第29話 平和なうちに世界各地の海外根拠地の港湾整備を進め、現地との友好関係を築いておこう

 さて、1802年現在、ヨーロッパにおいて我がフランスとオーストリア及びイングランドとの停戦はなったので今のうちに内政や海外拠点の整備を進めておこう。


「本来的には軍事は最後の解決手段だからな」


 タレーランも頷く。


「左様でありますな」


 もはや、戦争の形態は大きく変わり、国王とその下の貴族が自らの財産でしつらえ訓練した軍隊で彼らの私益のために戦争をする時代は終わったのだ。


 武具についてもロングボウやスートオブアーマーがあれば無敵を誇れる時代でもない。


 昨日の農民が少し訓練をして銃のトリガーを引けば騎士を簡単に打ち倒せる時代になってしまったのであれば、対応も変わってくるというものだ。


 その結果はナポレオン戦争におけるスペインやロシアで何が起こったかを考えればわかるだろう。


 民衆は王のためにではなく国、わが祖国のために戦うようになったのだ。


「で、あればヨーロッパ大陸での戦争の継続と拡大は無意味であり、可能な限り地球全体におけるフランスの商圏を広げ、その通商経路を維持できるようにするべきであろうな」


 私に言葉にタレーランが頷く。


「確かにそうでありましょう」


「それとともにフランス国内の鉄道網と道路網の整備も急務だ。

 こういった交通網の整備は国内の物流にも寄与するしな。

 フルトン、現状はどうかね」


「はい、地中海側と北海側の主要な港などとを南北に縦断して、途中の都市や鉱山、炭鉱を結ぶ鉄道の建設は順調です」


「うむ、ではそのまま進めてくれ」


「はい、おまかせください」


 無論、鉄道網の構築は非常時には兵士や軍需物資、弾薬や食料の前線への輸送にも大きく寄与するはずだ。


 と、同時にエジプトの直線的な大型船が航行可能なスエズ運河の開通工事を進めさせながらも、我々がインド攻略のときに用いた旧運河の拡張も同時に進める。


「旧運河もカイロなどに物資を運ぶ際には役に立つからな」


 それとは別にアフリカ西廻り航路の要所の港には石炭と水を補給するための施設を構築させる。


 帆船では季節風や潮の流れに頼らざるをえないが、蒸気機関を用いた船であればそういったものの考慮は少なくて済む。


 その代わりに燃料である石炭や水は必須になるのだからその準備が大切になるのは自明の理だろう。


 そしてそういった港のある都市の住民とは当然友好的な関係を結ぶ必要がある。


 本来、フランスは西アフリカに広大な植民地を獲得したが交易を行う市場としてはほとんど役に立たず、実質的には経費ばかりかかり植民地支配は大幅な赤字だった。


「で、あればこそあまり無駄に植民地を広げる必要はあるまい」


 結局この後、植民地経営は段々と儲からなくなっていくものでもあるし、香辛料や天然ゴム、綿花やサトウキビ、金や銀、石炭などの産出地などの重要な場所さえ抑えておけばいいであろう。


 そしてたまにはデジレや息子のナポレオン二世とのんびりすごそうか。


「さて、久方ぶりにゆっくりとデジレや息子の顔を見てくるよ」


 私はそう言って執政室から出て、久方ぶりにデジレのいる家に戻った。


「かしこまりました、ではお気をつけて」


 フーシェがそういうと、やはり私の周りに護衛のものがわらわらと集まってくる。


 王党派の爆弾テロ事件とその関係者の逮捕以来、テロを起こそうとするような王党派の過激派の弱体化は著しいが、まだジャコバンにも王党派にもテロを狙うものは居るであろうし仕方ない。


「やあ、デジレ、ナポレオンは元気かい」


 デジレがニコニコ微笑みながら私を迎えてくれた。


「あら、おかえりなさい」


「パパ、おかえりなさい」


 5歳になる息子はだいぶ大きくなっていた。


「ふむふむ、ナポレオン、元気だったかい?」


 息子はニコニコして言う。


「はい、僕は元気です、来年は学校に入学するので勉強が大変です」


 そしてデジレも言う。


「パパの名前に恥じないようにしないといけないからね」


 私は苦笑する。


「そうか、でもそんな無理をさせることはないぞ。

 お前はお前の生きたいように生きればいい」


 そう言って私は息子の頭を撫でたあと、息子を抱き上げた。


「はい、でも、偉大なる第一執政の息子として恥じないようにはしますよ」


 うむ、私は皇帝になるつもリはないし、私の子供にも軍人や政治家の道を強要するつもりはないが、この子がそういった道を選びたいというのであればそれを止めるつもりはない。


「ああ、頑張れ。

 私も応援するよ」


 できれば今後はフランス国内での戦闘や内乱などは起きないようにしたいものだ。

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