぎる国家の発生を防ぎたいものだ。


 ロシアについても本来は国力を削ぐための対策をなんとか行いたいものなのだがむずかしいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る