第二章 最弱チームの成り上がり

第14話 ロッツとコヨハ


 ガドイルを倒し、拠点に戻ったクルーシュとホランは二人並んでリビングのソファに腰を下ろしていた。

 なにをしているのかというと、すでに帰宅していた残りのチームメイトに挨拶をしているところである。


「紹介するわ。こちら、今日からわたくたしたちの教官になったクルーシュ教官よ」

「クルーシュだ。よろしく頼む」

「「………………」」


 橙色のランプの下で、対面に座る制服姿の男女は口をポカンと開けていた。


 そりゃあそうだ。リーダーが帰ってきたと思ったら謎の黒い鎧を連れてきて、しかもそいつが新しい教官だと言われたら誰だって困惑する。


 チームメイトの二人はクルーシュを視界に入れないようにしながらリーダーを諭す。


「なあホラン。ヤバくないか? こんな胡散臭い人を招き入れて大丈夫なのか?」と黒髪の男子生徒。

「教官のなり手が見つからなくて、道端に落ちていた鎧を魔法で操って教官に立てているんだとしたら、それはダメだよ。ちゃんとした教官さんを見つけないと」と白銀の髪の女子生徒。


「あんたたちねえ……」


 散々な言われように、苛立つホラン。


「安心したまえ。我はちゃんとサージェス校長に採用され、チーム42番を任された身だ。全身全霊でお前たちを鍛えていくぞ」

「つってもなあ。顔すら見せてくれない人を信用しろと言われても……」

「だが顔を見せてもガドイルのような教官だっているぞ。ならば逆に顔は見せないが優れた教官だっていても不思議じゃないと思わないか? ロッツ君」

「え? なんで俺の名前を」


 男子生徒は驚いてクルーシュを見る。

 クルーシュは得意げに続ける。


「ロッツ・トムルソン。剣士。チーム42の矛。中肉中背の体格にしては俊敏性に優れ、一撃よりも手数で勝負するタイプ。スピード型というわけで扱いやすい短剣を使用する」

「……へえ。よく知ってんな」


 感心するロッツ。

 今度はおっとりした喋りの女子生徒が手を挙げた。


「それじゃあ私のことも知ってるの?」

「もちろんだ。コヨハ・レミー。小柄な体、温厚な顔立ちを見ればわかる通り近接戦闘が苦手。一方で魔法が得意で、魔法専門の後方支援担当している。攻撃魔法、防御魔法、回復、補助、妨害、あらゆる魔法をバランスよく使えるオールラウンダーだが、特に補助魔法が得意なのだろう?」

「わあ。よくわかってる。ロッツ! この教官さん本物だよ!」

「……お前、お菓子くれたおじさんにホイホイついていくタイプだろ。気をつけろよ」

「ロッツは教官さんのことまだ疑ってるの?」

「いや、まあ、少なくとも悪い人じゃなさそうだとは思うけど」

「じゃあ受け入れるんだね?」

「……まあな。どうせここで喚いたところで他に候補はいないんだし。つーわけでこれからよろしく頼んます。教官」

「うむ。それでいい」


 いかにもチョロそうなコヨハはともかく、疑り深そうなロッツまでも歩み寄る姿勢を見せた。


 良い傾向だ、とクルーシュはほくそ笑む。


 なぜクルーシュが初対面の生徒のことを知っていたのか。

 なんてことはない。王都からの帰り道、ホランから二人の情報を聞き出しただけ。

 だがこれが肝心なのだ。


(上司たるもの、初対面の部下の情報は自己紹介される前に把握しておくべし)


 上司と部下の関係は最初の顔合わせで決まるといっていい。師弟関係となるか、顔も見たくないほどの犬猿の仲となるか。第一印象次第で上にも下にも振れてしまう。

 会う前から情報を揃えるほどの歩み寄る姿勢を見せれば、親しみやすい上司という印象を与えることができる。その後の関係も良好になりやすいのだ。

 魔王軍時代から意識している上司論である(※四天王に造反されたことは秘密)。


(この調子で生徒たちの心を掴んでしまおう)


 親しみやすいイメージを与えた次は、頼りがいのある教官というイメージを与える。

 クルーシュは次の手を打った。


「ではさっそくだが、これから稽古をつけよう」


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