第53話 剣士と剣士の真剣勝負
チームハンドレッドとチーム42番の戦いは、人数不利に陥ったチームハンドレッドがじりじりと追い詰められ、最終的に最後に残ったアリアーノをロッツの一撃で沈めたことで決着した。
「そんな……僕たちが落ちこぼれなんかに」
「マジありえねぇし」
「くそ! くそ!」
タイルの床を叩いて悔しがるアリアーノにホランたちが歩み寄る。勝者の笑みを浮かべて。
「どうだ。見たか。これが俺たちの実力だ」
「あなたたちの敗因は慢心。世代のトップとして将来を約束されていたことが成長を妨げたのよ」
「あとは良い教官さんに巡り合えなかったことも、かな」
アリアーノは力なく俯く。
「……隊長は忙しい方だ。俺たちに構っている暇なんてないのさ」
「いや、それは違うな」
「アース隊長!」
観客席から飛び降りたアースがステージに上がる。
「お前たちは才能はあった。だが、俺がその限界を勝手に決めつけ、見放してしまったんだ。それがこの結果。お前たちは悪くない。悪いのは俺だ。すまなかった」
そう言って頭を下げる。
「ちょっと隊長! やめてください! 俺たちが弱いのが悪いんですから」
鬼の隊長に謝られては敗戦のショックも吹き飛んだ。
アースはアリアーノの肩に手を置いて、
「お前たちは帰ってケガの治療を受けろ。なに。俺が相手の教官に勝てば問題ないことだ」
「はい。よろしくお願いします」
チームハンドレッドが会場を後にしたところでクルーシュがステージに上がる。
「よくやったぞお前たち。成長したな」
勇敢な生徒たち一人ひとりに熱いまなざしを送る。
コヨハとロッツは無傷。攻撃を一手に引き受けていたホランもところどころにアザがあるだけ。完勝だ。
「お前たちの教官になって本当に良かった。我は誇りに思うぞ……」
感情豊かな元魔王が涙ぐむ。
ホランたちは笑って、
「何締めくくってんのよ。教官が勝たないとワタクシたちの負けなのよ」
「頼むぜ教官」
「元魔王さんだし大丈夫だよね」
「ああ任せろ。お前たちの勝利を無駄にはしない」
降壇する生徒たちを背中で見送った。
ふたりきりになったところでアースが不敵に笑う。
「クルーシュよ。俺はこのときを待っていた。お前のような強者と戦える日をな」
「ガニュマやガランじゃあ不満だったか?」
「あんな邪悪な強者じゃない。人々を希望へ導く光の強者だよ、お前は」
「元魔王が光とは皮肉なものだ」
「とにかく。俺はお前の本気と剣を交えたい。その先に俺の成長がある。シス王の期待に応えることができる」
観覧席にちらりと目を向ける。
「ふっ。忠誠心は世界一だな」
「だが腕はまだまだだ。正直なところ、この決闘、俺はお前に勝てない。それくらいわかっている
「ほお」
「だからこそ……」
細身の刃が姿を見せる。
「第一隊隊長ではない。ひとりの剣士として全力でいかせてもらう!」
「いいだろう。その覚悟受け取った」
呼応するようにクルーシュは地面から黒い大剣を取り出した。
「ひとつ教えてやろう。我は防御において右に出る者はいないと言われている。我が展開する防御壁は天下一品。だがな、我の本質は剣士だ」
両手に持った剣を自然体に降ろし、剣先がアースの目に向くように構える。
正眼。オーソドックスな構えだ。
だが、アースにはひしひしとした威圧感に襲われていた。
「魔法は使わん。最高の剣技のみで相手してやろう」
「……ありがたい。それでこそ学びある決闘になる」
構えたまま、お互いに数歩距離を取る。
息遣いが聞こえてきそうなほど静まり返る無人の会場。
包み込む緊張感に耐えられなくなったロッツがごくりとつばを飲み込んだ。
その瞬間、
「いくぞぉぉぉぉ!」
「こい! アース!」
元魔王と人間最強の決闘が幕を開けた。
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