第6話 テルミドールのクーデターとヴァンデミエールの反乱鎮圧

 年はかわり1794年になった。


 トゥーロン軍港の港湾及び工業施設整備を行っていた私の元に突如秘密警察がやってきた。


「ナポレオン・ボナパルト。

 貴様を逮捕する」


 私は静かに聞いた。


「罪状はなんだね?」


 秘密警察の職員はいった。


「恐怖政治をしいたマクシミリアン・ロベスピエールの弟。

 オーギュスタン・ロビスピエールと通じていたことだ」


「ふむ、了解だ、ついていくとしよう」


 ふむ、テルミドールのクーデターだな。


 私は無駄に抵抗せず連行され

ることにした。


 抵抗して銃殺されたりしても馬鹿らしい。


 昨年マクシミリアン・ロベスピエールを中心とした山岳派が革命政府の権力を握り、フランス内外の戦乱をなんとか収拾した。


 しかし、ロベスピエールによりジャコバン派内の他派閥の粛清が行われ、地方に派遣されていたジョゼフ・フーシェやポール・バラス等は王党派に組みした市民の虐殺や財産没収など行っていた。


 特にバラスは公金横領など様々な汚職でロベスピエールからパリに召喚され、やられる前にやれとクーデターによってその地位を奪ったわけだな。


 結果としてオーギュスタン・ロビスピエールと通じていたということで私も地中海艦隊司令官の地位を失ったわけだ。


 私は簡単に副官のマルモンに引き継ぎを行ってパリへと護送されることになった。


「まあ、しばらくは監獄の中で休むとしようか」


 私はパリに監獄に入ったものの短期拘留で解放され、そしてすぐに地中海艦隊司令官に復職することになる。


「まあ、私がいなくなれば施設建設や訓練が滞るのは自明だからな」


 この頃のフランス革命政府の行動はすべて場当たり的であったが トゥーロンに戻った私は、勾留されていたあいだ滞っていた建設事業や海軍士官や海兵隊などの訓練に戻った。


 そしてこのテルミドールのクーデターによりフランス革命は事実上終焉した。


 ロベスピエールは市民全員の普通選挙等の実現を求める急進共和派だったが、それをクーデターで覆したバラスらテルミドール派は財産資格に基づく制限選挙等を求める穏和共和派であったため、フランスでもブルジョワ層が権力を握り返すことになった。


 後に国民公会が解散されてバラスなどを総裁とした総裁政府が成立することで下層市民は選挙権を失ったのだ。


 しかしその結果として、フランス経済は悪化しインフレがどんどん進み民衆は困窮した。


 新興の成金だけがテルミドール派を支持するのみで総裁政府の人気は最悪になった。


 さらに「三分の二法」という法律を通過させて、選挙で自分たちが議席を確保できるようにした。


 1795年のこの行為に対して王党派はパリで暴動を起こした。


 革命政府は貧民層のサン・キュロットと呼ばれる革命前には参政権どころか一切の権利を持たなかった労働者階級に支援を求めたが、すでに力を失っていた。


彼らを弾圧したのはブルジョアで固められた政府自身であった。


 そして政府はバラスを国内軍司令官に任命し、そして軍事に疎いバラスが副官として指名し、実質的な司令官としてトゥーロンから呼び寄せられ暴動の対処を行ったのが私だ。


「久しぶりだな、ナポレオン。

 トゥーロンの英雄である君であれば暴動の鎮圧は簡単だろう」


「まあ、簡単ではありませんがやってみましょう」


 政府に正式な暴動鎮圧依頼を受けた私は政府軍の騎兵隊長ミュラに命じた。


「大砲をまず奪ってくるのだ」


「了解です、大将」


「私は大将ではないがね」


「いや、あんたはすぐ大将になるだろうさ」


 騎兵を走らせて大砲を抑え、弾薬庫にて散弾の一種である、布の袋に鉄の玉やら鉄くずやらを詰め込んだぶどう弾も確保すると、革命広場に集結した暴徒集団を散弾の雨を降らすことで蹴散らした。


 こうして暴動は一日で鎮圧された。


「うむ、良くやってくれた」


 私は中将に昇進し、さらに国内軍司令官の役職を手に入れた。


 政府は暴動を起こした民衆に対しては寛大な処置を取り、「革命広場」は「融和」を意味する「コンコルド広場」と名前を変えた。


 そして国民公会は解散し総裁政府が成立したのだ。


 だが、ヴァンデミエールの反乱治安圧に軍を利用せざるをえなくなった政府は軍の統制を取れなくなりつつ有った。

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