第27話 スカイとアース、ルーゴとシス王、受け継がれる伝説


「憧れで言うと、私もシス王様に憧れているよ」


 コヨハがキラキラした目をシス王に向ける。


「私に?」


 自分を指さしてキョトンとするシス王。


「ですが私は戦闘経験などありません。父が早死にしたので王位を継承しただけの人間。憧れの的になるようなことはなにも……」


 謙遜するシス王をホランが持ち上げる。


「謙遜しないでください。王様は稀代の魔法使いの一族ではないですか。伝説の勇者スカイの仲間、ルーゴ様の曾孫なのですから」


 ルーゴ、という名前に聞き覚えがあった。


「私の憧れの人だよ。教官には洋館で話したよね」コヨハが答えた。「百年と少し前にスカイ様と一緒に魔王を討伐した最強の魔法使い。そしてその戦いで唯一生きて帰ってきた人だよ」

「スカイとやらは死んでしまったのか」

「ええ。魔王と死闘を繰り広げながらもあと一歩のところで息絶えたそうです。ですが、私の曽祖父であるルーゴ様が弱った魔王にとどめを刺しました。そして伝説のパーティーの生き残りとして人間界に帰還したルーゴ様は英雄として迎え入れられ、その功績を称えられて王位を授かったのです。以降、我が一族が王位を継承しているというわけですね」


 流暢に説明するシス王はどこか誇らしげだった。祖先の活躍をまるで自分のことのように喜んでいる。


「そうか。では百年前に新魔王と境界戦線協定を結んだのもルーゴというわけだな」

「そうなりますね」


 シス王はくすっと笑った。曽祖父と交渉した魔王が目の前にいることを知っているから。


 そんなことより! とシス王の魅力を語りたいコヨハが興奮気味に話を進める。


「ルーゴ様の血を継ぐシス王様は魔法のスペシャリストとして研究に励んでいるんだよ。中でも力を入れているのが死者弔いの魔法」

「死者弔い?」

「ええ。戦場では多くの兵士たちが死んでいます。しかし私は前線とは程遠い王都のお城で安全な日々を過ごしている。こんなことは許されません。せめて死者を安全にあの世に送り届ける役割を担いたいのです。ですので、日々公務の合間を縫ってアンデッド魔法を研究しているのです」

「シス王様は凄いよ! 亡くなった人たちを安らぎに導くために、才能のすべてを研究に割いているんだもん。私もルーゴ様のような強い魔法使い、そしてシス王様みたいな優しい魔法使いになりたいな」

「ふふ。あなたならなれますよ。きっと」


 優しく微笑むシス王。その体には魔王を倒した魔法使いの血が流れている。


(伝説の勇者スカイ。その仲間である最強の魔法使いルーゴ。スカイは最強の剣士アースの憧れとして現代に残り、ルーゴはその血筋を現代に残したというわけか)


 人間界には脈々と受け継がれる伝説がある。

 そのことを知ったクルーシュだった。


「少々長話が過ぎましたね。チームハンドレッドの無事を伝えたかっただけですので、私はこれで失礼します」


 シス王は敬礼するホランたちに手をあげて応えたあと、クルーシュの横を通り過ぎるときに耳元で囁いた。


「魔王様。今晩、あの洋館まできていただけませんか? 一人で」

「む」


 今、シス王が一瞬だけ何かを企てているような悪意ある表情をした気が。

 そう思って振り返ったが、そこにはいつもの穏やかな青年の顔。


「では、またどこかで会いましょう。チーム42番のみなさん」


 土道を歩く祭服の青年が丘の向こうに消えるまで、クルーシュは視線を送り続けた。

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