第13話 大英海上帝国の崩壊の序曲・エジプト侵攻作戦
さて、私がイギリスのジブラルタル要塞を攻略し、地中海におけるイギリスの拠点をほぼ完全に潰したことで、後に大英帝国として名を馳せるイギリスの海上戦略は大きく後退するはずだ。
この時代にはスエズ運河はまだないが、運河が出来ると地中海から紅海、インド洋への航路はさらに重要な意味を持つことになるが、現状イギリスが地中海の制海権を取り戻すことは難しいだろう。
造船能力でフランスに劣るイギリスは船の消耗を恐れるはずだからな。
ともかく今ははセウタの基地化を早急に推し進めよう。
ジブラルタルがそのまま使えればよかったのだが、スペインと揉めるのも得策ではないしな。
「さて、ジブラルタル海峡の監視と中継基地として要塞化と工業化を推し進めるぞ」
副官であるマルモンが答える。
「は、わかりました、士官及び水夫に通達します」
こうして私はスペインの植民地であるモロッコのセウタを地中海の入り口の要にする港湾整備にかかりきりになった。
「やれやれ、妻の出産には立ち会えそうにないな。
これが海軍勤務の悲しいところだ」
「まあ、そうですな。
とは言え陸軍も大差はないと思いますが」
私はマルモンとそんなことを言い合いながら港湾の整備を進めていった。
そして年は代わり1798年になる頃、セウタの港湾整備もやっと終わり、海軍基地としても十分な利用が可能になったので私たちは、駐留艦隊を残してトゥーロンへ戻ることにした。
私たちがトゥーロンに戻ると、フランスの民衆は熱狂的に私達を迎えた。
「英雄ナポレオン!」
「イギリスを倒した英雄!」
うむ、別にイギリスを倒したわけではないがフランスは長い間イギリスから苦汁を飲まされ続けたからな、特に熱狂的になるのもわからんでもない。
もう一つは陸軍の働きが現状ぱっとしないというのもあるのだろう。
いつものように戻った船の整備補修をおこないつつ、フリゲートやコルベットを装甲艦へ入れかえてゆく。
「新型の装甲艦が増えてきたな。
良いことだ」
「ええ、これならますますジョンブル共を撃滅しやすくなりますな」
「まあ、彼らも今頃必死に作っている頃ではあろうがね」
「で、イギリスは禿山ばかりになるというわけですな」
「うむ、そうかも知れぬな」
そして、士官や水兵にはいつものように修理や整備が終わったら、地中海の海上での哨戒任務や演習、通商破壊などを行わせ練度の低下を防ぐ。
無論、この間には兵には半舷上陸しての休息が許可され、家族のいるものは家族の元へ、家族や恋人の居ないものは娼館へ向って英気を養っているぞ。
無論、私も愛しの妻のもとに戻るさ。
「やあ、デジレ遅くなったけど今戻ったよ」
私はデジレをギュッと抱きしめ口づけを交わした。
そして、乳母が乳を与えている赤ん坊も見た。
「君も子どもも無事でよかったよ」
デジレがぱっと笑う。
「ええ、私も子どもも無事だったけど
あなたがいなくて心細かったわ」
「それについてはすまないと思う。
が、許してほしい今は私を必要としているのだ。
フランスという国と民衆が」
デジレは笑っていう。
「ええ、わかっているわ。
でも今日くらいは私のナポレオンでいてちょうだい」
「ああ、わかっているさ」
そうして夕方には久しぶりに彼女の手作りの料理を味わった。
久しぶりにのんびりしていたが、次の日に私に辞令が下った。
”東方遠征軍司令官として兵を率いエジプトをフランスの勢力下に治めよ”
ふむ、どうやら総裁政府は私を煙たがっているようだな。
とは言え、エジプトをフランスの植民地にする計画自体は以前からあった。
現状のエジプトは事実上の無政府状態だが、ナイルの恵みにより農業生産力は高い。
更にスエズに運河を掘れれば海上輸送も相当変わる。
喜望峰を経由するとやはり時間がかかるからな。
イギリス攻撃に向かわせないのはすでにアイルランド上陸に成功して、これ以上イギリスを追い詰められても困るとタレーランあたりが判断したか。
タレーランはまだ亡命先から帰ったばかりで立場も危ういだろうから、エジプトの植民地化などはできればいいなくらいであろう。
まあ、私としてもすでに国民から支持されていないバラスの総裁政府からはからは距離を置いておきたいしな。
そしてイギリスの生命線であるインドの植民地との交通を完全に遮断することはイギリスを更に追い詰めるだろう。
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