第12話 ジブラルタル攻防戦 ナポレオン艦隊VSフッド艦隊
さて、地中海の島々やイタリア半島南部を我々は制圧したため、今までフランスに船を用いてちょっかいを出してきたサルデーニャやシチリア、ナポリ、マルタなどは沈黙し地中海の制海権はほぼ我がフランスのものになった。
しかし、ここで問題になるのがジブラルタルだ。
ジブラルタルは、スペインやポルトガルが在るイベリア半島の南東端に突き出した小半島のイギリスの海外領土でジブラルタル海峡のイギリス海軍地中海艦隊隊の母港でもあり、地中海から大西洋への出入口の抑えである戦略的要衝でもある。
ジブラルタル海峡は、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸を隔てる海峡でお互いの大陸を肉眼で見れるほど狭い。
なのでフランスの地中海艦隊が大西洋に抜けようとすれば、ここに駐留するイギリスの艦隊に迎撃されるし、交易船も敵対時であれば襲われることも在る。
まあ政治犯の海外追放などを行う時はわざわざ手を出してこないがね。
前回アイルランドに向かった時はネルソン艦隊をトゥーロンで壊滅していたから迎撃艦隊は駐留していなかったが、もうすでにフッドの地中海艦隊がジブラルタルへ派遣されている。
それまではスペイン領であったジブラルタルがイギリスの海外領土となったのは1713年4月11日。
スペイン継承戦争のユトレヒト条約の締結によって戦争が終結するものの、その条約でジブラルタルはイギリス領となった。
我々の艦隊はジブラルタルを攻略するため保存食や飲料水、弾薬を満載してトゥーロンを出発した。
「まずは半島を包囲して、食料や飲料水の供給を断つ。
イギリスの艦隊が出てきたらそれを叩きのめす」
「は、かしこまりました」
ジブラルタル半島には自然の湧水源や河川、農地などはなく、6月から9月の夏季には全く雨が降らないこともしばしばである。
つまり、ジブラルタルは貯蔵している食料や飲料水がなくなれば、それを自力で確保するのは難しいということだ。
力攻めは流石に得策ではないからな。
大型の戦列艦を基地として、新型フリゲートや新型コルベットで補給艦を拿捕して相手の補給を阻めばイギリスの兵も長くはこもれまい。
「敵の地中海艦隊司令官はアレグザンダー・フッドか」
「はい、海峡艦隊より派遣されたようであります」
アレグザンダー・フッドはフランス革命戦争では地中海で活躍したサミュエル・フッドの弟だが、フランス海軍との海戦で何度もフランスに煮え湯を飲ませている。
「我が艦隊の士官並びに水兵諸君。
諸君はイギリスに対して、一番確実で一番手痛い打撃を与えるだろう。
そして、諸君はイギリスに死の一撃を与えることになるだろう。
総員の奮戦を期待する!」
「おお!」
私は従来通り戦列艦を単縦陣の縦列に並べる戦列を組ませながら、その間に新型の艦砲を搭載したフリゲートやコルベットをおいた。
「敵艦見ゆ!」
観測員の報告に艦内にざわめきが広がる。
今回は敵も戦列を組んで、こちらと向かい合うように直進してくる。
「総員戦闘配置!
砲撃戦用意!」
そして長年戦列艦の建造にこだわってきたイギリスも今回はフリゲートを投入してきた。
「敵、射程に入りました!」
「砲撃開始!」
イギリスのフリゲートとこちらの新型フリゲートが砲撃戦を開始する。
イギリスもライフル砲の開発に成功したらしく、あちこちの海面に砲弾が着弾する。
しかし、ここで木造船の造船能力の差が出た。
イギリスのフリゲートは、砲数は28門か36門。しかしこちらの新型は砲数44門、その火力差は大きかった。
「敵フリゲート轟沈!」
「こちらのフリゲートも被弾、小破です!」
「被弾した船は下がらせよ。
敵の先頭の艦から潰すのだ!」
「はっ!」
結果としてはこちらの勝利と言えるだろう。
敵艦フリゲート2隻を轟沈、戦列艦6隻を拿捕したのに対してこちらはフリゲート艦一隻が航行不能となり、曳航しなくては帰投が不可能になっただけだった。
こうしてフッドの艦隊を打ち破った私は新型フリゲートの船にて損傷した船と拿捕した船をトゥーロンに送りながら、ジブラルタルの封鎖を徹底した。
「司令、敵基地より白旗が揚がって入ります」
「ふむ、やっと降伏する気になったか」
流石に飲料水不足はきついからな。
人間食べなくても何とかなるが喉の渇きには長くは堪えられん。
イギリスの地中海方面司令長官セント・ヴィンセント伯爵ジョン・ジャーヴィスは我々に降伏した。
その結果ジブラルタルに逃げ込んだ戦列艦やフリゲートなども我が艦隊の麾下となり、降伏したイギリス軍に食料と飲料水を与えることで人命尊重の意思を表した。
まあ、捕虜となった指揮官はパリへ、その他の水兵などはトゥーロンへ送ることになるがね。
そしてジブラルタルはスペインに返還され、フランスはアフリカ側のセウタをスペインより割譲されることとなった。
我々はセウタの軍事拠点化を進めるためにしばらく残らなくてはならなそうだ。
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