第22話 触手が現れた! 女性陣が拘束されてしまった! ロッツのやる気が上がった!


 廃墟ホテルの静まり返ったエントランス。

 当然電気は通っておらず、窓から差し込む光だけが頼りの薄暗い空間。歩くたびに床がギシギシ音を立てる。


「あれ? 魔物いないよ?」


 寂れたエントランスを見渡すコヨハ。


「いや、魔物の気配は間違いなくあるな。廊下や客室にでも潜んでいるのだろう。注意して進むぞ」


 陣形を組む。

 先頭には不意打ちでも対処できる守りのスペシャリスト・ホラン。最後尾に警戒心の高いロッツ。間に挟まれる形でコヨハ。手を出してはいけないクルーシュは三人の後方からついていく。


 赤い絨毯が敷かれたロの字の廊下を回りながら、廊下の両側に並んだ客室を一つひとつ調べて回る。

 客室の造りはどの部屋も同じだ。扉を開けると廊下があって、横に浴室、奥に寝室があるだけ。ただしカーテンやベッド、壁掛けの朽ち具合は様々だが。


「なによ。ぜんぜんいないじゃない」


 最初は慎重に部屋に入っていたホランだが、魔物が一向に姿を見せないので、徐々に雑になっていく。


「ホラン。もう少し慎重に」

「大丈夫よ。どうせ一階にはいないのよ」


 ラスト一部屋。ここを調べれば一階の調査が終わる。


「さあ。さっさと調べて二階に行きましょう」


 まるで自室に入るような軽い足取りで中に入り、コヨハ、ロッツもそれに続く。最後にクルーシュが遅れて入ろうとしたとき、魔物の気配に気づいた。


「気をつけろ! 魔物だ!」

「え?」


 声をかけたとき、すでにホランとコヨハは寝室まで侵入していた。


 直後、無数の触手が二人の体に絡みついた。


「んな!」

「きゃあ!」

「ホラン! コヨハ!」


 とっさに触手を断ち切ろうとしたロッツだったが、さらなる触手が待ち受けていたので迂闊に近寄れない。


「くッ! 離しなさい!」


 力づくで拘束を解こうとするホランだが、四肢に巻き付いた二の腕ほどの太さの触手は力強く、びくともしない。


「だめだ……抜け出せないよ」


 全身ぐるぐる巻きのコヨハ。宙に浮いた足をバタバタさせているが、か弱い彼女ではどうしようもない。


 なおもあがく二人だが、


「んッ!」


 嬌声が上がった。

 触手が器用に服の中に入り込んだのだ。襟、袖の隙間、スカートから。

 まさぐるような動きが服の上からも見て取れる。


「ヌルヌルしてるんだけど……」

「き、気持ち悪いよう……」


 触手の分泌液が肌に付着して、お腹、鼠径部を伝って太ももに垂れてくる。ひんやりとした感触とイヤらしい動きの触手に、ふたりは抵抗を諦め、紅潮して身をよじらせることしかできない。


「…………」

「なにをぼーっとしている! ロッツよ、早く助けるのだ」

「……あ、すまん。ついこの瞬間を目に焼き付けたくて」


 思春期の男子の顔から戦士の顔に戻る。大剣を構え、行く手を遮る触手に斬りかかった。


 しかし大剣に慣れていないロッツ。室内にもかかわらず頭上から振り下ろそうとしたことで、剣先が天井に引っかかってしまう。


「やべっ!」

「落ち着くのだ。振り回すのではなく、突きで戦うべし」

「了解」


 アドバイスを受けて冷静になったロッツは大剣を鋭く突き出して触手を切断する。


 するとベッドの陰から本体が現れた。

 人間大のタコのような魔物。


「むむ。野生魔物か。こいつは会話が通じないな」


 魔物には二種類ある。意思疎通が図れる知的魔物と、本能の赴くままに行動することしかできない野生魔物。両者の関係は人間界でいうところの人間と動物。

 知的魔物であれば対話で解決することも考えていたが、野生魔物は元魔王だろうが容赦なく襲い掛かってくる。無駄な殺生は避けたいクルーシュではあるが、ここは戦う以外に選択肢がないようだ。


「ロッツよ。この魔物は遠くにいる敵を認知する能力が低い。だから距離を取ったまま息をひそめ、機を見て一気に距離を詰めて倒すのだ」

「おっけー」


 腰を落とし、剣先を魔物に向ける。呼吸を落ち着かせ、動きを止める。

 タコ型の魔物はじっとロッツを見つめている。

 静かに見つめ合う両者。

 ホランとコヨハの淫靡な吐息が室内を支配する。


「……ぁ」


 触手が下着の中に入ったとき、ホランが湿った声を上げた。その声につられて魔物がホランを見た。


 今だ!


 床を蹴るロッツ。重い大剣を全力で突き出した。

 反応が遅れた魔物の頭を貫く。


「プギュリャァァァァァ!」


 頭部が真っ二つに裂けた魔物は魔粒子となって消失した。


 クルーシュは触手から解放されて床に倒れた二人に駆け寄る。


「大丈夫かふたりとも!」

「え、ええ……なんとか」

「うえー。ヌルヌルするよぉ。お風呂行きたいんだけど」

「うむ。不快感だけで済んでよかった」

「……ああ。よかったよ。ほんとうに」


 しみじみと頬を緩ませるロッツだった。



 クルーシュが水魔法でぬめりを洗い流してから次の階に進む。

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