第72話 最終決戦④ 反撃開始
クルーシュの危機を防いだのは、チーム42番のリーダー・ホランだった。
「お、重い……」
踏ん張ってルーゴの剣を受け止めている。
彼女が耐えている間に、ルーゴの背後にもう一つの影が落ちてきた。
「おらああ!」
「!」
ツンツン頭の少年、ロッツだ。大剣による一撃で白銀の鎧がよろめく。
「何者だ!」
振り返って反撃しようとしたルーゴの眼前に白い煙が立ち上る。
「なんだこれは!」
「妨害スモッグ。目くらましだよ。ロッツには手を出させないもんね」
戦場に似合わない間の抜けた声はコヨハのものだった。
「魔王様さまー!」
頭上から聞き慣れた秘書官の声。
上を見ると、ドラゴンが羽ばたかせながら降下してきていた。
着地したドラゴンの背中から降りる三人。コヨハ、リノ、そしてリファラ族長。
コヨハは素早くクルーシュの側に駆け寄る。引いてきたロッツとホランもそこに集まる。
「教官! 助けに来たぜ!」
「ボロボロなんでしょ? 族長さんから聞いたんだ」
「苦しいときは助け合う。それがチームでしょ?」
「お前たち、どうしてここに?」
「私が連れてきました」
遅れて近づいてきたリノが頭を下げる。
「命令違反をしてしまい申し訳ありません。ですが、魔王様は一人で抱え込み過ぎです」
「リノ……」
「リノさんだけじゃありません。あなたの生徒たちは進んでドラゴンに乗りましたよ」
最後にゆったりとした足取りでやってきたリファラが微笑みかける。
「お仲間に恵まれましたね」
クルーシュを囲う仲間たちを見渡す。彼女たちはクルーシュに信頼の眼差しを向けていた。
戦力としては小さい。しかし頼りになる仲間たち。
「我の力になってくれるのか?」
「もちろんだぜ」
「教官はドジなところがあるから、ワタクシたちがカバーするわ」
「だから教官さんはルーゴ様を倒すことだけに集中してね」
「私は非戦闘員ですから見守っていることしかできませんが、後ろから勝利を祈っています」
「……ありがとう。お前たち」
心の中でスカイに語り掛ける。
(貴様が裏切られた場所で、我は仲間に救われたよ。これで少しは報われたな)
リファラが表情を引き締める。
「クルーシュ様の生徒さんたちは私の強化魔法で強くなっています。本来なら伝説の鎧の戦に割って入ることのできない彼女たちですが、今はルーゴ様の周りを飛び交うハエくらいの役割は果たせるかと」
リファラの言葉は正しい。
さきほどのロッツの不意打ちでもダメージはなかったが、よろめくくらいの影響は与えることができた。ホランもギリギリではあるが手を抜いたルーゴの一撃を止めることができた。コヨハの妨害も数秒の時間稼ぎができた。
三人とも決定打にはならないが助けにはなりそうだ。
「ああ。十分だ」
非戦闘員のリノとサポート専門のリファラが下がり、チーム42番がルーゴと相対する。
「教官と一緒に戦うのは初めてね。連携は大丈夫?」
「どれほどお前たちに稽古をつけたと思っている。問題ない」
「俺たちは囮の動きをするから、あとは教官がうまくやってくれよ」
「私は後ろからアシストするね」
「了解した」
魔界の存亡をかけた最終決戦の場にも関わらず、愛弟子と共闘できることに心が躍る。彼女たちと一緒なら勝てるかもしれない。希望が湧いてきた。
対照的にルーゴは怒りをあらわにする。
「なぜだ! どうして私が一人で、貴様が仲間を連れている! おかしいじゃないか! スカイはそんな奴じゃなかった! 人を人と思わないクズ野郎だ!」
「ルーゴよ。お前はスカイの被害者。それは認めよう。だが結果として、お前はスカイと同じ道を歩んでしまったのだ」
「なんだと?」
「もしここにアース隊長がいたら迷わずお前の味方をしていただろう。皮肉にもお前自身が仲間を捨ててしまったのだよ。スカイのように」
「ふざけたことを言うな! 私とあのクズを一緒にするな!」
激昂するルーゴ。
「殺す! 貴様ら全員殺してやる。私を裏切る人間はこの世から消してやる!」
「さあ行くぞ。我がチームの集大成だ!」
その声を合図に四人はフォーメーションにつく。
ルーゴの正面にクルーシュ。伝説の鎧と真っ向から戦えるのは伝説の鎧しかいない。
クルーシュの背後にはコヨハ。妨害魔法でクルーシュをサポートする。
ロッツはルーゴの背後で距離を取っている。攻撃要因というよりは、常に背後に居続けることでルーゴの気を散らすことが目的だ。
ホランはルーゴの横。ロッツやコヨハにヘイトが向いたときに助けに入るために両者の中間に位置している。
「フッ! 雑魚に取り囲まれようが関係ない! クルーシュさえ殺せば終わりなのだから!」
ルーゴは生徒たちを無視して正面の鎧に突っ込む。
しかし地面から岩の壁が突き出し、進行方向を阻まれた。万能型魔法使いのコヨハによる土魔法。
「邪魔だ!」
剣を振り下ろして壁を破壊する。
「隙だらけだぜ!」
直後、背後から追いかけていたロッツが無防備な白い背中を斬りつけた。
ダメージは少ないとはいえ、特士校の生徒風情に斬られたことに苛立つルーゴ。
「鬱陶しい!」
振り返ったときにはホランの盾がロッツを守っていた。
「そんなひ弱な盾など粉々にしてやる!」
ムキになって剣を振り上げる。
「本当に素人だな。お前の力をもってすればホランの盾は蹴り飛ばすだけでいいのに。わざわざモーションが大きくなる大剣を使うとは片腹痛い」
「!」
気付いたときにはもう遅い。
クルーシュはもう真後ろに迫っていた。
「反撃開始だ!」
背中から横薙ぎ一閃。白銀の鎧は激しい音を立てて吹き飛んだ。
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