第25話 言い訳が苦手な元魔王 VS 純真無垢コヨハ


「……コヨハ。いつからそこに?」


 するとコヨハは長い銀髪を揺らして「い、今来たところだよぉ」と首を振った。

 しかしピュアなコヨハ。早口だし視線も安定しないし、明らかにパニック状態だ。


「……その顔、嘘をついているな。すべて聞いていたな?」

「えへへ。うん」


 観念するように頭を掻いた。


「でも、ほとんど聞き取れなかったよ。これは本当」

「じゃあ逆になにを聞いた?」

「……教官さんが魔王って呼ばれてたことだけは聞こえた」

「……」


 一番聞かれたくないところを聞かれてしまったようだ。


 このとき、クルーシュは脳内をフル回転させていた。

 生徒に魔王であることを知られてしまったら、もう人間界に留まることは許されない。

 こうなった以上、するべきことはただ一つ。事実を捻じ曲げる。自身が魔王ではないと言い張り、それを証明するのだ。


 つまり言い訳タイム。


 これまでのクルーシュを見ればわかるが、彼は嘘が苦手。だから通常なら会話を聞かれた時点で「クルーシュ=魔王」という図式は覆せないだろ。

 しかし、今回幸いだったのは聞かれた相手がコヨハだということ。人を簡単に信用してしまう透き通った心の持ち主。悪く言えば騙されやすい人。

 クルーシュでも誤魔化せるかもしれない。


 人をだますのが苦手な元魔王VS騙されやすいピュア少女。ファイト!


「コヨハは我が魔王に見えるか? 魔王ってもっと厳つい外見じゃないか?」

「うーん。少なくとも教官さんもそれなりに厳つい気が……。真っ黒な鎧だし、頭とか肩とかからトゲトゲ生えてるし」

「でも魔王が人間界にいると思うか? いないだろう。いるはずがない」

「普通はそうだけど、でも教官さんって優しいでしょ。魔王軍の部下の人たちから邪魔者扱いされて追放された可能性もあるから」

「そそそそんなマヌケな魔王がいてたまるか」

「だよね。でもでも、さっきの魔物は魔王って呼んでたよ。やっぱり教官さんは魔王じゃないの? 普通の人が魔王なんて呼ばれるわけないし」


 だめだ。コヨハはもう魔王だと信じて疑わない。やはりホワイトデビルに魔王と呼ばれたことが致命的だったようだ。


 いや待てよ。だったらその根拠を覆してしまえばいいのでは? ホワイトデビルの発言が根拠なら、そもそもホワイトデビルの発言が誤りだったことにすればいい。

 つまり。


「コヨハよ。お前は勘違いをしている」

「え?」

「ホワイトデビルが魔王と呼んでいたから我を魔王と思っているのだろ? だとするなら、そもそもあのホワイトデビルが間違っているのだ」

「どういうこと?」

「実は我、魔王とそっくりさんなのだ」

「え!」


 驚くコヨハ。

 苦し言い訳だと思いながら続ける、


「我は魔王に憧れていたんだ。だからまずは見た目からマネをしようと思ってな。魔王が漆黒の鎧姿だという情報を掴んだので、我も黒い鎧を身につけるようにしたのだ。だからホワイトデビルも外見がそっくりなので勘違いしたのだろうな。ははは」

「…………」

「…………」


 ダメか? と思ったそのとき、コヨハは胸の前で手を合わせて「わかるー!」と同意した。


「私もね魔法使いになったのは、昔の偉大な魔法使い、ルーゴ様に憧れたからなんだ。ローブが黒色なのもルーゴ様を真似しているの。やっぱり憧れの人がいると外見から似せたくなるよね。やっぱり教官さんと私は似た者同士だ」

「よくわかっているじゃないか!」

「よかった。優しい教官さんが実は魔王だったら、私もう何も信じられなくなるところだったよ」

「よし。その調子ですべてを信じるのだ」

「うん」


 屈託のない笑顔。

 苦し紛れの言い訳だったがチョロいコヨハには十分だった。

 クルーシュはホッと胸をなでおろした。

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