第22話 今のうちに全世界の海外拠点の確保を行おう

 さて、フランス国内においての軍事、内政についての改革を進めつつもフランスの海外拠点となる場所を押さえておこう。


 本来はイギリスが海外植民地として押えてしまう場所を私が押さえてしまうのだ。


 もっとも、これからの時代は植民地の広さだけ広げてもメリットはない。


 植民地を広く領有しても、本国の利益にならず、それどころか、駐屯や防衛、インフラ整備等の費用などの負担が大きくなるだけだからな。


 だから、交易の航路の要所や支配を行うために多数の人数を必要としない島などを優先して制圧する。


 もしくは諸外国の干渉を受けにくい場所だな。


 そうなるとまずは南アフリカのケープ植民地のケープタウンだ。


 ここはもともとオランダ領だが、1795年にイギリス艦隊がケープタウンに上陸し占領してしまっている。


 しかし、もはやイギリスの船はスペイン沿岸の船の航海も危険になり地中海の制海権も東インド会社も失った。


 孤立無援に近いのケープタウンはイギリスにとってはもはや維持できる見込みはなかろうがな。


 ちなみにオランダは1795年にフランスに占領されているので実質的にオランダの植民地はフランスの植民地でもあるのだがね。


 私は海軍の諸提督に命令を下す。


 まずはピエール・ヴィルヌーヴに対して命令を下す。


「まずは南アフリカのケープ植民地をフランスに取り戻すのだ。

 それからインドのセイロン島、東南アジアはシンガポール島やマラッカも制圧せよ」


「はっ」


 すでに新型の蒸気機関搭載の装甲船などがメインになってきているのもあり、石炭と水を補給できる寄港地は特に重要性を増している。


そしてアフリカ最南端のケープタウンは交易路の要衝でもある。


 それなりに大きな船が地中海から紅海まで直進できるようなスエズ運河が完成するまではアフリカ周りの航路はまだまだ重要だからな。


 特にマラッカ海峡は東アジア地域の航路で重要な地域だ。


 オランダが先に押さえていたものを本来ならイギリスが押さえていくわけだが、私はイギリスよりも先にそういった地域を押さていくことにした。


 そして支配や改革が比較的容易い島などを優先して押さえていくようにしてゆく。


 そしてこの時期であってもインドから東南アジアは香辛料や天然ゴムなどの重要な産地である。


 ここを最優先に押さえるに越したことはない。


 次にヴィラレー・ド・ジョワイユーズに命令を下す。


「西インド諸島を再度制圧し、北米大陸フランス領ルイジアナに所属する港の整備も急ぐようにせよ」


「はっ」


 1800年10月1日に調印されたサン・イルデフォンソ条約で、パルマ侯爵領と引き替えにスペインがフランスに仏領ルイジアナを戻すことになった。


 これは主にミシシッピ川流域の広大な領地で、独立戦争で勝利したあとのミシシッピー川の東側の現状のアメリカ合衆国とほぼ同じ面積でもある。


 これでミシシッピ川西側流域などを我がフランスが押さえることができるようになるわけだ。


 本来であれば海軍戦力のないナポレオンはアメリカにこれを格安の値段で売ってしまうのだが、私はイギリスにカナダの森林資源の木材を入手させるつもりもない。


 イギリスに対しての嫌がらせのためにも利用させて貰おうではないか。


 無論アメリカの商人にミシシッピの航路などは使わせて通行料を取ったりはするがな。


 その次に私はフランソワ=ポール・ブリュイに命令を下した。


「オーストラリア大陸とニュージーランドを押さえよ。

 抵抗を行わない原住民への攻撃は控えよ」


「はっ」


 この時点ではオーストラリアやニュージーランドはまだイギリスが押さえている訳ではないが先に押さえてしまったほうが良いだろう。


 オーストラリアは鉱物資源も豊富であるしな。


 最後にエチエンヌ・ペヴリューに対しての命令を下す。


「サン・マルクフ諸島を制圧しイギリスの手から解放せよ」


「はっ」


 サン・マルクフ諸島は1795年にイギリスの駐屯隊が置かれ、以降北フランスの沖を航行するイギリス海軍軍艦への、再補給基地として機能していた。


 ここを叩き潰せばイギリスの海峡艦隊の行動能力も低下しよう。


 さてヨーロッパ外交としてはどうしたものだろうか。


 タレーランは言う。


「あなたはフランスの最高権力者としてふさわしい外国の王女を后に迎えれば良いのです。

 そうすれば大陸における戦争も収まりましょう」


「ふむ、君は私にデジレと別れろと言いたいのか。

 そして君がどこの娘と結婚させたいのかは 薄々検討はついているがね」


 タレーランは飄々として言う。


「ほう、どこの国の王女とお考えで?」


 私は1つ息を吐いたあとでいった。


「当然オーストリアであろう。

 我がフランスとは王や王妃の処刑以来、絶対的な敵対関係にあるからな」


 タレーランはすました顔でいった。


「はい、オーストリアとフランスが同盟すれば

軍事力で太刀打ちできる国はございません」


 その言葉に私は続けて言う。


「そしてイギリスやアメリカとも同盟を結ぶのかね?」


 タレーランは答えた。


「はい、そうすればロシアも迂闊には動けなくなりましょう」


「ふむ、君の言うことは一理あるがすでに凋落を避けられぬであろうイギリスといまさら同盟を組む価値はあるのかね?

 今後はおそらくポルトガルやオランダと同じような経過をたどると思うのだが」


「ならばなおさら、ロシアの拡張主義に対抗するためにもイギリスとの同盟は必要でありましょう。

 更にはイギリスの立憲君主制こそが政治の理想というものです」


「ふむ、君は私に英雄として持ち上げられるだけの存在になれというのかね?」


「そうはいっておりませぬが」


 タレーランはオーストリアとイギリスと同盟を組むことでロシアを牽制しておきたいらしい。


 まあ彼は古い王権を重視する価値観の持ち主でもあるからな。


 私としてはロシアと血縁関係を結び同盟をしてをオーストリアやプロイセンの牽制をしてもらいながら、イギリスを徹底的に干上がらせてしまいたいところなのだが。


 尤もイギリスを占領しようなどということは考えてはいない。


 もしそうしたことを行えば、本来のスペインと同様泥沼の消耗戦に発展する可能性が高いだろうからな。


 まあそもそもデジレと別れたくもないのだが、政治的にはそれも許されぬのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る