特別な2人組 6
座席表でリモンのメンバーを照合していくと、1人だけルームに入っていない人がいた。
星野千弦。あの日の体育で初めて話したあの子。
騒ぎを聞きつけたのか、田代さんたちまで集まってきた。確かクラスリモンを作ったのは田代さんたちだ。
「クラスリモンに星野さんって入れなかったの?」
聞くと、あー、と田代さんはうなずいて、「入れてはないかも」と答えた。
「健康診断の時か何かで話しかけた記憶はあるんだけど、うやむやになっちゃってね。で、みんな友達の紹介とかで入ってくれたから全員入ったものだと思ってたけど」
確かに、入学式翌日からクラスリモン作ったから、と田代さんに入れてもらった後、私が瀬那と美羽音を招待したような気がする。
「でもねえ、今となってはもういいかなって思うの」
田代さんは、スマホを持つ手を下ろした。
「あの子昼休みとか誰かと話しているのを見たこともないし。スマホをいじっているところも見たことないから、もしかしてスマホ自体持ってないのかもね」
田代さんの言うとおり、スマホを持ってなければリモンも使えないけれど。
「でも、その辺から一応確認した方がいいんじゃない?
ほら、体育の場所とかだってリモンで連絡することだってあるし」
「口頭で言ってるけど」
急に窓際から大声が飛んできた。すぐに一番後ろの自分の席にいる渡會さんだとわかった。お昼を食べていたらしい渡會さんは、こちらをにらみつけていた。背が高いからだろう、座っているにも関わらず渡會さんが際だって見えた。
「あ、ごめん例えばの話……」
渡會さんは私のことを無視してスマホをいじりだした。長い髪に隠れているが、不機嫌そうな顔が目に入る。体育係は渡會さんたちだ。やり玉に挙げられたと思って不愉快にさせてしまったのだろう。
傷つけてしまったのなら謝ろうとすると、「悪気があったわけじゃないのにね」と田代さんに肩をたたかれた。
「1人だからイライラしているのかも」と美羽音がささやく。教室を見回しても、いつも一緒にいる武藤さんや戸部さんはまだ戻ってきていないらしい。
「たださ、ぶっちゃけ言うと、授業の教室変更みたいな、授業や提出物なんかの大事な連絡をリモンなどのSNSだけで済ませるのは辞めた方がいいと思う。前日までに連絡するならまだしも、授業の合間とかは毎時間スマホを確認しない人もいるだろうし」
美羽音が続けて指摘すると、そーね、と田代さんたちは他のクラスメイトたちに向けて連絡を飛ばしたようだ。すぐに私のスマホにも、クラスからの通知が久々に届く。みんなの注目がスマホに集まるにつれ、田代さんたちはそのまま自分たちの場所へ戻ってしまっていた。
「そういえば武藤さんと戸部さんはどうしたの?」
「話が終わった後、あの2人だけまだ残されたの。私たちはすぐに教室に戻るように言われたから何も聞いてない」
美羽音に聞いた直後、「だるー」と声がする。武藤さんと戸部さんがちょうど戻ってきたところのようで、しかめっ面のままスマホを見つめていた渡會さんも、「おかえりー」と笑いあって、スマホの画面を見せ合っていた。渡會さんたちはよくSNSにダンス動画をあげたり、カフェやスイーツの画像を更新したりしている。今は新しくできたお店のドリンクで盛り上がっているらしい。
だけど、肝心の問題は解決していない。
星野さんに聞いてみよう。せめてスマホを持っているかだけでも。
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