第9話 地中海の制海権確保のための島々の制圧開始、まずはコルシカとマルタからだ
さて、私はイギリスのネルソン艦隊を粉砕し、フランス軍のアイルランドへの上陸を成功させた後、冬の嵐がひどくなる前に地中海に戻ることにする。
冬の大西洋の嵐はひどいものだが、今年の冬は特にひどくなったはずなのだ。
そのために本来であればアイルランドへの上陸は成功しなかったのだな。
「私に与えられた任務は兵を上陸させ、アイルランドの支援をすることでアイルランドを占領することではない。
帰投するぞ」
「はい!」
そしてネルソン率いるイギリスの地中海艦隊の事実上の壊滅はイギリスにとっては計り知れない損失のはずだ。
イギリスは工業生産能力は優れているのでこちらの使った大砲などは数年すれば改良して戦場に投入してくるだろう。
しかし、イギリスの弱点はいくつかある。
人口が少ないこと。
食料生産力が低いこと。
森林資源が少ないこと。
これ等の要因によりイギリスは木造船の生産能力が低い。
元々木炭からコークスによる製鉄に移ったのも木材不足からの苦肉の策からだからな。
撃沈したり拿捕された船の補充はアイルランドという植民地を失ったイギリスにはかなり難しいはずだ。
さらに、地中海の制海権の喪失は、インド方面のエジプト経由航路や連絡路の喪失を意味する。
エジプトのスエズ陸峡の馬車輸送と喜望峰経由では時間がかなり違うからな、これもイギリスには痛いはずだ。
そしてネルソンの地中海艦隊が壊滅したことで、イギリスは所持している海軍主戦力の戦列艦のおよそ五分の一を失っている。
無論、本国艦隊や北海艦隊、大西洋艦隊やインド洋艦隊は無傷だが。
そして人口が少ないということは水兵の補充もままならぬはずであるし、ネルソンという有能な指揮官を失ったのは取り返しがつかない。
「イギリス海軍の無力化には程遠くとも痛恨の一撃を加えたのは間違いあるまい」
無論、敵討ちに戦意が上がるという可能性もあるから油断はできぬがな。
サミュエル・フッドかアレグザンダー・フッド辺りが地中海艦隊司令として戻ってきそうな気はするから油断はすまい。
トゥーロンに戻った艦隊はドックに入れられて修理や補給を行い、兵にも上陸しての休息が許可され、家族のいるものは家族の元へ、家族や恋人の居ないものは娼館へ向った。
無論、私は救国の英雄と歓声をもって迎えられたあと、官舎で待つ愛しの妻のもとに向ったさ。
「やあ、デジレ、今戻ったよ」
私はデジレをギュッと抱きしめた。
「はい、貴方が無事でよかったです。
そしておめでとう昇進ですって?」
私はデジレの言葉に頷いた。
「ああ、今度は海軍大将になるな」
デジレは嬉しそうだった。
「そうしたらお給金や年金も増えるわね。
お父さんの機嫌も良くなるわ」
まあ、富裕な商人といえども結婚相手の階級が海軍大将ぐらいまで地位が登れば自慢も出来るだろうさ。
「ああ、君のためにも頑張らないとな」
デジレはニコリと笑った。
「うふふ、フランスの英雄を私が独り占めできるなんて夢みたいね」
そうして夕方には久しぶりに彼女の手作りの料理を味わった。
「うむ、やはり君の手料理は最高だな。
船の上の食料は保存食ばかりで味気ないものだ」
私が褒めると彼女は嬉しそうに笑った。
「あらあら、嬉しいわ」
そして、その夜は一緒に濃密な時間を過ごしたよ。
子供が出来てくれると嬉しいね。
そして年末の昇進とともにくだされた命令は地中海の島々を占領し、最終的にはナポリ王国を降伏させろというものだ。
年は変わって1797年になり新たな年が始まった。
今回の目標の主な島々はコルシカ、マルタ、サルディーニャ、シチリアなどだな。
これには地中海における制海権の確保の意味合いが大きい。
「さて、フランスにコルシカを取り戻しに行くとするか。
行ってくるよ」
デジレは名残惜しそうに見送ってくれた。
「はい、あなたお気をつけて」
そうして出撃した私はまず私達の家族を追い出した後イギリスの間接統治を受けており、パスカル・パオリが居なくなった、私の生まれた島でもあるコルシカ島をあっけなく占領した。
イギリスの守備隊の残した野砲やマスケット銃を鹵獲した私はその一部を船に積んであとは防衛戦力として島の守備隊に配備した。
そして私はコルシカの政治を改革した。
フランス本土と同等な人権宣言を宣言、人間は生まれながらにして自由であり、権利において平等であるとして、今までの全ての貴族的封建的な領主権などの特権や奴隷制度を廃止、民法と家族法を構築し地方自治体を作り出して行政区分を明確にし、行財政を作り公正な税制度を決めた。
「無論軍の階級による命令は絶対なのだがね」
「まあ、そうでないと運用できませんしな」
また裁判官を指名し公正な裁判を行うものとした。
更にすべての島民が受けられる初等教育を行う小学校と中等教育中学校などの学校を新たに設立し、公教育を確立させた。
「市民が求めているものは公正な税制度と公正な裁判、それに公平な教育制度と十分な雇用による食料の確保に身の安全だよ、自由などを求めているわけではない」
私は6日間でこれ等の制度を整え、5000ほどの守備隊を残してマルタ島に向った。
この時マルタ島を領有しているのは”ロードス及びマルタにおけるエルサレムの聖ヨハネ病院独立騎士修道会”いわゆるマルタ騎士団だ。
騎士団はヨーロッパ中に寄進地を領有していて、そこから上がる収益は莫大なものであったが、フランス革命によってフランス領内の寄進地を失った。
そのためキリスト教の守護者を自認するマルタ騎士団は、フランス革命政府に対して敵対姿勢を貫いている。
フランスからの亡命貴族を騎士団に編入し、王党派の軍隊やスペイン軍やイギリス軍に軍事支援を惜しまなかったため、総裁政府はマルタ攻略を確実に行うことを私に指示していた。
「では、マルタ島を攻略しようではないか」
マルタの要塞は強固であったが島を守備する防衛軍は決して強いとはいえなかった。
保有する艦船は4隻ほどであったし、騎士の構成員の高齢化が進んでいるうえに、言語別に8つの集団に分かれていてお互いの連携は取れておらず団結しているとはいえなかった。
戦力の数としては900人の騎士、2000人の従士、それに加えて1万の民兵がいたが、その中で約200人を占めるフランス出身の騎士は、総裁政府の事前の懐柔工作によって、形式的な抵抗しかしないと伝わっていたし、1万を数える民兵たちも言語がバラバラの烏合の衆だった。
マルタ上陸作戦を開始すし、まずはライフル砲での艦砲射撃のあと、上陸すると防衛軍は四散して逃げ惑った。
この際、水兵によりフランス系の騎士が虐殺される事件も起こったが1日で騎士などはすべて降伏した。
ここでも大砲、マスケット銃、多くの火薬と砲弾を手に入れ、騎士団の財産700万フラン、黄金の金塊500フラン分など騎士団が溜め込んでいた財宝を手に入れ、一部は軍事資金として残し、一部は総裁政府へと送った。
降伏したマルタ騎士団はロードスに追放した。
そしてマルタにも6日間滞在しコルシカと同じように政治的改革を行った。
「さて、次はサルディーニャか」
「はい」
コルシカとマルタにて行うべきことを行った後、我々はサルディーニャに向かうことにした。
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