第57話 選ばれたのは魔王でした
森憑村のさらに奥地にある平原。
鳴り響く轟音。
天から落ちる透明の激流。
シス王の目的地は審判の滝だった。
「やはり白銀の鎧が目的か」
四方を囲む滝の中心に鎮座している白銀の鎧。身に着けた者に大陸を統べる力を与える、人類の最終兵器だ。手に入れれば聖騎士軍と魔王軍とのパワーバランスを覆すことができるだろう。
ただし審判の滝は弱き者を弾く。並外れた力を持つ強者のみが突破できる究極の試練なのだ。
事実、二か月前にここを訪れたときも、歴代でも伝説の勇者スカイの次に強いとされるアースですら試練への挑戦を拒まれた。
それでもシス王が同じメンバーで再訪した理由をクルーシュはこう推測した。
(特士戦を観戦する中で、アースが審判の滝を抜ける実力を手に入れたと判断したのだろう
実際、彼は境界戦線での一件以降、勇者スカイのような己の強さだけを追い求めるスタイルを見つめなおすことで新たな領域に辿り着いた。
最強の魔王クルーシュと同じ思想。弱者を救う強さ。それを身に着けた彼は二か月前よりも間違いなく強くなっている。
今の彼なら試練の滝を突破できるかも。シス王がそう考えていても不思議じゃない。
(なるほどな。人類を救う秘密兵器が手に入ると思えば急かす態度も理解できる。いつもニコニコして腹の中が読めないシス王にも人間らしいところがあるじゃないか)
しかし疑問が一つだけ。
仮にクルーシュの読み通りだったとして、なぜクルーシュは同行を求められたのか。
アースが失敗したときの保険? それは違う。
試練の滝は聖水。魔物は強さに関わらず消滅してしまう。前回の訪問でリファラから説明されたことだ。
ではなぜクルーシュを連れてきたのか。
(まあ道中で魔王軍に襲われた時の保険か、あるいは白銀の鎧の性能チェックのための稽古相手だろう)
深く考えることなくそう結論づけた。
すでに族長リファラがアースを手招いて、強さを図る儀式を執り行おうとしている。今更余計なことを考える必要はない。そう思ったから。
「アース隊長。私の前へ。試練の滝を通る力があるかどうか、私の目で判断します」
当然の流れのようにリファラはアースを呼び、アースもそれに従った。
「この一か月、俺は変わりました。少なくとも前回よりは強くなっているはずです。よろしくお願いします」
至極当然の流れ。
しかし、シス王だけが三人の共通認識とは別の考えを持っていた。
「ちょっと待ってください。受けるのはクルーシュ様です」
「はい?」
全員が困惑してシス王の顔を見る。
「シス王様。おっしゃる意味がわかりません。クルーシュ様は魔物です。人間の魂を持たない者は滝に触れると消滅してしまいます。強さ以前の問題です」
代表して意見したリファラに対し、シス王はニヤリと笑って、
「ですが、もしこれならどうでしょう」
彼女の横に歩み寄ると、森憑族特有の長い耳に口を近づけ、小声でなにかを伝える。
怪訝な顔で聞いていたリファラが、おっとりとした目を見開いてクルーシュを見た。
「……もしそれが本当なら、彼が試練の滝を抜けることは可能でしょう」
それを聞いたシス王は笑顔で、
「ではクルーシュ様。よろしくお願いします」
「……………え? 我?」
いきなりの指名に唖然とするクルーシュだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます