第5話「希望」

 その日から、エイトは劇団の役者達に演技の指導をみっちりつけた。これまで先輩を見て盗んできた技術から、自分が編み出した技術までとことん教えた。違う世界の住人であるため技術を盗まれて困ることもなかったし、何より見ず知らずの自分を受け入れてくれたレイラに恩を返したいと思っていたのだ。

 そんなレイラがとある人物を連れてきたのは、4日後のことだった。

 結局公演の延期は受け入れられず、劇団は公演を3日後に控えていた。練習とリハーサルではエイトが仮役者として入り、全体の運びも順調だった。しかし、未だに見つからない代役に、劇団内には緊張と期待と失望が渦巻いていた。


「みんな! 良い知らせ!」


 舞台でリハーサルを行っているときのことだった。レイラが明るい声を発しながら、舞台に駆け込んできた。


「とうとう、見つかったよ」


 レイラは肩で息をしながら言った。膝に手を当てながらぜぇぜえと息をするレイラの隣には、背の高い、長髪の人間の男が立っていた。

 一同の視線が男に集まった。男は爽やかな笑みを浮かべる。


「どうも。助っ人を募集していると聞いて参りました、トーチ・アックスです。演技にはそこそこ自信があります。以後、お見知りおきを」


 アックスの言葉に、一同の表情が一気に明るくなった。「うぉおお」という歓声がどこかから上がり、またたく間に伝播した。アックスはその光景に少し困惑した様子で笑っていた。


「これで心置きなく帰ってね」


 みんながアックスに集まる中、レイラはエイトに近づいて言った。それからふらりと身体のバランスを崩して、エイトに寄りかかるようにして倒れた。


「おっと」


 エイトはとっさにレイラを支えた。


「ちょっと、無理しすぎたみたい……」


「お疲れ様です」


 エイトは無理もないと思った。レイラは稽古と仲間捜しを同時に行っていたのだ。よっぽど身体を酷使していたのだろう、レイラは気絶するように目を閉じた。その顔には達成感を噛みしめる笑みが浮かんでいた。

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