第5話 製鉄と言うのは単純そうに見えて奥が深い、そして工業化の基本だ

 さて、私がトゥーロンの防備を固めた後で一番先に行っているのが、脱硫した石炭であるコークスと、高炉と転炉を用いて銑鉄や錬鉄、そして安価な鋼鉄を作ることが出来る製鉄所の建築だ。


 錬鉄を作れるパッドル炉自体はすでにあるのだが安価な鋼鉄を作れる技術は本来はまだない。


「やはりこれからの時代は鉄を制するものが世界を制することになるであろうな。

 フランスの石炭や鉄鉱石はそれほど豊かではないのは懸念事項ではあるが」


 ちなみに産業革命はあくまでも軍事技術ではなく民生産業の技術の工業化であり、軍事産業の銃器や大砲の製造、軍事的情報通信の分野などではとっくに工場での大量生産という工業化は実現している。


 しかし、フランスはイギリスに比べれば石炭や鉄鉱石の産出量は国土の広さの割には豊富でない。


 なので武器の生産量そのものはイギリスに劣っていた。


 しかし、フランスにはメートル法に代表される規格の標準化がイギリスよりも徹底している。


 その為、フランスでは銃などの部品の調達はフランス各地のどの工場でも出来た。


 イギリスやプロイセンでは生産した工場の部品しか合わないそうだがな。


 故に銃器や大砲といった武器の平均的な品質は高かった。


 そういった質の均一化を銃器大砲などの性能を上げても行えるようにしなくてはならないな。


 フランス革命戦争の現在、大砲や銃器の金属材料はもろくて硬い銑鉄もしくは高価な砲金(真鍮や青銅)で、その為大砲は砲身破裂を起こすことも多かった。


 るつぼ鋼による鋼は非常に高価だからまだ大砲などにつかえるほどではなく、刃物や工具の刃などに使われる程度なのだ。


 私が知っているベッセマー法は、溶けた銑鉄から鋼を安価に大量生産が可能な方法だ。


 本来であれば大砲の進歩はクリミア戦争以降だが技術的には産業革命進行中の現代でも同じものは作れる。


 実際私は前世で日本の江戸幕府及び明治政府の横須賀の海軍工廠の製鉄所も建設しているからその分だいぶ有利だ。


 鋼の安価な大量生産が可能になれば蒸気機関のボイラーやエンジンなどもより大型で高性能なものが作れるようになるし、銃や大砲の製造や船の装甲板、工業的には大きなタービンや発電機も建造可能となる。


 無論技術というのは漏れるものだから、しばらくすればイギリスも同じようなものを作るかもしれないが、それなりにタイムラグはあるだろう、3年か5年位は技術的優位をもてるはずだ。


「工程の進捗状況はどうかね?」


「は、順調かと思われます」


 さて現状のフランスの正式歩兵銃であるフリントロックマスケットにソケット式銃剣を取り付けたシャルルヴィル・マスケットだがこの銃は特に高性能という訳ではない。


 陸軍ほどではないにせよ水兵や海兵隊は白兵戦も行うから銃器に関しての改良についても早めに検討せねばな。


 黒色火薬銃であるミニエー・ライフル銃くらいは現状でも作れるだろうか?


 また艦載砲についても炸裂弾を放てるペクサン砲や射程が長く装填時間も短い後装式ライフル砲も作りたいが、それにはまず信管を作らねばならないな。


 無論、敵の大砲に対する防御のための舷側の厚めの装甲やフナクイムシ対策に船底には銅板を張り付けたいからいくら鉄が有っても足らない状況にはなりそうだがグロワール級装甲艦と同程度のものは作りたいものだ。

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