第17話 イギリス東インド艦隊殲滅

 さて、3ヶ月ほどでエジプトもだいぶ落ち着いてきた。


 そして古代に使われていた運河の遺構からの砂の除去も終わった。


「やはり最初から掘るよりはだいぶ楽だったようだな」


 副官であるマルモンは頷く。


「まあ、砂で埋まってるだけの場所から砂を取り除くのと硬い土を掘り返すのではだいぶ違いますからね」


「まあ、落ち着いたら乾季でも関係なく使用でき船がまっすぐ進めるような運河にはしたいがな」


「まあ、そうですな。

 今の状態ですと水が少なくなったら使えなくなりそうですし」


 私がカイロ攻略のために持ってきたフリゲートは乾季になって身動きが取れ無くなる前にアレクサンドリアの港に戻し、私はコルベットと小型輸送船を用いて運河を紅海側に進み、1万5千の兵をもってインドのイギリス軍の制圧に乗り出すことにした。


 イギリスの総督はナポレオンの百日天下を阻んだウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーの兄であるリチャード・ウェルズリーだな。


 本来であればリチャード・ウェルズリーはニザーム朝と同盟を結んでフランスの軍事顧問を追放させた上で、マイソール朝を滅ぼし、ティプー・スルタンは壮絶な戦死を遂げたのだが、現状はむしろイギリスのインド方面軍は孤立している。


 地中海方面軍が壊滅し、英仏海峡艦隊からジブラルタルに派遣した守備艦隊も壊滅したイギリスは深刻な海上戦力不足に陥っており、ここぞとばかりにスペインやオランダは軍船や私掠船などでイギリスの商船に襲いかかり交易に深刻な被害を与えている。


 まあ、イギリスのいままでの行いのつけではあるのだが。


 補給基地としてのジブラルタルを喪失し、海軍戦力が不十分となったイギリスの船がスペインの沿岸を航行するのは現状危険な状態になっているのはわかってもらえるだろう。


 そんな中、イギリス本国からアーサー・ウェルズリーが東インド会社の救援のため新装備の銃を携えてインド方面に送られようとしていた。


 だが、ジブラルタル方面を通過する途中でスペインのジブラルタル駐留艦隊とフランスのセウタ駐留艦隊にイギリスの派遣軍は捕捉されてアーサー・ウェルズリーは海の藻屑となったとの連絡が来た。


「ふむ、不運なことだ。

 その将軍として稀有な才能を発揮する機会もなく海の藻屑となるとはね」


 とは言えイギリスの有能な将軍が無名なまま消えたのはこちらにとっては幸運なことである。


 この頃、インドから喜望峰に向かうイギリス東インド会社の商船はモーリシャス付近でたびたびフランス艦の襲撃を受けるようになっている。


 インドのティプー・スルタンはフランスの植民地であるモーリシャス諸島にフランスの大軍が常駐しているという誤情報を得たために彼はその後苦境に陥るのだが、そういった情報が発信された理由も有った。


 モーリシャス諸島では、島全体で砂糖キビのみを栽培するようになっていて、それにより島の住民は食料自給ができない状態に陥り、そのためにインドから食料を輸送していた。


 しかしフランスはインドの植民地を失ってしまった。


 つまり、モーリシャスに駐留しているフランス軍は食料確保のために、インドからのイギリスなどの商船を拿捕して食料を奪うしかない状態になっていたし、インドから撤退したものも一緒に駐留していたわけだ。


「まったく、商人の口車に乗るとろくにならぬということだな」


 そういった理由で、フランスがインドでの権益を取りもどすことはマダガスカルやモーリシャスの統治にためにも必要なことなのだ。


「取り合えすエジプトからも小麦を運んでおこう。

 その代わり砂糖をエジプトへ運びそれを本国へ運べば見返りもあるしな」


 モーリシャスへの食料輸送は同行していた商人に任せ私は一路インドを目指した。


 さて、コルベットは小型艦であって普通に戦列艦とやりあったら勝てるわけはない。


 しかし、装甲を施し最新鋭の砲や蒸気機関によるスクリュー推進機構を搭載した我が艦隊のコルベットに対し、イギリスのインド洋艦隊は旧式で小型の戦列艦やフリゲートばかりである。


「さあ、ライミー共をインド洋に叩き込むぞ。

 こちらはコルベット10隻でしか無いが、旧式な戦列艦など我が艦隊の敵では無いことを教えてやろう」


「おおっ!」


 私はマルモンから書類を受け取った。


「敵の東インド艦隊司令官はウィリアム・コーンウォリスか」


「はい、チャールズ・コーンウォリスの弟でありますな」


 チャールズ・コーンウォリスはアメリカの独立戦争で活躍したイギリスの将軍だな。


「我が艦隊の士官並びに水兵諸君。

 イギリスにとどめを刺す時が来た!

 総員の奮戦を期待する!」


「おお!」


 私はコルベットを縦列に陣形を組ませ艦隊を進める。


「敵艦見ゆ!」


 観測員の報告に艦内にざわめきが広がる。


 敵も戦列を組んで、こちらと向かい合うように直進してくる。


「よし総員戦闘配置!

 砲撃戦を用意せよ!」


 機動とは移動であり、小回りがきき速度で勝るこちらはライフル砲の射程には入るが、カノン砲の射程に入らない位置取りをしつつ交戦状態に入る。


「敵、射程に入りました!」


「よし砲撃を開始せよ!」


「敵戦列艦轟沈!」


「こちらには被害は出ていない模様です」


「よし、先頭の船から潰していけ!」


「はっ!」


 結果としてはこちらの一方的勝利で終わった。


 イギリス側の敵戦列艦3隻、フリゲート2隻を轟沈、戦列艦6隻を拿捕したのに対してこちらはほぼ無傷だ。


 ウィリアム・コーンウォリスは降伏を申し出た。


 こうしてウィリアム・コーンウォリスの東インド艦隊を打ち破った私はインド南西部の都市カリカットに上陸した。


 そしてティプー・スルターンが出迎えてくれた。


「流石だなフランスの英雄よ。

 フランスの力を借りればインドからイギリスを追い出すのは容易いであろう」


「いや、そう簡単には行かぬと思うが、助力は惜しまぬよ。

 インドの食料や綿、硝石は重要だからな」


 さて、イギリスのインド方面軍はどう出てくるかな?。

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