第25話 甜菜糖を大量生産できるようにしようか、また戦場医療などを改善しよう

 さて、フランスは世界各地の温かい島々などで栽培しているサトウキビを輸入することで砂糖の生産はそれなりに好調なのだが、それをやりすぎてサン・ドミンゴ(のちのハイチ)などで反乱などをおこされる前に、そういった島でもある程度食料の自給が可能になるように穀物などを栽培させ、その生産量が低下する分は寒い地域でも栽培できる甜菜から砂糖を取り出して十分に砂糖を確保できるようにしたいと思う。


「甜菜糖を工業的に作れるようにしたプロイセンのフランツ・アシャールはプロテスタントだったかな?」


 私はフーシェに聞いてみた。


「おそらくは」


 砂糖を作るために栽培されるサトウキビには連作障害があり、続けて栽培するとどんどん収穫量が減っていく。


 そのため耕作地を変えて栽培しないといけないが、それには当然それだけの広さの土地と労働力が必要だ。


 このために、主に西インド諸島などにさとうきび畑を大量に作っていたわけだが、その背景には奴隷労働があったわけだ。


 だから島でサトウキビばかり栽培させたりすることになるわけだが、もはや力ずくの統治が可能な時代ではない。


 また、フランスは人民平等を掲げている以上奴隷制を継続することは許されない。


「自由の国アメリカが奴隷制に支えられているのは皮肉なことだがね」


 この時代において海外の植民地確保に大きく遅れたプロイセンは砂糖を十分に確保できなかった。


 しかし1745年にドイツの化学者アンドレアス・マルクグラーフが飼料用ビートから砂糖を分離することに成功し、マルクグラーフの弟子であったフランツ・アシャールが砂糖の、商業的規模での工業的な抽出工程を完成した。


 実はヨーロッパで甜菜糖が工業的に製造される前からネイティブアメリカンは自然の甜菜から砂糖を抽出していたという説もあるようだが、工業的に大規模な生産が可能なものではないはずだ。


「ビートから砂糖が取れるようになれば、 ロシアの農作物の品目に1つ大事なものが増えような」


 またビートは砂糖を取り出すという以上に農業や牧畜の発展に寄与できる作物でもある。


 ビートは、第一にその栽培を行うことで地力を増すことができ、第二に葉と搾りかす(ビートパルプ)は、牛などの家畜の飼料として利用できる。


 甜菜糖は正直味はサトウキビのものより良くなく、そもそもビートは飼料という偏見もあるが、フランスではまず甜菜糖の普及を推し進めればなんとかなるだろう。


 私はフランツ・アシャールをフランスに呼び寄せて、工場の建設の資金を出すことでそれを後押しし、寒い地方でのビートの栽培も推奨した。


 もったいないことにドイツでは彼の甜菜糖はあまり売れていなかったらしい。


「ありがとうございます。

 きっと甜菜糖の工業的生産は閣下のお役に立ちましょう」


 アシャールの言葉に私は頷く。


「うむ、期待しているよ」


 最初は牛にやる餌の砂糖と認めぬものもいたが、サトウキビ砂糖よりも甜菜糖を低価格で売り出すことでそれの普及に取り組んだ。


 また陸海軍の軍隊の兵士たちの飲み物にも甜菜糖を添えることで軍隊での普及を行わせた。


 このとき粉末スープの工業生産を普及させ戦場における腐りにくく運びやすい軍隊食を広めることも忘れずに行ったよ。


「まあ、甘味の誘惑に勝てぬものは多いということだな」


 それとともにクリミヤ戦争でナイチンゲールが行った戦場医療の改良も進めよう。


 この時代、戦場における仮設の野戦病院は、ひどく不衛生であった。


 その為傷病兵が野戦病院内での二次感染により病気になって死亡する例も少なくなかった。


 であれば野戦病院における清潔さを保ち、便所を徹底的に掃除させ蝿の発生などを可能な限り防がせた。また血や泥の付いた衣類の洗濯を行い、それを経由した病気の感染を可能な限り防がせるようにした。


 負傷者を迅速に野戦病院に運ぶために、訓練された御者と衛生兵と担架運搬要員のいる馬車に乗せる仕組みも構築した。


「まあ、これで病院にて破傷風や敗血症で死ぬものは減るであろう。

 戦死者や戦傷者が出ないようにすることはできなくともな」


 傷病者の治療の優先をつけるトリアージを最初に始めたのもナポレオンであるが私もそれを行わせることにした。


 味方の負傷兵については部隊指揮官の治療を優先したり、軽症ですぐに戦列に復帰できる兵士の治療を優先したり、戦術上重要な技術者の治療を優先したりして、軍隊という組織力の保持を行うのがトリアージだ、これは合理的ではあるが非人道的でもある。


 しかし、戦場で負ければ戦死者や負傷者はもっと増えていくのである。


 トリアージは負けぬために必要なことなのだ。


 海軍はキャベツの漬物であるシュークルートを各士官や水兵たちに食事で取らせることで壊血病を確実に防ぐ。


 それにジャガイモもなるべく食べさせる。

 壊血病の予防には加熱しないライムやオレンジなどの果汁が有効だが、それと同じ程度に加熱しないキャベツの漬物であるシュークルートは役に立つからな。


 加熱するとなぜだめなのかはわからないが、壊血病が防げるのであればそれでも問題はない。


「壊血病にならなくなる理由は問題でない。

 人が死ななくなるのであればそれで十分だ」

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