特別な2人組 8
約束通り、授業が終わってすぐに星野さんの席に飛んでいった。どうすればいいのですか、と星野さんはスマホ片手に聞いてくる。
「F組の中で誰かに招待してもらわなきゃいけないんだけど、F組の中でリモンのともだちはいる?」
「いえ」
「なら、私が入れるよ。まず私をともだち申請してくれる?」
どういうことだかわかっていなさそうな星野さんに、操作方法だけ教えて私をともだち登録する。後は承認して、ルームに入れるだけだ。
「クラスと女子と両方に入れておいたよ。あとはここを……」
星野さんがクラスのルームとクラスの女子だけのルームに入ると、一斉にあちこちで通知音が鳴る。ちゃんと入れたようだ。
「あと1コマでお昼だねー。
そういえば、お昼とかどこで食べてるの?」
「いろいろです。家庭科室の前とか、非常階段の入り口とか」
そんなさみしい場所で? もしかして1人で?
とは聞けなかったので、「寒くない?」と変な相づちを打ってしまった。
星野さんも星野さんで、「寒いといえば寒いですが……」と真面目に答えてくれてしまう。
「花壇が見えたりします。それから鳥とか」
「へえ、鳥」
カラスに食べようとしたパンを奪われた思い出などよみがえる。
「私のこと、1人の寂しい子と思ったり?」
あまりに顔に出てしまったのか、星野さんが怪訝そうに聞いてきた。
「違う違う! ええと、鳥にパン盗られたの思い出しただけ」
「……そうですか」
納得しているようではなかったが、それ以上は追求してこなかった。ああ、なんか嫌な人だと思われたかなあ。
アイカー、と後ろから瀬那と美羽音が声をかけてきた。
「有言実行、星野さん入れたんだ」
そうなんだよ、とうなずくと、「そもそもスマホ持ってたんだね」と美羽音が星野さんのスマホをのぞき込んだ。
「ええ、まあ」
4人のスマホが一斉に鳴る。全員確認してみると、”おー星野さん!” ”よろしくー”など、星野さんを歓迎するメッセージが流れてきた。
「これ、一言返信しといた方がいいかもね」
瀬那の助言に、星野さんは”みなさんよろしくお願いします”と打ち込んだ。
「入ってくれたんだねえ」と田代さんたちもスマホ片手に集まってきて、私たちを取り囲む。男子がこっちを見て、よくわからない大騒ぎを始めた。
ポンポン飛んでくる通知を眺めながら、ルームにみんなが入った時もこうだったな、と大昔でもないのに感傷に浸る。やっぱり、トラブルを避けるためだなんて後ろ暗い理由なのはもったいない。すぐに先生が入ってきたので通知がやんだのもあり、そのときはのんきなことを考えていた。
昼休みになると通知の波が再びどっと押し寄せてきた。瀬那のこめかみがピクピク動くのがわかるくらいに。
「もう確認しなくていいと思うよ。どうせ星野さんに対してか馬鹿騒ぎしたいだけのメッセだろうから」
美羽音はスマホをお弁当のバッグに放り込んで、お弁当のご飯を頬張っている。
「でも気になるんだもん」
「クラスのルームだけミュートにしとけば? うちみたいに」
「どうせ他のところからも聞こえてうるさいし」
「でもそんなんでトマトの汁飛ばしたらバカみたいだよ」
箸でブスリとミニトマトを突き刺しながら食べている瀬那を正面に、私は鳴り止まないスマホの画面を眺め続けている。
「アイカもご飯の時くらいスマホ置きなさい」
「美羽音、お母さんか」
2人でコントやってる間も、ピポンピポン、ブブッ、シュッ、など、教室のあちこちで通知音が鳴り響いている。
星野さんからのメッセージはない。今日も教室の中にはいない。
私は立ち上がった。
アイカ? と2人は困り顔で見上げる。
「もしかして1人で大量の通知に困ってるのかも」
広げたお弁当をしまい直して「ちょっと行ってくる」と教室を出た。「アイカ!」「当てはあるの?」と声が聞こえる。
当てなんかない。この広い校舎の中を、縦横無尽に探し回るだけだ。
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