第40話 戦場で与えられた役目は監視業務
人間界と魔界の境界に点在する聖騎士団前線基地。境界戦線で戦う兵士たちの拠点だ。
その中でも最も規模の大きい中央前線基地にクルーシュたちはやってきた。
「本当に境界戦線に来るなんて思わなかったわ」
「うっ。緊張してお腹が……」
「トイレ借りる?」
施設の入り口。封鎖された門の前でそわそわする三人組。入場許可を取っている最中だ。
その横でひそひそ話すクルーシュとリノ。
「大丈夫なんですか? もし魔王軍の兵に見つかったら私たちが人間界にいることが知られてしまいますよ」
「それは問題ではない。むしろ我の存在が人間界侵攻の抑止力になればいいと思っている」
「相変わらず優しいですねえ。刺客を送り込まれるかもしれないのに」
「懸念があるとすれば、魔王軍の者が我を見て『魔王様じゃないですか!』と言ってしまうこと。それを生徒たちに聞かれたら、我はもう彼女たちの前に立つことはできない。魔王という事実を隠して指導してきた罪は重い」
「考えすぎじゃないですか? 三人ともクルーシュ様のことを信頼していますよ。たとえバレたとしても変わらず接してくれると思います」
「だといいが……」
門が開き、担当の兵士が姿を現した。
「お前たちが特士校から派遣されたチーム42番の生徒だな。クルーシュ教官、ホーランアート、ロッツ、コヨハ……と、そこの金髪の女は誰だ?」
「助手のリノだ」
「助手のリノです」
「リノさんって助手だったんだね。拠点でダラダラしているだけの人だと思ってたよぉ」
「……一応掃除とか料理とかしてたんだけどね」
悪意のない煽りに落ち込むリノだった。
「まあいい。ついてこい。指揮官のもとに案内する」
五人は兵士の後を追って大きな宿泊施設の中に入り、指揮官室の前に到着。
兵士が簡素な扉をノックする。
「隊長。特士校の派遣生が着きました」
「入れ」
刃物のように尖った声は聞き覚えがあった。
「アース隊長。また会ったな」
「……おまえたちか」
赤いコート姿の第一隊隊長がデスクの前に並んだ顔ぶれに鋭い目を向ける。
「チームハンドレッドの代わりが来ることは承知していたが、なぜ落ちこぼれが寄越されたんだ? サージェスは何を考えているんだ」
「複雑な事情があるのだよ」
「事情ねえ。どうせ好条件の課題を渡すようサージェスに頼み込んだんだろう。戦線の案件は高ポイントだからな」
「否定はせんよ。実際、この一か月で我のチームはお前のチームに並ぶことになる。そろそろ生徒をしっかり指導してやったらどうだ?」
「それは貴様らがここから生きて帰れたらの話だろ? というかここは戦場だ。学生の話はどうでもいい。おい、持ってこい」
アースの合図で傍にいた兵士が机の上に地図を広げた。
「この地図はこから北西に数キロ進んだところにある丘陵のものだ。人間界と魔界との境界線上に位置しているのだが、人間界側は岩肌がむき出しで視界が開けていて、逆に眼前の魔界側には森が広がっていてどこから攻めてくるかわからない」
「こっちからすると守り辛く、相手からすると攻めやすい場所ね」とホラン。
「聖騎士軍は魔王軍との正面衝突で疲弊している。攻め込まれやすいとはいえ現状は何も起きていない場所に兵を割く余裕がない」
「そこで我々の出番というわけか」
「察しがいいな。丘陵の一番高い丘に小屋を建てている」
等高線の閉じたエリアを指さす。
「お前たちには一か月そこで生活してもらう。魔王軍が攻めてきたら速やかに一報を入れ、援軍が駆けつけるまで足止めをしろ」
「監視兼生贄か。学生に任せる役割じゃないな」
「嫌なら辞退しろ。代わりはいくらでもいる」
「その冷酷な思考もチーム42番が一位になったら変えてもらうぞ。そういう約束だからな」
「貴様らが生還したらの話だ。何度も言わせるな」
睨み合う両者。
強者の圧のぶつかり合いにホランたちは身を震わせた。
「以上が基本業務だ。その他の仕事があるときはまた連絡する。質問はあるか? ないな。よし、それじゃあそこのお前、案内してやれ」
「ほら行くぞ! さっさと出ろ」
兵士に指示されて指令室を出た。
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