第2話 下校①

「もう、遅いよっ! 朝の約束、覚えてるよね? 私、林檎ジュースが飲みたいな〜。───っわ、急に物を投げないでよね。って、林檎ジュース!?」


「購買にある自販機に買いに行ってたから遅くなったの? それなら最初からそう言えばいいのに。それにしてもキミ、よく私の飲みたい飲み物がわかったね」


「えー、私ってそんなにいつも林檎ジュース飲んでる? ふふっ、そうなんだ。気づかなかった。───キミ、私のことよく見てるね。私以上に私のこと知ってるのはキミだけだよ」


 人気の減った昇降口、両手でキャッチしたりんごジュースに嬉しそうにストローを挿し、飲む姿を横目で見ながら帰路に就く


「え? 私が小テストで満点取れるとは思わなかったって? もうっ!キミ、私のことちゃんと見てるのか見てないのかどっちなの? キミとの時間は忘れるわけないよ、もちろん教えてもらったこともね」


「あはは、そうだね。キミとずっと一緒だったら完全記憶能力ってやつだ。もし一緒のクラスが続くなら私はいつも満点、⋯⋯取れてもいいのだけれどそれはムリかな」


「なんでって? ───授業の内容より私にはキミしか見えてないからさ。⋯⋯だからこれからもキミがちゃんと私に勉強を教えるんだぞっ」


 大切な時間を思い出し笑い合う日々もまた、大切な時間として記憶に焼き付く


「さ、私も約束を守らないとね。ちなみにー、私たちって自然と遠回りしてるけどさ、行き先ってあの公園だよね。───わかるよ。キミ、いつもわざわざあそこでジュース買ってるもんね」


 角を曲がり、公園が見えてくると早足で自販機に駆け寄り、目当てのジュースを買ってきてベンチに横並びに座った。


「はい。コレでしょ? キミって変わったもの好きだからね。これで今日の勝負は終わりかな。一勝一敗で引き分けだったね、けど林檎ジュースには驚いたから私の負けでいいや」


「小テストで驚いたから意趣返ししただけ? あははっ!キミもまだまだ子どもだね。まあ、私もキミに勝負勝負言ってるから子どもっぽいか。⋯⋯そういえばさ、お礼を言ってなかったね。───ありがとう」


「何のって、私的にはキミのしてくれたこと全部に対してだけどさ、あえて言うなら奢ってくれた林檎ジュースと勉強を教えてくれたことにかな」


 照れながらの"ありがとう"はりんごジュースを飲みながらだった。


「ジュースは結局お互いに自分で買ったようなものだろって? それは違うよ。キミが私の好きなモノを把握してくれてるのが嬉しいし、キミの好きをちゃんと分かってあげれているんだって実感できて嬉しいからさ、だから全然違うの」


「そーゆうものです。私はキミにいつでも全力だからさ、私のそういうところもちゃんと覚えておいてね。私はもう少女じゃない、女子なんだから女心を勉強しておくこと、これ宿題ねっ」


「いつまでかー、早い方が嬉しいけどキミだからなー。期限は任せるよ」


「ん、よろしい。⋯⋯え、いつもの軽口に取られているの? キミ、そういうところだぞ!」


 勢いよく立ち上がり、怒ったフリも楽しそうだった。二人ともジュースを飲み終えていたのでそのまま歩き出す。


「あ、そうそう。今日の体育、私にはかっこよかく見えたからさ、よく頑張ったね。え、私の小テストに負けたくなかった? この負けず嫌いさんめ───私は全力で走るキミの姿に見惚れてたよ」


「⋯⋯何でもない。もう家に着いちゃうね。今日も充実した一日だったし、明日も楽しい日になるといいね」


 足取りが次第にゆっくりとなり、自宅の前で立ち止まる。


「私が騒がしいだけ?こらっ、言い方が悪いっ! ───いいよ。許す!あははっ、それじゃあ、キミ、また明日ね」


 二人で登下校できる日常は尊い

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