第63話 シス王の正体、クルーシュの正体
正眼の構えでドラゴンと相対する白髪の剣士。
すでに虫の息のドラゴンが、最後の力を振り絞って口から灼熱の炎を吐き出そうとした。
しかし隙だらけ。白髪の剣士が飛び掛かり、
「とどめだ! 光の墜剣!」
「グオオオオォアオァオァァオ」
真っ二つに切り裂かれたドラゴンは、闇に覆われた空に向かって咆哮を上げ、魔粒子となって離散した。
闘いを終えた剣士が、仲間である二人の人間のもとに険しい表情で歩み寄る。
ふたりは視線を下げて怯えた様子。
剣士はまず盾を持った女を睨む。
「カバーが遅い。俺を守るのがお前の仕事だろうが」
「で、でも、スカイなら一人でも倒せる相手だと思ったから……」
「でもじゃないだろうが。万が一、それで俺が傷を負ったらどうする。お前の怠慢でパーティが崩壊するんだぞ。魔王の待つ荒れ地まであと少しだというのに。もっと意識を高く持て」
「……ごめん」
今度は白い僧侶服の男に目を向ける。
「お前もだ。何度言えばわかる。強化魔法のタイミングが悪い」
「……私としては全力を尽くしているつもりなのですが」
「つもり、だと? そんな曖昧な認識で魔王討伐パーティの魔法職を担当していたのか。だったらとっとと荷物をまとめて人間界に帰れ」
「すみません。次は頑張ります」
「俺と組んで何年目になる? 特士校時代からの付き合いだぞ? いい加減呼吸を合わせてくれ」
「…………」
「なんだその不満そうな顔は。誰のおかげで聖騎士団第一隊副隊長になれたと思ってる」
「……スカイが口利きしてくれたおかげです」
「わかってるならちゃんとやれよ。次が山場なんだから」
剣士は歩き出した。
立ち止まったまま苛立ちを顔に出す僧侶服の男を、女が宥める。
「しょうがないよ。私たちが弱いのが悪いんだから。頑張ろう、ルーゴ」
優しい笑顔を向けられたルーゴは、少し顔を赤くして下を向く。
「……そうですね」
「ねえ。もうすぐ終わるんだよね」
「ええ。荒野に待つ魔王を倒して、魔王城に残る残党を倒しきれば、この旅は終わる」
「忘れてないよね? 人間界に帰ったらふたりで暮らすって約束」
女がルーゴの顔を覗き込む。
「もちろんだよ。エリーゼ」
「田舎に暮らそうよ。もう誰からも急かされないのんびりとした生活」
「いいですね。きっと楽しい毎日が始まる」
ふたりはそっと手をつなぎ、雲に覆われた荒野を歩く。
魔王を倒せば幸せな未来が待っていると信じて。
―――――――――
「…………様」
声が聞こえる。澄んだ小川のような清らかな声だ。
「……ーシュ様」
我を呼んでいるのか?
「クルーシュ様」
「はっ!」
「きゃっ!」
クルーシュがいきなり体を起こしたので、リファラは身を縮こまらせて声を上げた。
「おお。族長か。ここは?」
「……よかった。意識を取り戻したようですね」安どの息をついてから「ここは森憑村の治療小屋です」
暖色のランプに照らされた小屋にはベッドとテーブルがあるだけ。窓の外には森憑村の目印となる大木の根元が見えた。
「それより! 白銀の鎧はどうなった!」
布団を払ってベッドから立とうとしたクルーシュだったが、
「イタタタ!」
立ち上がれず、左わき腹を押さえる。
「ダメです。まだ完全に治っていません。砕けた部分はすべて修復しましたが、まだ完全に繋がっているわけではありませんので。しばらくは休んでおくべきです」
「……お前が我を助けてくれたのか。ありがとう」
「私の使命は試練の滝を突破した勇者の命を救うこと。過程は違いますが、結果として役目を果たせたことを嬉しく思います」
頭を下げるリファラ。今はランジェリー姿ではなく、族長らしい荘厳なドレスを身にまとっている。
「それで、我が倒れて何日が過ぎた?」
「三日ほどでしょうか」
「三日か……それだけ時間があれば、シス王は魔界に到着していてもおかしくない。急がなければ魔界が滅ぼされてしまう」
患部を押さえながらゆっくりと立ち上がり、出口に向かって歩き出そうとしたところ、リファラが両手を広げて立ちはだかる。
「ダメです! まだ治っていません」
「大丈夫だ。歯を食いしばれば戦える」
「ええ。たしかに漆黒の鎧であるあなたなら、傷を負った状態でも並の敵なら問題なく倒せるでしょうね。ですが、クルーシュ様がこれから戦おうとしているのは白銀の鎧です。あなたと同程度の力を持つ鎧の力の持ち主。そんな相手に、傷を負った状態で勝てると思いますか?」
「勝てる勝てないではない。勝つしかないのだ」
「いいえ。今は休息の時です。あなたが死んでしまったら、もう誰も彼を止められませんから」
「しかし……」
なおも従おうとしないクルーシュに、リファラは唐突に告げる。
「よく聞いてください。白銀の鎧の正体はルーゴ様です」
「ん?」
「そしてあなたの正体はスカイ様です」
「は?」
リファラはさらに続ける。
「ルーゴ様の野望は、かつての仲間であるスカイ様、つまりあなたを越えることなのです」
「……いきなり言われてもなんのことやら」
「知りたければ座ってください。すべてをお話ししましょう」
逡巡の末、クルーシュはベッドに腰かけた。
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