第30話 伝説の鎧に相応しい者
「鎧伝説。聞いたことがある。この大陸には身に着けた者を伝説に導く鎧があると」
アースが透明の滝の先にある鎧を見つめる。
「はい。まさにその伝説の鎧がこの白銀の鎧です」
「ならば今すぐ手に入れるべきだ」
「お待ちなさい」
滝に突っ込もうとしたアースをリファラが止める。
「白銀の鎧は神が与えし最後の希望。そう簡単に手に入りません。試練が与えられるのです」
「それがこの見えない滝というわけだな」
クルーシュの言葉にリファラが頷いた。
「鎧を手に入れるには滝を抜け、鎧を持って、また滝をくぐって出てくる必要があります」
「シンプルだな。だが、それが難しいのだろう」
「さすがクルーシュ様。お察しの通りです」
今度はシス王が頷いて、
「審判の滝は強き者を通し、弱き者を弾きます。つまり滝を通れるだけの強さを持つ者でないと手に入れられません」
「厳密に言うと『弾く』ではなく『消滅する』ですけどね」とリファラ。
「とにかく。人類の希望を手に入れるには審判の滝に耐えられるだけの強者が必要なのです。並の強さではない。群を抜いた強さをね」
「それはどの程度の強さなのだ?」
「白銀の鎧を発見して以来、定期的にその時の第一隊隊長をここに連れてきました。しかし誰一人として滝を突破することは叶いませんでした」
聖騎士団の第一隊隊長は人間界最強の兵士が務めるポジション。それで突破できないとなると、審判の滝は相当基準が高いらしい。
「なるほどな。それで我とアース隊長を連れてきたというわけか」
魔王軍最強の元魔王。
歴代最強と呼ばれる伝説の勇者スカイの後継者・アース。
この二人なら突破できる可能性がある。シス王はそう睨んだのだろう。
「わかった。では俺が最初に行かせてもらおう」
クルーシュに手柄を渡す気はない。
今度こそと滝に突っ込もうとしたアースを「お待ちなさい」またしても止める森憑族の長。
「滝の圧力に耐えられない者は死んでしまいます。一か八かの賭けに出て命を落とすなんてもったいない」
「ではどうしろと? 滝を超えられる強者がどうか、どうやって判別する?」
「私の目です」
凛々しい眼に宿る白い瞳を指さした。
「族長の?」
「白銀の鎧は森憑族に代々受け継がれてきた
「アース隊長。族長様の前に立ってください。あなたに試練を受ける資格があるかどうか、見極めてもらいましょう」
「……はい」
シス王に促され、リファラと向かい合う。
轟音の中、リファラは大柄の男を観察する。
その様子を険しい顔で見守るシス王。
頼む、合格してくれ。そんな感情が透けて見えた。
(当然か。人類の未来を左右することだ。スカイに次いで最強と呼ばれるアースが不可能となると、もう人間に白銀の鎧を手に入れる手段はない)
うまくいけばいいな、と思いながらクルーシュも見守る。
1分ほど過ぎたとき、結論が出た。
「……あなたはこれまで見極めてきた方の中でもっとも強い。ですが、まだ足りません。審判の滝を超えることはできないでしょう」
悲し気な顔でそう伝えた。
「そんな……」
「あと一回り強くなってください。そうですね。直接見たことはありませんが、スカイ隊長ほどの実力、つまり魔王を倒せるだけの実力を身につければ突破できるでしょう」
「まだ俺はそのレベルに達していないのか……」
唇をかむアース。己の無力さに怒りを向けている。
しかしすぐに気持ちを切り替え、シス王の前で跪く。
「王よ。申し訳ございません。ご期待に沿うことはできませんでした」
「仕方のないことです。それより、次、クルーシュ様。お願いします」
「承知した」
急かされてリファラの前に立つ。
「よろしく頼むぞ」
見極めの時。リファラの視線を浴びながら背筋を伸ばして結果を待つ。
やがて、リファラは目を見開いて驚いた。
「……まさかこれほどの強者が存在するとは。ええ、問題ありません。あなたなら審判の滝をも突破するでしょう」
「おお。それはよかった。ふっ。悪いなアース隊長。我が先を行くようだ」
「くッ」
お茶目な煽りのつもりだったが、地面を蹴って本気で悔しがるアースを見て「……ごめん。冗談だ」と素直に謝れる元魔王だった。
「族長様。一つだけ質問よろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
クルーシュが滝に入る前にシス王が尋ねた。
「実は彼、人間ではありません」
「え?」
驚いてクルーシュを見る。
「た、たしかに鎧姿は奇妙だと思っていましたが……まさか」
「はい。魔物です。伺いたいのはそのことです。この審判の滝は魔物でも問題なく通過できるのでしょうか?」
リファラは首を横に振った。
「ダメです。審判の滝は強者のみを通しますが、もう一つ条件があります。それが人間の魂を有すること。透明の水は聖なる力を宿しているのです。魔物は消滅してしまうでしょう」
「なんだと。では我も不合格ということか」
「はい」
「そうか。すまんな王よ。我も力になれなかったようだ」
「そう……ですか。またしてもダメなのですね」
落胆するシス王。
あまりに落ち込んでいるものだから、慰めの言葉すらかけることができなかった。
「……帰りましょう。長居は無用です」
四人は審判の滝を離れ、集落に向けて暗い森の中に入った。
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