第73話 最終決戦⑤ チーム42番の結束
ホランたちとの連携によって、ようやくルーゴに一太刀浴びせることに成功した。
「ぐ、ぐぐぐぐ」
いくら手負いのクルーシュの攻撃とはいえ、背中からモロに喰らってしまっては大ダメージ。立ち上がるルーゴに強者の余裕はない。
「こんなにわかりやすいヘイト誘導に引っかかるとは。この闘いでお前が目を離してはいけない相手が誰なのかわかっていないようだな」
「もう騙されない。雑魚は無視だ。クルーシュ以外は脅威ではない!」
狙いをクルーシュに絞って正対するルーゴだが、チラチラと背後に視線を移している。二十メートルほど後ろからにらみを利かせているロッツが気になるのだ。
脅威ではないことはわかっている。しかし、何らかの秘策が隠されているとしたら? 背後の雑魚を無視したことで致命傷を受けてしまう未来があるとすれば? そんな疑念を一度でも抱いてしまうと、もう気になってしょうがない。
「なんだこれは! クソ! どうすればいいんだ!」
剣士として戦場に立ったことがないから判断に自信がない。
急に圧倒的な力を手に入れたから、自分の力をどこまで信用していいのかわからない。
この場の誰よりも強いはずなのに、誰よりも焦っていた。
逆にクルーシュたちはチームの結束力で自信を深めていく。適切な距離感でルーゴを翻弄する。
「なぜ! 私は最強になったはずなのに! どうして劣勢なんだ!」
クルーシュに集中するとコヨハやロッツの邪魔に遭い、ロッツやコヨハを潰そうとすると先読みしたホランに間に入られ、時間を稼がれているうちにクルーシュに詰められてしまう。
「なぜだなぜだなぜだなぜだ!」
剣を振り回して錯乱するルーゴ。近づかない限り脅威ではない。
「しかしこのままでは膠着状態ですね。ルーゴ様に冷静になる時間を与えてしまうのは良くありません」
リファラが口にした懸念は、すでにチーム42番の共有するところ。
「ホラン! ロッツ! コヨハ!」
四人の名前を呼ぶ。それだけで意図が伝わる。
「ええ!」
「りょーかい!」
「任せて!」
まずコヨハが大きな火炎玉をルーゴにめがけて放つ。
「邪魔だ!」
リファラに強化されているとはいえ、コヨハの魔法は無問題。片手で振り払う。
しかしこれが悪手。
避ければいいのに無駄に防御してしまったものだから、炎が破裂したことで煙が発生し、視界不良になる。
「クソ!」
横に跳んで煙から脱出。
そこで視界に飛び込んできたのは、突撃してくる大きな盾。壁のように地面に垂直に立てて全身を覆い隠している。
ホランの攻撃を警戒する必要はないのに、ルーゴはつい身構えてしまう。近づいてくる敵には注意しなければならない。魔法職時代の癖だ。
さらに背後から殺気。弱い殺気だ。
(これはクルーシュのものじゃない。ずっと背後にいるロッツとかいうガキだ。間違いない)
ここでルーゴがするべきことは、ホランやロッツのケアではなく、クルーシュがどこにいるのかを把握すること。
(右か? 左か? それとも上か?)
見渡すが、黒い鎧はどこにも見当たらない。
こうなると疑心暗鬼。
(背後の気配は本当にクルーシュじゃないのか?)
盾が目前まで迫っているこのタイミングで、あろうことか後ろを振り返ってしまう。
「残念。俺だよ」ニヤリと笑うロッツ。
慌てて前を向いたときには視界一杯に広がる灰色の盾。
面食らっていると、盾が横にスライドする。
(盾の裏にクルーシュが隠れているのか? ああそうだ。そうに違いない!)
かつてホランたちがクルーシュと最初に稽古をしたときに披露した連携技。もちろんルーゴはそんなことは知らないが、状況的にそう判断した。
確信を持ったルーゴは突きの構え。
(出てこいクルーシュ! 貴様が姿を見せたとき、隙だらけの胴体を貫いてやる!)
横に移動する盾の淵を凝視する。盾の外に黒い鎧が見えたとき、いつでも剣を突き出せるように。
しかしいつまで経っても、盾の横からクルーシュが出てくる気配がない。
「マヌケめ。いつまで正面を見ている」
「は?」
低く落ち着いた声は、頭上から降り注いでいた。
見上げた時には、漆黒の大剣がすぐそこまで迫っていた。
「な!」
クルーシュはホランの盾に隠れて近づいたあと、ホランが横に移動すると同時に頭上を飛び越えたのだ。
横から出てくると思い込んだルーゴは頭上へのケアを怠った。
「そんな……」
「さらばだ。強者の驕りが生んだ怪物よ」
脳天から貫いた。
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