第29話 白銀の鎧
「到着です」
ペクスビーを出てから三時間。
木々が無数に乱立する風景が突如開けた。
月明かりと光虫の光に照らされた空間。
周囲の木々よりも数段高い一本の大樹を中心に、丸型のウッドハウスが点在する小さな集落だ。
「神秘的な場所だな」
「森憑族の村です」
「どういう人たちなのだ?」
「カーリフィア大森林で独自の文明を持つ人々です。人間の希望は彼らの管理下にあるのです」
シス王を先頭に大樹の足元にある大きなウッドハウスまで移動し、ゴルから降りる。
ベルを鳴らすと、すぐに扉が開いた。
「そろそろ来ると思いましたよ。人間の王」
新緑の葉を練り込んだような髪色の女性。おっとりとした顔立ちだが、男三人を前にして動じない精神的な強さを感じさせる。
「彼女は森憑族の長です」
「リファラといいます。あなたたちが今回の挑戦者ですね」
挑戦者? 首をひねるクルーシュだが、シス王は構わず続ける。
「はい。おっしゃり通りです。ではさっそく例の場所に案内してもらえませんか」
「承知しました」
リファラを先頭に再び暗い森の中に入る。
なにが待ち受けているのだろう。観光名所を散策している気分になってきたクルーシュは隣を歩くアースにウキウキで尋ねる。
「どこに向かっているのだろうな。楽しみだな」
「黙って歩け」
「冷たい……」
以後無言。
観光気分が一瞬で受刑者の行進のような気分に落ち込んだ。
それから数十分。
代り映えのない景色を歩いていたところ、ある変化に気付いた。
「水音……?」
川の流れる音、いやもっと激しい音だ。
進むにつれて音がだんだんと大きくなる。
どうやら目的地が音の発生源らしい。
「着きました」
再び開けた平原に出たとき、水音の正体が滝であることが分かった。
「これが審判の滝です」
「なんだこれは……」
クルーシュは目を疑った。
何もない平原に、透明の滝が空から落ちてきているのだ。その落下地点に滝つぼはない。水はまるで実体がないかのように地表をすり抜けている。
クルーシュだけでなくアースも口を開けて実体のない滝を見上げる。
「まるで天まで届く巨大な水柱のようだ」
「さあお二方。近づきましょう」
滝の側まで移動。
地鳴りのような激しい音が耳をつんざくが、滝特有の涼しさや質量感は感じられない。
リファラが説明を始めた。
「この滝は空から円筒状に降ってきています。イメージとしてはカーテンでしょうか。カーテンに囲まれた内側は空洞です」
「なぜこんなものが……」
「守るためです。人類の希望を」
ご覧ください、とリファラが滝の内側を指さした。
微かにぼやけるものの、滝の向こう側は十分視認することができた。
「これは……」
平原の真ん中。巨大な滝のカーテンの中心に鎮座していたのは、身を持たない鎧だった。
「これが人類の希望。白銀の鎧です」
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