第62話 牙をむく白銀の鎧


 突然死んだように倒れたアース。

 それを見たリファラが、意味深長なリアクションを取ったので、クルーシュは問いただそうとした。


 しかしそうするより先に、白銀の鎧が上半身を起こしたので、クルーシュは素早く駆け寄る。


「おお! 目が覚めたか!」

「…………」


 無言のままクルーシュに顔を向ける白銀の鎧。バイザーの隙間の向こうはクルーシュと同様闇に覆われていて、表情は伺えない。


「まったく。死んだかと思ったぞ。大丈夫なのだな」

「……邪魔だ」

「なっ!」


 突き飛ばされた。巨躯の鎧が宙に浮き、そのまま数メートル先の地面に叩きつけられる。


「イタタタ」


 背中をさすりながら立ち上がり、相対する白銀の鎧を睨みつける。


 月光を浴びて輝く白銀の鎧は、自分の感覚を確かめるように手足を動かしていた。一通りその作業が終わると「フハ、フハハハハハ!」と悪役のような高笑い。


「叶った。ついに私の夢が叶ったぞ!」

「……お前は……誰だ?」


 声はアースと同じ。しかし喋り方がまるで違う。

 白銀の鎧はクルーシュを見つめて「……誰だと思う?」試すように訊いた。

 クルーシュは少し言い淀んでから、静かな声で告げる。


「……シス王なのだろ?」

「フッ。なるほど。ならば私もあえてクルーシュと呼ばせてもらおうか。クルーシュよ。私はこれから魔界を滅ぼす」

「!」

「止めるか?」

「当然だ!」


 地面に亜空間を作り出し、手を突っ込んで漆黒の大剣を取り出す。得意の正眼の構え。

 応じて白銀の鎧も手を上に伸ばし、天から降りてきた白い大剣を片手で掴む。


「クルーシュ様! 今のあなたは不利です。試練の滝を乗り越えたばかりで疲弊しています」


 リファラの指摘は正しい。クルーシュは体の重さを感じていた。

 こんな状態で同等の力を持つ白銀の鎧を相手にしたら、厳しい勝負になるのは明白だ。


「わかっている。だが、ここで見逃したら魔界が消えてしまう。なんとしても奴を食い止めなければならない」


 柄を握る手に力を込めて覚悟を決める。


「いくぞ!」


 地面を蹴った。

 神速。

 衝撃波で周囲の草をなぎ倒す。


 油断していた白銀の鎧の懐に一瞬で入ると、抜刀術のように斜め後ろに構えていた大剣で斬り込んだ。


「!」


 手応えはなかった。

 クルーシュの繰り出した斬撃は、白銀の鎧の左手の甲で防がれていた。


「バカな!」

「フッ。漆黒の鎧もその程度か。やはりアースを利用した私の判断は正しかった」

「なにを言っている……!」

「知る必要はない。どうせお前はここで死ぬのだから」


 大剣を握る右手を横に振りかぶる。


(退かねば!)


 後方に跳ぼうとしたクルーシュだが、疲労で動きが遅れた。

 予想よりも速い斬撃が横腹を捉える。


「死ね! クルーシュ!」


 破砕音。漆黒の鎧が砕けた。

 白銀の大剣に横腹をえぐられ、胴の半分以上が砕け散った。


「クルーシュ様!」


 リファラの叫びも聞こえない。

 胴にぽっかりと穴が空いたクルーシュは、その場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。


 白銀の鎧は握りこぶしを作って勝ち誇る。


「邪魔者は消えた! 私が英雄になるときが来たのだ!」


 そして森の向こうへと姿を消した。魔界のある北に向かって。

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