特別な2人組 4
気持ちのいいくらい晴れ上がった青空の広がった次の体育は、柔道だった。今の体育は、外競技の陸上と内競技の柔道を男女交代で行っている。今日、男子はリレーをやるらしい。雨が降ってグラウンドが使えなくなると、この前のように体育館を使った授業になるのだ。
板垣先生が号令の後に欠席いますかー、と呼びかけると、どこからかオオヤさんが休みでーす、と返事があった。
前回までやっていた受け身の準備運動が終わると、せっかく2クラス合同でやっているのだから、と板垣先生は違うクラスの生徒とペアを組むように言った。
私はすぐさま
直央ちゃんとは同じ空手部で、実は中学校も一緒だったりする。私のようなバリバリの運動部体質の子たちの中で、直央ちゃんは1人ちっちゃくて、子犬を思わせるようなかわいらしい子だった。
けれどいざ部活が始まれば、そのかわいらしい見た目とは裏腹に先輩だろうが体格差があろうが次々となぎ倒す闘犬に豹変する。おそらく授業中でも手を抜くということを覚えないこの獰猛な狂犬を相手できるのは、1年F組の中には私くらいだろう。私の懸念をよそに、直央ちゃんは声をかけると二つ返事でペアを了承してくれた。
組ができると、板垣先生は戸部さんを連れてきて、前に立たせた。
「みんなー、戸部さんと私でお手本を見せるから、よーく見てるんだよー」
板垣先生は、戸部さんを寝かせると、横四方固めという技をやって見せた。それじゃあやってみよう、と実践に移る。
予想は的中し、この後私は容赦なく畳の上で締め上げられることになる。
板垣先生が手をたたいてみんなの視線を集めると、武藤さんをペアの戸部さんから容赦なく引き剥がした。
「みんなー、今度は武藤さんと私でお手本を見せるから、よーく見てるんだよー」
当の武藤さんは「何でですか」と唇をとがらせて文句を言っている。イヤです、と抗議するも、板垣先生は、それも構わず寝かせて、「はーい、まず、技をかける人の横で膝立ちになって――」と武藤さんにけさ固めをかけた。
2人組での実践に移るときに、板垣先生はそこの3人組ー、と呼びかけた。知らない子、たぶんC組の子、と瀬那と美羽音がけさ固めに取りかかろうとしていた。
「鈴鹿さん、と、菊池さんはF組だよね?
どっちか
的場さんはたぶん、C組の子だ。瀬那と美羽音は板垣先生に呼ばれてぽかんとしていたけれど、はい、と瀬那が前に出ていった。
不思議そうにその様子を見ていた私たちに、板垣先生は他の組は始めるように、と大声を張り上げる。
直央ちゃんにちょいちょい、とつつかれ、私たちも組み合いを始めた。
お返しのつもりでかなりきついヘッドロックを決めようとしたのに、さっきの光景をみたからか、力が入らない。
「どうかしたの?」
攻守交代したあの直央ちゃんも、マッサージ程度の力加減になっている。「何でもないよ」と答える。
「何もないわけないでしょ」
あっさり私から手を離した直央ちゃんは、受け身のために寝っ転がった。
「さっき名前を呼ばれた2人、アイカと同じクラスでしょ。
あ、そっか。今日みなみんが休みだから、C組の方が人数少なくてF組の人が余っちゃったんだ」
腕をとろうとして、余っちゃったんだ、という部分に引っかかる。
「みなみんがオオヤさん?」
「そう。
「今日の欠席は、みなみんだけ?」
「そうだよ?」
後ろから声をかけると、直央ちゃんは暴れることなく押さえ込まれてくれた。
「前回の体育の時って、C組って誰か休みの子とかいなかった?」
固めを解いた後に聞いてみると、「いなかったよ」と直央ちゃんは言った。
「前回の体育でもこうやって2人組を組んで、ストレッチみたいなのやったじゃん?
その日は、2人組しかできなかったけれど、本来は1つ3人組ができるはずなんだよ。ほら、スポーツテストの時も腹筋のとか1人先生が相手してたくらいだし」
スポーツテストの時の星野さんの姿がよぎる。長座体前屈の時の喝采は、お手本として見ていた時の記憶だった。
「ふむふむ」
「で、3人組ができなかったのは、C組にたまたま休みがいたから、2人組しかできなかったのかなあって思ったけど」
流れで直央ちゃんの番に回すと、出力120%の絞め技をかけられた。畳に転がされて、「おーい」と声上から声が聞こえる。
「アイカそんなこと気にしてるの?」
顔を覗き込まれて、うん、とかふうん、とかよくわからない返事をした。
「まあ、元々体育を何人でやってるかは置いといてもさ、一応、先生だって出席は確認してるじゃん?
前回は休みも見学もいなかったでしょ。C組にもF組にも」
確かに、授業が始まる時には、板垣先生は毎回欠席者がいないか、見学がいないかは聞いてくる。
「あの2人がF組同士なのにこっそり組んでいたのが許せない?」
そうじゃない。けど、「3人組だったよ、C組の子と」と言うのが精一杯だった。
「じゃあ、的場さんが余っているのに気づかなかっただけじゃない?」
直央ちゃんはどさくさに紛れて、まだ伸びて畳から起き上がれない私を背負い投げしてきた。
今日はまだやらなーい、と案の定、板垣先生から怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます