天の川に願いごとを 7
調理なしのカフェを行う厳しさを知ることになったのは、カフェメニューを考える時だった。
個包装のデザートにも、焼き菓子やゼリー、あられ、金平糖くらいしか選択肢がないようだ。私もいろいろ調べてみたけれど、星型のせんべいくらいしか思いつかなかった。
「おまんじゅうやお団子くらいないと……」
「大福も冷凍品があるっぽいよ」
「あっ、琥珀糖もあるって!」
渡會さんと武藤さんが、発言者のところにそれぞれ確かめに行く。届け出を出せばいけるかも、と聞こえてきた。
クラス中からメニューの案を集めて、焼き菓子やゼリーなどの洋菓子や、あられ、金平糖、まんじゅうといった和菓子に琥珀糖までバラエティ豊かなお菓子が黒板に書き加えられる。この中から3つ手を挙げて、多かった順にメニューにしていくことになった。
「じゃあ、この中から5つ案を決めていきたいと――」
「ちょっと待ってください」
手を挙げたのは、美羽音だった。渡會さんがむすっとしながら、続きを促す。
美羽音は立ち上がった。
「和菓子は1つまでにしてもらえませんか。
茶道部のお茶会と、かぶってしまうので」
言い終わってから、美羽音は下を向いて、静かに椅子に座った。
「でもさ、菊池さん」
田代さんが美羽音の方を向く。
「七夕カフェとお茶会、全然違うものじゃない?」
「え……」
「だって、茶道とカフェじゃ、雰囲気とか別物でしょ」
何か言おうとする美羽音より先に、クラスの人たちがうなずいたり、そうだよね、とつぶやいていたりして、問題なし、という流れになっていく。
このままでいいんだろうか、と考えあぐねているところで、前のほうの席から、すっと手が挙がった。なんと、星野さんだった。
「私からもいいですか」
「何ですか」
渡會さんが露骨に嫌な顔をして、星野さんに聞き返す。クラスのみんなも辟易していたようだけれど、私は固唾をのんで星野さんの話を待った。
「七夕は平安時代から行われている由緒ある日本の行事です。が、桃の節句には桜餅、端午の節句には柏餅、というように、行事の供え物としてのお菓子というのは、季節や風習、願いなどが結びつけられています。
和菓子なら七夕っぽい、というのは安直ではないでしょうか。そもそも有名な七夕伝説は中国が起源ですし」
「なら、代案は?」
武藤さんが聞くと、星野さんは「すみません、そうめんくらいしか知らないものですから」と、ちょこんと頭を下げて、腰を下ろした。中国と聞いて、月餅くらいしか思いつかなかった私は、また恥をかくくらいならと言うのをやめた。
「あ、でも、浴衣とか着れば? 七夕っぽくない?」
誰かが言い出して、それいい! とはやし立てられる。美羽音から血の気がなくなっていくのに誰も気づかない。
「じゃあ七夕カフェで出すメニューを多数決で決めていきます。いいと思ったもの3つに、手を挙げてください」
美羽音は、ドーナツ、クッキー、チュロスに手を挙げた。
星野さんは、マドレーヌ、金平糖、団子を選んでいた。
私は、ゼリーと金平糖と、自分で考えていたあられにした。
「……誰か3人手を挙げてなくない?」
最後までいくと、黒板に書いた正の字を数えていた武藤さんが首をかしげる。出席者の人数を数えながら、うちらだ、と渡會さんが笑い出す。自分たちで数を足すと、美羽音の方を向いた。
美羽音はちゃんと手を挙げていました、という前に正の字が消されて、もう1回投票が行われることになった。
2回目は、チュロスとゼリーと琥珀糖が1票ずつ増えて、カフェメニューはチュロス、ゼリー、まんじゅう、お団子、琥珀糖に決まった。琥珀糖が出せなかったら、6番目に多かった金平糖に変更するらしい。
美羽音は青白い顔をして、結果を眺めていた。この後決めたドリンクも、緑茶、ミルクティー、サイダー、オレンジジュースを出すことになった。美羽音は呆然と、緑茶、と口を動かしていた。
じゃあ、これで出しちゃいまーす、と締めてLHRが終わる。様子を自席で見ていた織田先生は、目を細めてクラス中を眺めていた。
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