第16話 クルーシュ教官 VS 最弱チーム  最弱が最弱たる所以


「さあ。どこからでもかかってこい」


 夕暮れの平原。膝まで伸びた草に長い影がかかる。三つの影は固まっていて、そこから少し離れた位置に一つの影がある。


「なあホラン。クルーシュ教官はどれくらい強いんだ?」

「少なくともガドイルよりは強いわ」

「そんな人に私たちが勝てるわけないよぉ」

「安心しろ。我は攻撃しない。動くサンドバッグだと思って思いきりこい」


 三人の動きを間近で見ることが目的だ。各々武器を持つ生徒三人に対してクルーシュは手ぶら。


「怖気づいていても始まらないわ。やりましょう」


 ホランの号令でようやく配置につく。


 まずクルーシュと相対する位置に体を覆うほどの大きな盾を持ったホラン。その後ろに小剣を持ったロッツ。そこから少し離れた位置に、制服の上から黒いローブを羽織ったコヨハが魔状を構えている。


「さあ来い!」


 クルーシュの掛け声と同時に、ホランが盾を構えながら距離を詰めてきた。


(突進? いや違うな。これはブラフ。大きな盾で我の視界を塞いで、横からロッツに攻撃させるのだろう)


 予想通り視界の端から飛び出して来たロッツ。小剣を振り下ろす。

 カンッと甲高い音。

 鋭い斬撃を目視することなく左の肘あてで止めた。

 本来ならここでがら空きの体に強烈な一撃をお見舞いするところだが、稽古なので右手で軽く押しのけるだけ。


「うわっ!」


 よろめくロッツ。すかさずホランが二人の間に入る。ロッツへの追撃を防ぐ素晴らしいカバーだ。


「コヨハ! 盾強化して!」

「う、うん!」


 ホランの指示に従い魔杖をホランに向けるコヨハだったが、


「ちょっと! これ回復魔法じゃない!」

「ご、ごめん!」

「ロッツも! 早く次の攻め!」

「わかってるって!」


 ロッツは最初の攻撃と同じように視界の外からの急襲を目指すが、クルーシュには通用しない。またしても防がれる。


「ちょっと! 動き鈍くない?」

「だって腹が痛えし……」

「だったらコヨハ! ロッツに強化魔法!」

「強化だね。えっと、どうしよう。剣の威力を上げたほうが良いかな? 足の素早さを上げたが良いかな?」

「自分で判断する!」

「ごめん! それじゃあ足を軽くするね!」

「む? 鎧が身軽になったぞ?」

「おいコヨハ! 教官を強化してどうするんだ!」

「ごめんなさい!」

「あーもう!」


 噛み合わない連携に苛立ったホランが単身で突撃を仕掛ける。もちろん守り特化の盾役の攻撃が元魔王に通用するはずもなく。小指で押し返され、背中から倒れた。


 腹痛で動きが鈍い剣士。自信を失い攻撃をやめてしまった。

 短気なタンク。無茶な攻撃で息が上がり、立ち上がることができない。

 適切な判断ができない魔法使い。また叱られるのではと怯えている。


(思った以上に悪いな……)


 わずか数分の手合わせで露呈した三人の欠点。ガドイルやサージェス校長から馬鹿にされていたチーム42の現状を理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る