第23話 ミッション完了……?
一階では慢心が災いして触手に苦戦したものの、その後は順調に魔物狩りを進める。
魔物の気を引くホラン。精神を落ち着かせて冷静に対処している。
大剣を器用に扱うロッツ。一撃で触手を切断できるので臆病な彼には精神的な負担が小さい。
遠くから本体に向かって攻撃魔法を放つコヨハ。攻撃だけに集中しているのでパニックにならない。
数日前のグダグダだった連携が嘘のように、次々と魔物を倒していく。
その戦いぶりを後方で頷きながら眺めるクルーシュ。
「やはりメンタルが問題だったのだな。仮にも彼女たちはその世代のエリートしか入ることが許されない特別士官学校の生徒。才能も実力もあるのだ。ガドイルのせいで力を出せなかっただけというわけだな」
メンタルケアとちょっとしたアドバイスで上昇気流に乗った三人。
これなら最下位脱出どころか、本気で一位を目指せるかもしれない。生徒の成長に喜びを感じる元魔王だった。
「よし! ラストフロアだ」
「この勢いで行きましょう」
「がんばるぞぉ」
いよいよ五階。
成功体験の積み重ねで自信をつけた三人が意気揚々と先に進もうとする。
しかし階を進むごとに心に余裕が生まれていく三人とは正反対に、クルーシュの不安が募っていく。
「どうしたの? 教官さん」
甲冑に覆われた顔を覗き込むコヨハ。
「……このフロアは少し気を付けたほうが良い」
「なぜかしら?」
「強力な魔物の気配を感じるのだよ」
「チームハンドレッドが追っている上級魔物ってやつか」
「この殺気。相当強いな」
魔界に住んでいたクルーシュなら漂う魔力から魔物の強さを察知することなど容易。
(これは魔界でも縄張りのボスを張るほどの実力だ。いくら特士校のトップとはいえ太刀打ちできないだろう。チームハンドレッドに課題を中止するよう進言した方が良さそうだ)
ちょうどそのとき、背後から階段を上がる足音。
白い制服を身に着けたチャラい男とギャル女とメガネの男。
チームハンドレッドだ。
「おうお前ら。雑魚狩りは済んだか?」
「……あとはこのフロアだけよ」
「こんだけ時間かかってまだ終わってねえのかよ。しょうがねえなあ。このフロアは俺たちが全部やっておくから、雑魚どもはさっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってな」
ぎゃはは、と下品に笑って廊下を進もうとするアリアーノ一行。
「ちょっと待て」
クルーシュが立ちふさがる。
「なんだよ。鎧男」
「どうもお前たちが追っている魔物は尋常でないほど強い気がする。おまえたちでは勝てん。おとなしく引き返すべきだ」
「はぁ? 俺たちが負ける? なに言ってんだおっさん」
「そーよ。うちらに嫉妬するのは勝手だけどさ、嘘ついて足引っ張るなんてサイテー」
「最下位チームの教官の忠告なんぞ誰が信じましょうか。さあ、行きますよ」
クルーシュを押しのけて進む三人。
その背中を呆れた目で見送るチーム42番。
「なにあの態度! せっかく教官が忠告してあげたのに!」
「まあいいんじゃねえか。俺たちの分までやってくれるみたいだし」
「早退だね! 帰ろう! 教官さん」
階段を下りる生徒たち。しかしクルーシュはすぐに動かない。
「いくら生意気とはいえ、まだ子供だ。見捨てるわけにはなあ」
「本人たちが大丈夫だって言ってんだから大丈夫だろ」とロッツ。
「それに、悔しいけどチームハンドレッドは強いわ。銅級兵よりも上かもしれない。上級魔物が相手でも勝てると思う」
「いやしかし、ここに住み着いているやつは上級魔物でもかなり強いほうだぞ。そうだな。以前に戦った聖騎士団第二隊長に匹敵するレベルかもしれない」
「え? セリフィア隊長と戦ったことがあるの?」
失言に気付いたクルーシュは慌てて言い訳する。
「あ、いや! 以前稽古をつけてもらったのだ。まあ勝負にならなかったが」
「そうよね。わたくしが憧れるセリフィア隊長だもの。クルーシュ教官の強さは認めるけど、さすがにセリフィア隊長には敵わないわ」
「あ、ああ……」
圧倒したのはクルーシュ側なのだが、目を輝かせるホランの前ではそんなことは言えなかった。
なおも三人に促されたクルーシュは渋々階段を降り始めた。
そのときだった。
「うぁぁぁぁぁ!」
洋館中に響き渡るほどの大きな悲鳴。出処は言うまでもなく五階から。
「言わんこっちゃない」
「教官さん。どうするの?」
「助けに行く。お前たちは先に外に出ておけ。ここから先は危険だからな」
生徒たちを逃がしてから、クルーシュは急いで廊下を駆ける。
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