第70話 最終決戦② 反撃の一手

 苦しむクルーシュとは対照的に、ルーゴは優勢を確信した様子。


「どうした? まだ闘いは始まったばかりだぞ。せっかく私が百年かけてでも辿り着きたかった舞台なんだ。もう少し抵抗してくれないと困る」

「安心しろ。黙って負けるほど無責任な男ではない。スカイが残した怪物は我が責任をもって沈める」

「なら安心だ。死ぬ間際まで抗う無様な姿を拝めると思うと楽しみでしょうがない。足をもがれた蟻のようにしてやるよ」


 再び白い剣を持ち上げる。またしても隙だらけの構え。剣技を知らないルーゴは剣を振り回すことしか能がないらしい。それでも脅威になっているわけだが。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 ルーゴは膝を曲げて足に力を溜めると、今度は跳躍し、上方からクルーシュの頭頂に向けて叩きつけるように振り下ろしてきた。

 同じ轍は踏まない。クルーシュは受け止めることはせず、半身でかわした。

 白い剣が堅い地面に突き刺さる。


「好機!」


 回避動作に逆らうことなく体をその場で一回転させ、そのまま回転斬りでルーゴの背中を砕こうとした。

 しかし手ごたえは鈍い。ルーゴが地面から素早く剣を抜き、背中の鞘に剣を収めるような動きで大剣を背中に這わせて防いだのだ。


「ふう。危ない危ない」

「くそ! 無茶苦茶な動きをしよって!」


 再び撤退しようとしたクルーシュだったが、地面を蹴るより先に腕を掴まれてしまう。


「もう逃がさないよ」


 腕を振り払ったときには勢い任せの斬撃が襲い掛かってきていた。

 避けられない。剣で防いでもダメージが残る。

 となると、クルーシュの十八番を出すしかない。


「防御壁! 出力最大!」


 守りのエキスパートクルーシュが膨大な魔力を圧縮して生成した透明の壁を正面に展開する。ここまで強固な防御壁を出すのは初めてのこと。そこまでしないとルーゴの攻撃は防げないと判断したのだ。


「無駄ぁ!」


 渾身の盾は、音を立てて砕けた


「なっ!」


 防御壁を突破してきた斬撃を受け、吹き飛ばされる。五十メートルほど地面を転がったところで静止した。

 さすがに威力は減衰しており、致命的な傷は負わなかったものの、ダメージは大きい。


「どうだ。これが私の力だ。スカイの魂しか入っていない黒の鎧と、最高級の剣士であるアースの肉体が入った白の鎧の力が同じレベルなわけがないのだよ」

「……なるほど。三日前、やけにあっさり白銀の鎧を身に着ける権利を手放したと思ったが、そういうことか。力をより引き出すためにアースの体を利用したかったと」

「馬鹿な男だったよ。強くなれと言われれば自己研鑽に励み、鎧を着ろと言われたら素直に身に着ける。ただの受け皿であることも知らずにな」

「……ああ、アース隊長は馬鹿だった。こんなクズのような上司に心酔していたのだから」


 怒りをエネルギーに変えて立ち上がる。

 最初は敵視されていたものの、最終的に理想を共有する関係となったアース。人間と魔物を超えた盟友を馬鹿にされて黙っているわけにはいかない。


「決着をつけよう」


 力の差はあるが、覆せないほどではない。だったら余力があるうちに全力を出そうと考えた。


 クルーシュは左足を大きく引いて腰を落とし、大剣を左の腰の横に取り、剣先を後ろに向ける。


「その構えは?」

「人間界でもっとも威力の高い技。たしか天神斬りだったか」


 以前、チーム42番の元教官であるガドイル教官がホランの助けに入ったクルーシュに向けてはなった剣技だ。平凡な兵士の天神斬りではクルーシュの体に傷をつけることはできなかったが、クルーシュが使えば山をも斬り倒せる威力になる。白銀の鎧とて無事では済まないだろう。


「我は防御のスペシャリスト。攻撃技は豊富ではないのだよ。だから見よう見まねでやってみようと思う」

「この土壇場でぶっつけ本番とは。相当追い込まれているようだな。愉快愉快」


 手を叩いて喜ぶルーゴ。


「余裕そうだな。ならば正面から受けてくれないか? 百年の因縁にケリをつけるのだから、力と力のぶつかり合いといこう」

「ふっ。まあいいだろう。力づくでねじ伏せたほうがより勝利を実感できるというもの」


 真っ向勝負の口約束を交わすことに成功したクルーシュは心の中でほくそ笑む。


(天神斬りは隙の大きい技。剣身に魔力を集中させるのに時間がかかるし、その間は身動きが取れない。さらに正面にしか繰り出せないから、魔力を溜めている間に背後に回り込まれたら終わりだ。だが、ルーゴは明言した。正面から受け止めると。これなら勝ち目がある)


 これが最後の一太刀。百年越しの罪滅ぼしのために、全身全霊を込める。

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