第16話 エジプトの内政を充実させつつ古代の運河の位置を調べるためにも古代エジプトの文字資料を調べようではないか

 さてアレキサンドリアとカイロを落としたことで、エジプトの主要な都市は制圧できた。


 事実上、エジプトはフランスの植民地になったと見ていいだろう。


 勿論これで、本来の支配者であるオスマントルコは敵に回るだろうが、装備などの差を考えれば負けることはないだろう。


 カイロの街のイスラム教の長老には融和を求めた。


「私はマムルークよりも、神や預言者やコーランを尊敬するものである。

 そして神がイスラム教徒への戦争を望むなどと考えている

 マルタ騎士団の狂人どもを打ち破ったのはわれわれである。

 我々は共存をもとめている」


「それは信じていいのでしょうかな?」


「信じていただきたい」


 私はカイロに於いて内政を充実させることでエジプトの発展を進めようとした。


 騎士や貴族などに対して行ったようにマムルークの封建制度と特権を解体し、西洋式の病院を建て、マルタ島などと同じように行政組織を確立して、税制を整備し、人口調査も行った。


 その上で法律についてはイスラムの法律を尊重した。


 農業振興のために水路を整備し、小学校と中学校を建設して教育改革も行った。


 地中海の制海権は完全にこちらにあるのでイギリスの工作員も少ないだろう、いないと考えるのは甘いとは思うが。


 実のところフランスの革命戦争及びナポレオン戦争は欧州の戦争であると同時に、欧州の各国が世界各地の植民地を巡って争う戦争でもあった。


 ただ、本来のナポレオンは海軍については素人であった故にナポレオンの活躍はヨーロッパの大陸に限定されてしまい、それまで持っていた植民地は殆ど失われてしまったわけだが、私が海軍提督となりイギリスを打ち破ったために現状ではイギリスは没落の道を辿っている。


 かつてのポルトガルやスペイン、オランダと同じように海上の戦力を喪失したことで、交易や支配に支障が出ているわけだ。


 アイルランドの反乱鎮圧もまだうまく行っていないようであるしな。


「これで我がフランスは北米のカナダにおけるヌーベルフランスやフランス領ルイジアナ、西インド諸島の島々、南米のフランス領ギアナは確保できそうだな。

 インドや東南アジアについてはなんともまだ分からないが……」


 残念ながらインドに有ったフランス東インド会社はつい最近精算したばかりだ。


 そして今回の遠征には兄のジョゼフと弟のルイが同行している。


「ところでルイ。

 兵たちの衛生状態はどうだ?」


「概ね問題はないよ兄さん」


「兄上、主計官としても今回の遠征に問題は起きていませんか?」


「あ、ああ大丈夫だよナポレオン。

 金銭や補給に関してトラブルは起きていないよ」


 無論二人は後方系の幕僚だが私を裏切るようなことはしないのは間違いないのでその点では安心はできる。


 政治家としては無能と言われたが、性格的には二人共真面目だからな。


 今回のエジプト遠征は、アメリカの独立により、北米大陸の植民地を大きく失った英仏両国にとって、もっとも重要なインドとその航路を巡る闘いでもあったわけだ。


 本来であればアブキール湾の主力艦隊は、イギリスのネルソン艦隊の攻撃を受けてほとんど全滅し、フランス本国との連絡は断たれ、遠征軍はエジプトに孤立するわけだが、今回はネルソンはもういないし、フッドも現状は捕虜となっていて、ジブラルタルの英国艦隊もいない。


 そしてインドでマイソールの虎と呼ばれるマイソール朝の君主ティプー・スルターンが、エジプトの私のもとへやってきた。


「フランスの英雄よ、インドからイギリスを追い出すために我々に力を貸してほしい」


 彼は流暢なフランス語でいった。


 彼は多数の言語に堪能な教養豊かな人物でインドの諸言語だけでペルシア語、アラビア語、英語、フランス語まで喋ることが出来、歩兵、砲兵、軽騎兵で編成された軍勢を駆使し、イギリスと互角に戦っており、鋼鉄製のロケット兵器を運用しイギリス軍を苦しめた人物でもある。


「ふむ、了解した。

 だがエジプトが安定するまで待ってほしい」


「分かった、なるべく早く頼む」


 ティプー・スルターンに対して支援を約束すると彼はインドに帰っていった。


「では、古代における運河の場所を調べるために考古学者たちに古代の資料を調べさせるとしようか」


 この時代ではトルコやエジプトの古代の進んだ文化や歴史に対する興味も大きく学者がたくさん一緒に来ているのだ。


 そんなところでロゼッタ村にてロゼッタストーンが発見された、これは黒い玄武岩の古代の記念碑だ。


 早速、学術調査団の専門のオリエント学者に見せてみた。


「ふむ、一番下はギリシャ文字ですな。

 上は古代エジプトのヒエログリフのようですが」


「ふむ、ヒエログリフ解読の手がかりになるかもしれない。

 早急に解読を進めてくれ」


「分かりました」


 学者たちは目をキラキラさせている。


 ヒエログリフの知識はとうの昔に現地にエジプト人からも失われているのだ。


 実際にはロゼッタストーンには古代エジプトの神聖文字ヒエログリフ民衆文字デモティック、ギリシャ文字の三種類が刻み込まれていたはずだな。


 この間に私は古代エジプト時代の運河の跡を探し当てていた。


 ナイル川の水が溢れている季節には運河の遺構にも水が流れ込んでいたのだ。


「司令官、運河の調査と掘削は私におまかせいただきたい」


 後にスエズ運河の技術責任者になる技師ルペールが私にそう申し出た。


「ああ、では運河については一任する。

 一ヶ月に一回以上定期的に報告を行うように」


「は、かしこまりました」


「砂の掘り返しをする場合は労働者には十分な食料と給料を与えるように」


「は、かしこまりました」


 どうやら過去にブバスティスと呼ばれた都市があった場所から東に運河は伸びて、ティムサ湖からグレートビター湖に入りその後南下してスエズに出るらしい。


 本来であればまっすぐ北に堀り抜くのだが、新たに掘るのは時間がかかるので、今回は古代の遺構を掘り返して使わせてもらうとしよう。


 運河が開通すればインドにも船で遠征できるであろう。

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