第7話 ささやかな反抗

「あ、えっと……。そ、そうだ。それよりも顔を勝手に映すとまずい――」

『安心してください。スキル使用者以外の個人は自動モザイクが適用されます。解除は可能ですが、高度な設定変更の対価として本体に過度な負荷が掛かる可能性があります』


―――――

■チャット↓【同時接続38人】

あのこのP:別探索者?

イケメン戦国は人生:こうしてみるとリアルって実感が湧くね

くろ妹:近づいてきた。気を付けて

さすらい:この声、知ってるかも……

―――――


「アニメ?ホログラム?もしかしてスキルか?変わったのがあるもんだな」

「だ、誰でもいい!た、助けてください!私――」

「ぷぺぺ」


 荒井君を追い越して駆け寄ってくる女性。


 その後ろでは数匹のスライムが身体を伸縮させながら攻撃を仕掛けようとしている。


「危ない!」


 俺は咄嗟に駆け出し、女性を抱き締めるようにして庇うと続けてスライムに攻撃。


 12レベルになったからなのか、それとも拳闘術のスキルが強化されたからなのか、俺の拳はスライムを一撃で弾き飛ばし、魔力結晶をドロップさせた。


「俺、こんなに……」

「へぇ……。というか、そのモニター……。なるほどねぇ」


 スライムが弾ける様子を眺めていた荒井君は何か察したのか、顎に手を当て考える仕草を見せる。


 そういえば第3者に対してはしっかり取り繕うタイプだったっけ。


「その、あ、ありがとうございます!」

「あ、いえ。大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。何かあれば俺がポーションを使って上げてましたから。それに見てください。HPゲージは減っていないでしょう?初めてのダンジョンでちょっと大袈裟に怖がってしまっただけですよ。……。もしかしたらあなたにダンジョンは向いてなかったのかもしれませんね。今のうちに帰られるといいでしょう」

「え?い、いいんですか?私帰ってもいいんですか?」

「当然です。また会えるときを楽しみにしていますね」

「……。は、はい」


 自分が何をしていたのか、しようとしていたのか、それを隠すように女性を帰路につかせる荒井君。


 ただ女性は、最後の言葉にその顔をひきつらせていた。


 多分だけど弱みを握られて脅迫でもされているのだろう。


「……。あの女性とはど、どういった関係で?」

「いやぁ。ダンジョン初心者と聞いたので、そのお手伝いをですね。ただ、ギリギリまで戦わせて成長を促して上げようとした俺の考えが彼女には良くなかったみたいです」

「そ、そうですか」


 善人ぶってそれらしい嘘を……。


 そんな態度に怒りが込み上げるが、それ以上に恐怖心が勝ってどうにも上手く話せない。


 スライムなんかよっぽど荒井君という存在がトラウマになってしまっている。


「それよりも変わったスキルですね。こんなのは見たことがない。……。これはどうなっているのかな?」


 荒井君の手が延びる。


 呼吸が乱れる。

 汗が吹き出る感覚が全身を巡る。


 怖い。触れられるのが。

 だけど……。


「や、止めてください!」

「おっとこれは失礼しました。……。お詫びと言ってはなんですが、どうですか? 一緒に探索なんて。これでも俺は若手のホープなんて言われていてレベルは70――」

「お、お断りします」

「……。そうですか。残念です。俺ならきっとあなたの役に立てたと思うのですが」


 荒井君、また何か考えて……。


 その薄っぺらい笑い顔が余計に怖く思えるよ。


「け、結構です。俺はあなたの手を借りなくても強くなれるので。む、むしろそのうちあなたが手助けを求めるようになるかもですよ」


「……。へぇ。それはそれは楽しみですね。……。……。『カウントボム』を、ギフト」


「そ、それでは俺はこれで!」


 荒井君は何かポツリと呟いたようだが、俺は下手にキレられるよりも先に撤退を選択。


 以前までならこのままずるずると探索する羽目になってただろうけど、スキルのお陰かな、今は少しだけ強気になれ――



 ――ボンっ。



「え?」


 右足。

 カメラの死角になる場所で起きた小爆発。


 耐久値は一気に残り5000。


 まさかこんな行動に出るなんて……。

 俺の発言が逆鱗に触れたったことか?


「くっ!」

「ほら! 油断してスライムに攻撃された! やっぱり俺が必要――」

「い、いらない! だ、大丈夫! 大丈夫ですから!」

「そうですか。……。面白そうで使えそうな奴だと思ったんだがな……。しょうがない、か。なら俺はここで。今度はスキルを使わない、素の状態でも会ってみたいですね」


 前半少しだけ不愉快な雰囲気で何か呟いたかと思えば、ぱっと切り替わって、モニターに映る自分の姿を確認して荒井君はその場を去った。


 まだまだ見返すには遠い。

 レベルなんてあと60近く差がある。


 でも……。


「俺、反抗できた。喋れた。戦えた」


―――――

■チャット↓【同時接続38人】

あのこのP:絶対あいつなんかしたでしょ。画角的に良く見えなかったけど。女の子の話も嘘っぽいし。

イケメン戦国は人生:嫌な雰囲気。レベル差あるとどうしてもマウントとろうとするのよね。

くろ妹:苦手

さすらい:まぁ特定はマナー違反か。

―――――

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