第6話 鎧姿で採用面接を受けるのは非常識らしい
聖騎士団特別士官学校の校長室に案内されたクルーシュとリノ。
「あと五分ほどで校長が戻りますので、それまでそちらのソファにかけてお待ちください」
王城の客室ほどではないにしても煌びやかな校長室。木製のテーブルを挟む形で配置されている牛革のソファに腰を下ろした二人は、ひそひそ声で話し合う。
「クルーシュ様。手に職をつけるのは大事ですけど、さすがに人間の、しかも士官学校の教官というのはマズくないですか? 完全に魔王軍に喧嘩売ることになりますけど」
「指導だけだし大丈夫だろう。直接戦うわけでもないし」
「それに元魔王ってバレたら大変なことになりますよ。せっかく私たちがやりやすいようにシス王が粋な計らいをしてくれたというのに」
シス王はふたりが魔物であることを隠すことにした。
「いくら友好的とはいえ、敵軍の元トップを招き入れたとなれば騎士団が混乱してしまいます。幸いなことにお二人とも人間と同じフォルムをしている。隠し通すことは可能でしょう」
ふたりの正体を知っているのはシス王と王城警護隊長セリフィアだけ。
士官学校の校長には知らされていない。
「校長にバレたら大騒動に発展しますからね。絶対にバレたらだめですよ」
「ああ。わかっている」
「待たせて悪かったな」
扉が開き、メガネをかけたスマートな男が姿を見せた。
「君が特別士官学校の教官を志望するクルーシュ君だ……ね?」
校長は漆黒の鎧に包まれたクルーシュを一瞥して言葉を詰まらせた。
「……職業柄、採用面接は何度も経験しているが、こんなふざけた格好でやってきたヤツは貴様が初めてだ。舐めているのか?」
「いや、これが我の本体だ。我は魔界の奥深くに眠る伝説の鎧に大量の魔力が注ぎ込まれたことで」「これはですね! 深い訳があるのです! ええっと……そうだ! クルーシュ様は昔、街を歩いていたら武器屋の店頭に置いてあった黒い甲冑に興味を示し試着してみたところ、奇跡的なレベルでフィットしたのです。肌に合うという言葉がありますが、この場合は肌に癒着する、といったところでしょうか。結果脱げなくなってしまったのです。以来ずっとこの姿です」
「とんだマヌケじゃないか。風呂入れないじゃないか。臭そうだ。今すぐ追い返したい気分だよ」
「な! 不採用ということか?」
「そうしたいところだ。だが……」
校長は不満げに対面のソファに座り、
「理由はわからんが、王からお前を教官として雇うよう言われている。王の命令に背くわけにはいかん。顔すら見せない非常識な男だろうと採用だ。おめでとう」
「ふう。助かった」
リノは安堵した。
校長はため息をついてから話を続ける。
「私の名はサージェス。特別士官学校の校長だ」
「そういえば気になっていたのだが、特別士官学校とはなんだ? ふつうの士官学校とは違うのか?」
「そんなことも知らずにここに来たのか。王はこんなやつを送り込んでなにを考えているんだ?」
クルーシュ株は下落の一途。
「まあいい。愚かな鎧男に教えてやろう。まず士官学校とは、聖騎士団の兵士候補生を鍛える育成機関だ。王国の各地に存在する」
「魔王軍の養成学校と同じようなものですね」
リノが小さな声で呟いた。
「そして特別士官学校とは士官学校の上位版。各地の士官学校で優秀な成績を収めた選りすぐりのエリートを一か所に集め、競い合わせることで最強の兵士を生み出す場所だ」
「最強ねえ」
「聖騎士団くらいは知っているだろ。第一隊強襲、第二隊王城警護、第三隊前線防衛、第四隊治安維持。それらの部隊の隊長クラスを排出することが特別士官学校の目的だ」
「ああ。あの勇敢な赤髪の女子《おなご》か」
クルーシュは城前広場での戦闘を思い返した。
「セリフィア王城警護隊長だな。彼女はここ特士校でも圧倒的な成績を残した。卒業して数年で隊長まで上り詰めた天才だ」
「クルーシュ様に手も足も出なかったあの人間が?」
「ん? なにか言ったか?」
「いえなにも! そ、それより! 私たちはこれからどうすればいいのですか? 大勢の生徒の前で魔法の講義でもすればいいんですか?」
「本当に何も知らずに来たんだな。いよいよ王に逆らってでも不採用にしたい」
眼鏡をクイッと上げてから、サージェスは手元のファイルから三枚の写真を取り出し、ふたりの前に差し出した。
「これは?」
クルーシュがサージェスの顔を見る。
サージェスはほくそ笑んで、
「この三人が貴様が担当する生徒だ」
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