第5話 シルバースライム

 ――カキン。カキン。カキン。


 微かに、確かに聞こえる金属音。


 知らぬ間に盛り上がるチャット欄から早々にその音のする方へ視線を移す。


「これ、ゲームで見たことある奴、とはちょっと違うけど……。レアってことはお前らに言われなくても分かるわ。金策系か経験値系か、とにかく逃げられる前に倒さないといけない奴で倒すと脳汁凄いんだろ? きっと」


『シルバースライム』


 スライムって言う割には全く柔らかそうに見えない風貌で、鉄球とかパチンコ玉とかそんな方が例えにはちょうどいいかも。


 ヘイトテイカーのお蔭なのか逃げ出す雰囲気はなくてむしろやる気マンマンで休むことなく跳ね続けてる。


「異質。明らかにかっちかっち。でもダメージが入りにくいったって1階層のモンスターなら……うらっ! 喰らいやがれ! 俺の強化された拳をよおおおおお! 金! 経験値ぃぃぃぃいいいい!」


 コメントを参考に避けることも何もしないゴリ押し戦術での殴り。


 いわゆる喧嘩殺法でダメージを稼ぎにいく。


 拳闘術が効いているのか突き出しのスピードは上がってるし、レベルも上がってるし、ワンチャン楽勝なんじゃ――


『シルバースライム:HP:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□』


『シルバースライムへのダメージをHPゲージに細かく反映するため、与えたダメージからゲージを再生成。白色への変化分がダメージとなります』


―――――

■チャット↓【同時接続10人】

あのこのP:果てしなくて草

イケメン戦国は人生:つまり……あと299発ぶち込めば勝てる!

くろ妹:感謝の正拳突きするわけじゃないし、いけそう

―――――


「……。いやいやいやいやいやいやいやいや! 泥仕合所望し過ぎだって! これ絶対逃げられる奴でしょ!」


―――――

■チャット↓【同時接続10人】

あのこのP:試すのは大事 

イケメン戦国は人生:ごねてないでゴリ押し連打してけ!

くろ妹:これ倒せた人いるの?

―――――


――カキ、ンッ!


「うっ! くそ、速いな! そんでえっと、そっちの攻撃力は……」


―――――

耐久値4890/9999

―――――


 ツッコミを入れてる間に食らったシンプルな体当たり。

 

やっぱり身体は痛くない、けど1回で10も削られるとかなかなかギリギリの戦いになって来たかも……。


 トイレタイムがなかったら絶対余裕だったのに……。

 ――カキ、ンッ!


「また……。こんなの避けてたら日が暮れっから! おら! ダメージレースなら俺の方が有利なんだよ!」


 シルバースライムの体当たりに合わせて拳を突き出してカウンター。


 ちまちまとお互い命を削られる地味な戦いが開始。


 1回、10回、100回……俺の拳とシルバースライム体のぶつかり合い。


 しかもヘイトテイカーで呼び寄せられたスライムたちの相手も一緒にしないといけないという地獄。


 本当にこのヘイトテイカーって害悪スキルは……。

 でもこれのお蔭でレアモンスターと会えたし、逃げられないのもこれのお蔭、かも。


「いやいや、だからって絶対感謝しないけど。というか、しぶとすぎるって」


 余裕しゃくしゃくな映像から打って変わって、我ながら熱い戦いを演出してしまってるのを実感。


「こんなの、チャット欄見る余裕もないじゃん。これ、ドキュメントじゃなくてエンターテイメントなんですけどおお! あと何回だ? 50切ったか?」


 ――カキ、ンッ!


「ぷ、っぺ……」

「仲間にぶつかっ、た? まさかこいつ……」


 HPが減ってきたからか、シルバースライムは俺を通り過ぎて普通のスライムに突進。

それをクッションに背後から攻撃を当てにきた。


 まるでピンボールの要領。

元々スピードがあったのに、体当たりを始めるまでのディレイがなくなって攻撃数が増えて……。


「これ、やば。全然カウンター間に合わな――。……。……。くそったれ!」


 当てようと適当に振った腕はシルバースライムに掠り、むしろ体当たりを加速させてしまう。


 当然だけどダメージはさっきよりも入らない。


 これ耐久値足りない。このままじゃデスペナルティとられるって!


「ぷ、ぺ……」

「ぺ、ぽ……」

「ぽぺえ……」

「シルバースライム、シルスラのせいでノーマルスライムばっかり死んでくんだけど……。シルスラさぁ、お前罪悪感とかないの? 仲間をばんばん殺して――」


『レベルが3に上がりました。称号初心者スライムキラーを獲得しました。レベルアップボーナスとして耐久値が回復します。耐久値:9999/9999』


―――――

■チャット↓【同時接続15人】

あのこのP:ここでレベルアップとか主人公補正かかってるわ! 

イケメン戦国は人生:経験値荒稼ぎチャンス! 絶対無駄にすんな!

くろ妹:なんだ、余裕か

さすらい:初コメ。Vtuberの探索者ってだけで異様なのに、なんか凄いことになってて草

―――――

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