第15話 欠点だらけのチーム42番


 自己紹介を終えたところで、クルーシュはさっそく稽古を提案した。


 対してロッツとコヨハの反応は明確に悪かった。


『…………』


 稽古。その言葉を聞いた途端、全身に緊張の色を浮かべた。目は泳ぎ、落ち着きなく手遊びを始める。


「も、もうすぐ陽が落ちちゃうよ? やめたほうがいいんじゃないかな」とコヨハが言えば「そうだよ。夕食の時間だぜ? 支度しないと」ロッツも続く。


「いや、大丈夫だ。すぐ横の草原で我と一戦交えるだけ。10分とかからんよ」


 ふたりが明らかに動揺しているのは目に見えているが、教官としてはいち早く生徒の特徴を掴み、今後の指導方針を固めたい。譲れないところ。


 なかなか立ち上がろうとしない二人に「どうした? 急いだほうが良いぞ。外が真っ暗になったら保護色になった我の姿が視認できなくなってしまうからな。はっはっは」冗談を交えながら急かした。


 最初に立ち上がったのはロッツ。ただし意を決したわけではなく、


「わ、わりぃ! 急に腹痛が……!」


 お腹を押さえながらリビングを飛び出しトイレに直行。汚い排泄音がリビングにまで響き渡る。


「私! 部屋から魔杖取ってくる!」


 今度はコヨハが勢いよく立ち上がった。が、その拍子に膝をローテーブルにぶつけてしまい、テーブルの上に置かれていたコップが倒れてクルーシュの足に水がかかる。


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「そんなに謝る必要はない。ちょうど鎧が汚れていたところだし、むしろ助かったぞ」


 フォローを入れ、ホランから手渡されたハンカチでふき取る。

 コヨハは十回ほど頭を下げてから部屋を飛び出した。

 突然のドタバタに呆気に取られていると、ホランが大きなため息をついた。


「これがわたくしたちの現状よ」


 組んだ足が小刻みに揺れている。苛立ちが見て取れる。


「緊張するとすぐに下痢になるロッツ、焦るとドジするコヨハ。そしてその二人を見てイライラを抑えられないわたくし」

「なんとも個性的なメンバーだな」

「普段はここまでひどくないのよ。落ち着いた環境では何も問題ないわ」

「稽古、という言葉にひどく反応していたようだが?」

「前教官の顔を思い浮かべたら理解できると思うわ。ただでさえプレッシャーに弱い二人がガドイルのパワハラ的指導を受けたらどうなるか、教官なら分かるでしょ」

「崩壊するチームが目に浮かぶな」


 ホランは「その通りよ」とため息交じりに頷いて、


「ガドイルの威圧的な態度のせいでロッツはトイレに籠りがちだし、命令口調で指示されたコヨハは魔法を間違える。ことあるごとに暴言を浴びせられたわたくしは頭に血が上って周りが見えなくなる。結果、連携なんてままならない。下級魔物相手にも苦戦するヘッポコチームの誕生ってわけ」


 貧弱なメンタルとパワハラ指導は相性最悪。自分たちは入学時よりも弱くなった、とホランはため息交じりに言った。


(この様子だと精神面のケアも必要だな。落ち込んだメンタルを上向きにさせないと)


 拠点を出て、夕空の通りを歩きながらプランを練るクルーシュだった。

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