第24話 フランスの政教分離とプロテスタントの優遇

 さて、この時代のヨーロッパにおいて軍事力や経済力的な実力でヨーロッパの外交的な決定権を持っていたのは、イギリス、オーストリア、ロシア、プロイセン、そしてフランスの5カ国である。


 本来のタレーランとメッテルニヒが構築したウイーン体制もイギリスの圧倒的な海上戦力と経済力、ロシアの圧倒的な陸上戦力を軸にその他の3カ国が落とし所を見つけ仮初の平和を築いたわけだが、結局フランスではルイ18世等の反動的な政治に対しての革命が起きてその後、立憲君主制、第二帝政から共和制に戻り、ロシアと英仏が争うクリミア戦争が発生することでその体制は崩壊する。


 もっとも現在のイギリスはスペイン並みに衰えているがね。


 そして現状ジョゼフィーヌと交際をしているオッシュ大将は私の期待にこたえるべくイタリア北部においてオーストリアに対し勝利を重ねて北イタリアを席巻した。


 ラインのモローは現状は一進一退というところだな。


「まあ、このあたりは予想どおりというところか」


 さて、こんな状況だがそろそろフランス国内の宗教に関してはどうするべきかを考えるべきだろう。


 1562年以降フランスはカトリックとユグノーと呼ばれるプロテスタントとの内乱状態になっていた。


 しかし、1572年8月24日のサン・バルテルミの虐殺と呼ばれる事件の発生によりその時にカトリックがプロテスタントを大量虐殺したためにプロテスタント勢力は弱体化した。


 だが、その後の1598年4月13日にフランス王アンリ4世が発布したナントの勅令によりプロテスタント信徒に対してもカトリック信徒とほぼ同じ権利を与えられた。


 しかし、1685年ルイ14世の発布したフォンテーヌブローの勅令によりナントの勅令は廃止されて、プロテスタント信徒の大半はネーデルラント(オランダ)などの国外へ逃れ、このときにはプロテスタント信徒はフランスの産業や貿易の中核を占めていたため商工業や貿易の担い手を失ったフランスの産業の衰退を招くことになった。


 結果としてはそれを補うための増税政策に反発した一般国民などの不満が爆発したのがフランス革命の原因でもある。


 まあ、もっと直接的な大きな原因は軍事費の際限のない増加なのではあるが。


「いずれにせよ、国外に逃げ出したプロテスタントも呼び戻すに越したことはないであろうな」


 イギリス、アメリカ、ドイツなどプロテスタント国家では産業革命が進んで行われ、カトリック国家はその後塵を拝しているのも間違いはない。


 そして、フランス革命において革命軍は特権階級であるカトリック教会の聖職者を徹底的に攻撃した。


 中世においては宗教と政治は密接な関係があったからな。


 その革命軍によるカトリックの聖職者への攻撃はなまやさしいものではなく多くの聖堂や修道院が破壊され、聖職者は処刑され、または自ら国外の亡命したり追放されもした。


 その時にフランス国内の教皇領も失われた。


 当然であるが、フランス政府とローマの教皇庁との関係は悪くなった。


 しかし、革命家たちは宗教を不要だといったのではなく聖職者の特権は非必要だと主張したのである。


 実際にカトリック教会に対しての全否定が行われたフランスでその後、何が行われたかというと「最高存在」という信仰に置き換わった。


 最高存在とは人間が持つ理性のことをしめし、最高存在の祭典が行われた。


 理性尊重という無宗教の祭典が神聖なものであることを必要とされたのはまったくもって馬鹿馬鹿しい話ではあるのだが。


 そして実際にカトリックの司祭のいなくなった教区では、ミサもキリスト教の祭典もおこなわれなくなり、信者にとっては日々の、週末の、季節の楽しみを失い、民衆の信仰心もしだいに薄れていくが、理性が尊重されることはなく、農村でも都市部でもキリスト教的風紀が大きくゆるむことで、享楽的な雰囲気がはびこっていくことになる。


「やはり宗教そのものは秩序のためにも有ったほうがいい。

 しかしアメリカのような政教分離政策が必要であろう」


 本来のナポレオンは王党派に満足させるためにもローマの教皇との和約を結んだのだが、これに関しては王党派の支持を得る意味は全く意味はなかったのだがね。


 まずはフランスの国家の国教の設置は禁止とする。


 特定宗教に国家権力に関与はさせたくないからな。


 教会が独自に自治権や徴税権、徴兵権などを持つのも禁止。


 公立学校では宗教的な教科の教育、神学などは今後禁止する。


「私が幼年学校や士官学校で教育を受けた時もやたらと神学などの時間が多かったからな。

 軍人にはあまり意味は無いと思うのだが」


 フランスではカソリックやプロテスタントなどの特定の宗派を優遇もせず冷遇もせず、国家として各宗教には完全に中立的で平等な対応をとる、と表向きはするが基本的にはプロテスタントを優遇しカトリックやユダヤ教などの他の宗教はその下としようと思う。


 そして政治に対して宗教団体が関与することを一切禁じ議会開会時の神への祈りも廃止する。


「民衆に宗教は必要だが、国家に宗教は必要ない」


 結局はただそれだけのことなのだ。


 プロヴァンス伯ことのちのルイ18世に権力を返上するつもりもないしな。


 彼が私以上に国家をうまく統治できるか、立憲君主として”君臨するとも統治せず”を貫けるならばまた話は別なのだがな。


 まあこれによってプロテスタントとカトリック、ユダヤ教の教会などはフランスの各地に復活し、農民などは次第に革命以前の生活に戻っていくことになる。


 神という精神のよりどころを失っていたものの、各時節の祭りなどが復活することで、人々は娯楽も取り戻せたわけだ。


 また、証券取引所と会計検査院の設立を行い、公立の高等学校と大学の設立も進め、工業博覧会の実施を行い、陸海軍の軍隊を始めとする職業に制服の導入を行う。


 海軍は今までは水夫とされていたものは全て水兵、もしくは海兵隊としきちんと制服を与えることで意識を刷新させた。


 パリの大規模な都市計画整備を行い、街の番地の整理、上下水道の整備や、噴水や広場なども整備していき、革命で荒廃したパリを見目も良く住みやすい都市にしてゆくことにした。


「アメリカには負けていられんからな」


 プロテスタントの職人などがフランスに戻ってくれば、なお一層工業も発達するだろう。

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