第18話 イギリスの東インド会社壊滅

 さて、海上にてイギリスの東インド艦隊を撃破した私はカルカッタに1万5千人の兵を上陸させることに成功した。


 しかも、上陸した兵の装備は最新鋭のミニエー銃やシャスポー銃である。


 親英派のフランス外務大臣であるタレーランは私を政治的に失脚させるためにエジプト遠征計画を進めたという話もあるが、現実的にはイギリスはもう落ち目どころか没落がほぼ決定しているのだ、タレーランや王党派にとっては残念だったというべきであろう。


 そしてイギリスとの戦闘の準備をすすめるうちに年は変わって1799年になった。


 1792年2月6日から2月24日に行われた第三次マイソール戦争のダメージはマイソール朝には色濃く残っていたが、我がフランスの援軍をえてマイソールの軍の士気は高まっていた。


 私は彼らの前で演説を行う。


「暴虐なイギリスの軍を打ち破るために我々は来た。

 共に戦おうではないか!」


「おおっ!」


 そしてティプーは私に告げた。


「まずは数の少ない北のイギリス軍から撃破するぞ」


 私は頷く。


「では東の軍の足止めは私がしておこう」


 2月11日、ジョージ・ハリスの率いるイギリス軍3万7千人とイギリスの配下に甘んじているニザーム藩王国(ハイダラーバード)の1万6千人がマドラス(現在のチェンナイ)からマイソールの国境を越え、西に進んできた。


 本来であればその中にはアーサー・ウェレズリーも含まれていたはずだったのだが彼は海の藻屑になっているので彼はいない。


 同時にジェームズ・スチュアートのイギリス軍6000人もボンベイ(現在のムンバイ)からマイソールへ南下してきた。


 一方のティプー・スルターンの配下にはフランスの軍事顧問によって訓練を受けた5万人の兵があり、北進にした後ペリアパタムでステュアートの部隊を奇襲し、まずは北部から先行してきたイギリス軍を戦術的撤退に追い込んだ。


「よし、我々はイギリスの補給部隊を徹底的に攻撃するぞ」


 ハリス率いる軍勢はゆっくりとした動きでマイソール方面へ進攻したが、全軍の隊列は数マイルに伸びており、その中には当然食料や弾薬の輸送部隊も含まれていた。


「では、裏道の案内を頼むぞ」


「はい、任せてください」


 私は現地の人間に裏道や獣道を案内してもらい、小隊単位で歩兵部隊を行動させた。多数の去勢牡牛や馬や象に食料を入れたカゴを載せたイギリス補給部隊へ、司令官をまずはミニエー銃で狙撃して殺し、敵が動揺したすきに攻撃をくわえて、それでも接近してくる守備隊はシャスポー銃で打ち倒し、牛や馬や象が運んでいる食料弾薬を可能な限り奪い、持ち帰れない分は油をまいて焼き払った後、ゆうゆうと引き上げるという襲撃作戦を徹底的に行なった。


 イギリスとニザーム藩王国の軍は5万を超えるから、たちまちのうちに飢えることになる。


 更に我々はイギリス軍の各陣地に集積された食料や弾薬などを夜襲で奪ったり、焼き払ったりすることで、イギリス軍を追い詰めていった。


「敵の領内に大軍で入り込んで、長々と補給線を伸ばしては勝てるものも勝てぬよ」


 とは言え本来であればマイソールの攻撃はイギリスのマスケット銃の射撃で追い払われてしまうのだが、今回はインドのイギリス軍のマスケット銃はすでに旧式で、射程に勝るミニエー銃や装填速度で勝るシャスポー銃があればこそ可能な作戦では在るのだがな。


 イギリス軍は現地での略奪を繰り返して領民の反感を買いながらも進んできたが、脱落する兵士も続出し、もはや疲労の色は隠せなかった。


「ではイギリスにとどめを刺そうではないか」


 イギリス軍はようやく大軍を展開できる地形に達し、我々に対し大軍の利を活かして、正面から決戦を行おうとしたが、ティプーの所持する鋼鉄製のロケット砲部隊による遠距離射撃で、イギリスの陣地の弾薬庫の砲弾が誘爆すると右往左往することになる。


 実質的に砲兵戦力を失ったイギリス及びニザーム藩王国の軍はマイソールの軍やフランスの方陣にマスケットで挑みかかるも、フランスの方陣には全く歯がたたず、数では互角のマイソール軍相手には善戦したものの食料や弾薬の不足による兵の士気低下は戦力の低下を招いており、結果としてイギリスは正面決戦で敗北し、全軍の三割にのぼる多数の戦死者を出した後、我々に降伏することになった。


 これは事実上イギリスのインドにおける戦力の壊滅を意味する。


 イギリスの東インド会社はフランスが占領しニザーム藩王国はマイソール朝に従うことになった。


 イギリス東インド会社が領有していた土地は我がフランスの物となり、結果として南インドや東インドに拠点を再度構築することに成功したのだ。


「これでマダガスカルやモーリシャスの食料も安定して供給できるか」


 マルモンは頷いた。


「まあ、そうですな」


 マイソール朝のティプーとは軍事同盟を締結し、マイソール及びニザーム藩王国については自治を認め、東インド会社の領土に関しては、フランス式の統治を行い相互は内政に関し干渉しないということで落ち着いた。


「まあ、彼ならうまくインドをまとめていくだろうさ」


 彼はヒンドゥーのバラモンの特権を国教をイスラム化することによって奪い、効率的な国家運営を行おうとしているし、民間の徴税官を排し、徴税官が私腹を肥やすのを罰して庶民の税負担を減らし、フランスから職人を招いて養蚕や絹織物産業を育成しようとしていたからな。


 ここで下手に口を出しても混乱するだけであろう。


「では、東インド会社の守備隊を残してエジプトに戻るぞ」


 私はエジプトに戻ることにした。


 オーストリアとオスマントルコがエジプトに攻め込もうとしているという連絡を受けたからだ。

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